ローリング・ストーンズによる政治色が濃い名曲の背景

Photo: Mark and Colleen Hayward/Redferns

ザ・ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)が、18年ぶりとなる新作スタジオ・アルバム『Hackney Diamonds』を2023年10月20日に発売することを発表した。

この発売を記念して彼らの過去の名曲を振り返る記事を連続して掲載。

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1960年代前半のザ・ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)の作品に政治色はあまり感じられなかった。その時期に発表された数々のアルバムやシングルは、心と身体、そして魂について歌ったものがほとんどだった。

だが1968年にミック・ジャガーがロンドンでのベトナム戦争反対デモに参加し、アメリカやフランスでも同様の反対運動が起きているのを見た頃から状況は急変する。ミック・ジャガーのバンドメイトであるキース・リチャーズは以下のように語っている。

「俺たちの世代は爆発寸前だったんだ」

紙を切り刻み二人で作り上げた歌詞

その頃の市民による暴動は、ザ・ローリング・ストーンズの楽曲でも特にパワフルな1曲に影響を与えた。それは1968年のアルバム『Beggars Banquet』に収録された「Street Fighting Man」だ。

ミック・ジャガーはこの曲に当時の精神性を反映させ、「無血クーデター (a palace revolution)」を求めるとともに、のちにミックがデヴィッド・ボウイとカヴァーすることになるマーサ&ザ・ヴァンデラスのヒット曲「Dancing In The Street」の一節を借りて「夏が来た、街で闘うにうってつけの季節だ (summer’s here and the time is right for fighting in the street)」と歌っている。

スタジオでの制作過程においてミックはキースとアイデアを出し合い、一通り紙に書き出すと紙を切り刻んでそれを組み合わせた。「でも貧しい若者に何ができるっていうのか/ロックン・ロール・バンドで歌うこと以外に (But what can a poor boy do/except to sing in a rock ‘n’ roll band?)」という自嘲的な一節はおそらく同曲で最も有名な歌詞だが、これもふたりの共同作業から生まれたものだ。

レコーディング

一方でバックの演奏は、「Street Fighting Man」のレコーディングでバンドがオリンピック・サウンド・スタジオに入るずっと前から作られ始めていたといえる。その約1年前、キースは頭に浮かんだ理想のギターのトーンを探し求めていた。「乾いたキレの良いサウンド」と本人が呼ぶそのサウンドは、アコースティック・ギターにマイクを近づけて、登場したばかりのカセット・レコーダーに吹き込むことでようやく再現することができた。

また、小さいスーツケースで届いたアンティークの練習用ドラム・キットをチャーリー・ワッツが使ったことも同曲の演奏の鍵になった。大きなバス・ドラムの音で補強されてはいるものの、小さなドラム・セットのチープな音はミックの力強いヴォーカルやベースのバックにピッタリだった。

そこに楽曲を通して、ブライアン・ジョーンズによるシタールや、トラフィックのメンバーだったデイヴ・メイスンが演奏したインド音楽で使われるリード楽器のシャハナイの上品なサイケデリック・サウンドが絡み合っている。

発売当時の反響

「Street Fighting Man」は1968年8月、シカゴでの民主党全国大会でデモ隊と警官隊が衝突したのと時を同じくしてアメリカでリリースされた。そのため、中には更なる暴動に繋がることを恐れて同曲を放送しないラジオ局もあった。そうしたこともあって当時のチャート成績は振るわなかったが、徐々にストーンズの代表曲のひとつとして定着し、それ以降の多くのツアーでも披露されてきた。

2013年のウォール・ストリート・ジャーナル紙で、「Street Fighting Man」に関してマーク・マイヤーズから取材を受けた際、キース・リチャーズははっきりと同曲に関する記憶を好ましいものとして回想していた。

「構想をうまく実現できた曲なんだ。“Street Fighting Man”のレコーディングを終えてマスターを再生したとき、思わず笑顔になったよ。こういうレコードは作るのが楽しいんだ」

Written By Robert Ham

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最新アルバム

ザ・ローリング・ストーンズ『Hackney Diamonds』
2023年10月20日発売

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