新井順子プロデューサー「下剋上球児」インタビュー――「単なる甲子園を目指す弱小野球部の青春物語とは一味違うと思います」

TBS系では、本日10月15日から連続ドラマ「下剋上球児」がスタート。鈴木亮平さんが「日曜劇場」枠で約2年ぶり2度目の主演を務め、高校野球を通して、現代社会の教育や地域、家族が抱える問題やさまざまな愛を描くドリームヒューマンエンターテインメントです。

本作を手掛けるのは、「石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー」「最愛」「MIU404」「アンナチュラル」など、数々のヒット作品を放ってきた新井順子プロデューサー。ここでは、第1話の試写会後に行われた新井Pのインタビューをお届けします。

――今回初めて「日曜劇場」を手掛けるとのことですが、同枠ならではのこだわりはありますか?

「『日曜劇場』は幅広い年齢層の方が見てくださる枠なので、どうやったら小さい子からお年寄りまで楽しんで見てもらえるかを考えながら作っています。野球というテーマはWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)が盛り上がった年にはもってこいなのではと思いますが、そんな中でもルールや野球用語が分からない方もいらっしゃると思うので、ただ野球を見せるだけではなく、視聴者の皆さんの気持ちが乗って応援したくなるように描いていきたいなと考えています」

――野球用語を使ったコミカルなセリフもあり、野球ファンではない記者も早々に引き込まれました! 現場ではどのような工夫をされていますか?

「私はどちらかと言えば野球に詳しい方なのですが、塚原あゆ子監督は分からないことが多いみたいなので、現場でキャストさんに『このシーンではどんな練習をすればいいと思う?』と相談していることもしばしば。“野球経験者”&“野球を知らない監督”それぞれの目線で折り合いのいいところを見つけ、両者が見やすいヒューマンドラマになるように心掛けています」

――これまでの「日曜劇場」と違うポイントがあれば教えてください。

「“『日曜劇場』で野球をやります!”と言われたら、単純に甲子園を目指す物語を想像されるかもしれませんが、本作はそれだけでは終わりません。登場人物の秘め事について、ちょっとした考察も楽しんでいただけるようなサスペンス要素も入れ込んでいるので、単なる甲子園を目指す弱小野球部の青春物語とは一味違うと思います。生徒たちはもちろん、彼らを取り巻く先生や家族たちの物語もあるので、そういったところにも注目していただきたいです」

鈴木亮平は“こんな先生がいたらいいな”という理想にぴったり

――主演の鈴木亮平さんはどんな狙いで起用されましたか?

「主人公・南雲脩司を“こんな先生がいたらいいな”というキャラクターにしたいと思っていたのですが、理想とする優しい先生像や、野球部の監督らしい体格や雰囲気が鈴木さんにぴったりでした。物語後半になるにつれて南雲にも変化があるので、その辺りもうまく表現してくださるだろうという期待も込めていました。勝手に野球ができる方だと予想していたのですが、ご本人いわくインドア派とのことで日々野球指導の方と練習してくださっています」

――現場でも練習されているのでしょうか?

「経験者の動きを習得したいとおっしゃって、かなり頑張ってくださっています。ある日突然、ご自身で購入した練習用ネットを自分で担いで控室に運び入れて、それを使って柔らかいボールでノックの練習をしていたり、このあいだも撮影が終わった後にグラウンドで1時間ぐらい1人で練習したりしていました。第2話以降で鈴木さんの練習の成果が見られるシーンがあると思いますので、楽しみにしていてください」

――新井さんの作品では「こんな○○さんが見たい!」という、予想外かつドンピシャなキャラクター作りが話題に上がりますが、「下剋上球児」でもそのように設定した役柄はありますか?

「黒木華さんが演じる山住香南子は、脚本の奥寺佐渡子さんに普段の彼女を見てもらってどういう役柄にしていくかを相談しました。おしとやかなイメージがある黒木さんですが、演劇をやっていて声量もあるため、パワフルだけど押しつけがましくない先生にすることになりました。井川さんの演じる南雲美香は、東京から田舎に戻って来たいいお母さん感と、東京に出た時のパリッと感をうまく対比させるように作っていて、妻としての一面に加えて、彼女が抱える葛藤も作中で描いています」

――小日向文世さんが扮(ふん)する犬塚樹生も、予想以上にコミカルで強烈なキャラクターでした…!

「犬塚は早口でちょっとクレイジーなキャラクターですね。渋いおじいちゃんにすることもできたのですが、役柄を考えていた頃に『小日向さんが七変化する舞台があるらしい』とマネジャーさんから聞いて、脚本の奥寺さんと見に行きました。その舞台から着想を得て生まれたキャラクターです。最近は役づくりなのか、小日向さんが普段からめちゃくちゃ早口でお話されています(笑)。台本上ではなんてことないセリフも小日向さんが言うと笑えますし、今後出てくる生瀬勝久さんとの掛け合いも面白いので“おじさんズ”のお芝居も見どころです!」

「作品を通してすてきな球児たちの表情を抜くことを意識しています」

――毎作品、新井さんならではのさまざまな“キュンポイント”も楽しみにしているのですが、今回こだわった部分はありますか?

「本作では球児たちの頑張る姿にキュンとしていただけるように、作品を通してすてきな球児たちの表情を抜くことを意識しています。待機中の球児たちをこっそり撮影するのですが、そういう瞬間が『一番芝居をしていないのでいい表情が撮れる!』と塚原監督が言っていて。野球練習のシーンを撮る時も、こちらがやることを指定しすぎずに自然体の彼らを撮影しています。そうすると役柄と素が混じりながら球児同士で話し合ってくれるので、自然ないい表情を見せてくれるんです」

――第1話で本番以外の映像が使われている箇所を一つ教えてください。

「犬塚翔を演じる中沢元紀くんがピッチングを決めた後に振り向いて喜ぶシーンです。いい笑顔を見せてくれているのですが、あれは『カット!』って言われた後に『やった、ストライク入った!』と喜ぶ素の表情だと監督が教えてくれました(笑)。監督は全キャストのいい表情を切り取ろうと画策しています」

――あの無邪気な笑顔にときめく視聴者はかなり多いと思います! その撮影方法は球児キャストの取材でも珍しいと話題に上がりましたが、最初はどういった経緯で行うことになったのでしょうか?

「いつだったか忘れてしまいましたが、塚原監督がテストの方がいい表情を撮れるのではないかと、テストも収録することになって。今回に限らずずっと同じやり方で撮影しています本作はこれまでよりもキャストが多い現場なので、それぞれのいいカットを探すのは本当に骨が折れる作業だと思います。塚原監督は常に素材とにらめっこしていますね」

――映像へのこだわりといえば、本編中にアニメーションを使うという新たな挑戦をされているかと思います。アニメーションを取り入れた狙いについても教えてください。

「アニメーションは塚原監督のアイデアです。バットにボールが当たる瞬間って映像だと一瞬で終わってしまうのですが、アニメーションだと当たってから飛ぶまでの時間を描きやすいんです。どんなにスローで撮れるカメラを使っても硬式球がゆがむ瞬間をリアリティーを失わずに撮ることはできないので、そういった実写では伝わりづらい瞬間をアニメーションで描くことにより、感動の瞬間をたっぷりお届けできるかなと。歓喜の瞬間をより長く味わっていただけるエモーショナルなシーンになっていると思います」

「下剋上球児」の企画を出した時点でオーディションをやるしかないと思っていました

――第1話から野球のシーンが本格的で、試合の中継を見ているのかと思うほどでした!

「ありがとうございます! 球児の皆さんは本当に大変だと思います。特にピッチャー役の中沢くんのシーンは、本当に自分で投げないと撮れない画角で撮影していて、試合中継でよく見るPC間(ピッチャーなめキャッチャー)映像かと思うくらいです。ピッチャーとキャッチャー側二つの映像を切り替える方式なら本当に投げなくても成立するのですが、野球を誤魔化さずに撮りたかったので頑張っていただいています」

――根気が必要な撮影になりそうですね…。

「シーンで指定された球種を本番で投げないといけないですし、思い通りに投げられない時は周りを待たせてしまっているプレッシャーとも戦っていると思います。役とのメンタルがクロスする瞬間もあると思うので、体力的にも精神的にも大変な役を担ってくださっていて、トレーナーさんにもついていただいてしっかりケアをしてもらっています」

――先ほど新井さんと球児たちが話す姿を見かけたのですが、本当の先生と生徒のように交流を深めていることがうかがえました。現場ではどのような会話をされるのでしょうか?

「オーディションの時から彼らを見ているので、やはり学校の先生の気分になりますね。現場では私から野球の質問をすることもあれば、プレー以外のお芝居について話すこともあります。3年間を描くストーリーなので、後半の話で第1話と同じ顔をしていたら『表情が変わっていないよ』と伝えて、成長の過程をどのように見せるかを話し合うようにしています」

――球児のキャスティングをオーディション方式にした狙いは何ですか?

「本作の企画を出した時点でオーディションをやるしかないと思っていました。特に1年生役の子は3年間を通した成長を描くので、それなりに野球が上手な子を集めないと説得力がありません。既に知名度がある俳優さんの中だけで野球経験があるメンバーをそろえるのは難しいですし、これから活躍するであろう俳優さんの方がリアルな球児の立場に近く、より選手として感情移入してもらえるのではという思いもありました」

――気になる球児の名前を一人一人覚えていく過程は、まさに高校野球を見る時と重なりますね! オーディションのやり方で工夫したことはありますか?

「選考間の時間をあえて長く設けて、次回までの1カ月で彼らがどう変わるか、どこまで本気で野球をやるつもりなのかを見るようにしました。控室での様子も見させていただきましたが、一生懸命アピールをしている人もいれば、ちょっとすかした人が意外と裏で努力していることもあるので、これがなかなか難しい(笑)。募集条件は『野球経験があること』だったのですが、野球ができない役もあったので、本作のために練習を始めたことも野球経験とみなしました。何も知らなかった彼らは、なぜ自分が受かったのか不思議に思っていたかもしれませんね」

――選ばれた皆さんの共有点はありますか?

「本作が俳優人生の分岐点だと思って本気で臨んでくださっている子ばかりです。数年前にご縁があった高橋文哉さんもあっという間に人気になり、今では同クールの金曜ドラマ『フェルマーの料理』(TBS系)の主演をされていてうれしく思います。球児の皆さんもそうなってもらえたらプロデューサー冥利(みょうり)に尽きますし、それぞれが切磋琢磨(せっさたくま)しながら活躍を広げていってほしいなと期待しています」

インタビュー後、藤本大牙役の鈴木敦也さんが作ったという手縫いのキーホルダーをうれしそうに見せてくれた新井プロデューサー。取材中にも先に撮影を終えた球児キャストらが次々とあいさつに訪れ、そのたびにそれぞれの生徒の名前を呼び、『気を付けて真っすぐ帰ってね!』と先生のように声を掛ける様子から、信頼と愛情あふれる現場の様子が伝わる取材となりました。

【プロフィール】

新井順子(あらい じゅんこ)
TBSスパークル所属。ドラマプロデューサーとして活躍。主な担当作に「石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー」「最愛」「着飾る恋には理由があって」「MIU404」「わたし、定時で帰ります。」「中学聖日記」「アンナチュラル」「リバース」「私 結婚できないんじゃなくて、しないんです」「Nのために」「夜行観覧車」などがある。

【番組情報】

「下剋上球児」
TBS系
10月15日スタート
日曜 午後9:00〜9:54(初回は午後9:00~10:19)

TBS担当/松村有咲

© 株式会社東京ニュース通信社