亡き父の望みかなえた娘 父が書いたシベリア抑留の手記を本に 戦争の怖さ「語り継ぐ」を継ぐ【大石が聞く】

ことし2023年9月25日、岐阜県揖斐川町の書店にある本が並びました。
「私の一生 シベリア抑留三年 髙間新治」

書いたのは、髙間新治さん。
戦後、3年にわたるシベリア抑留を経験したひとりです。

(髙間新治さん・当時89歳 2010年)
「ふたたび日本に帰れた、と飛び上がって喜んだ」
「ダバイブステリー、マイナプレンリー。ロシア語で捕虜を叱咤する、重労働させるための言葉が頭から離れない」

髙間さんは「戦争の愚かさを伝えたい」と、何度も取材に応じてくださいました。

(髙間新治さん・当時93歳 2014年)
「なにか残しておきたいという気持ちはありましたからね」
「忘れたいと思いながら、忘れられないのが抑留生活」

髙間さんは、抑留の体験談や平和への思いを本にして遺そうと手記を書いていましたが、2014年、交通事故に遭い、志半ばで亡くなりました。

長女が父の遺志を継いで手記を本に

その遺志を継いだのが、長女の久美子さん。

(長女 髙間久美子さん)
「ずっと心に『本を出したい』という気持ちがどことなくあって、本を出すきっかけをもらって、ことしやらなきゃ、(亡くなって)10年経つ前にやらなきゃというなんとなく強い思いで、皆さんに助けていただきながら出すことができた」

発売日となった9月25日は、髙間さんの命日。
9年の時を経て、出版された手記に込められた思いとは。

【岐阜・揖斐川町 2023年8月】
(大石邦彦アンカーマン)
「こちらですね、懐かしいな…髙間写真館」

髙間さんは戦後、カメラマンとなり写真館を経営していました。今は久美子さんが継いでいます。

(長女 髙間久美子さん)
「思い立ってからはいろいろと資料を運んでは、広げたままにしてやっていました」

父が遺していたのは、当時の体験の詳細と心情を書いたメモ。
それを書籍にまとめ上げるのが大変だったといいます。

(大石アンカーマン)
「分からないところは赤い字で…」

(長女 髙間久美子さん)
「私が自分で読みやすいように」

(大石アンカーマン)
「これでいうと「平壌」。ここは「ソ満国境」、ソ連と満州の国境ということですか」

より詳しくシベリアでの足跡を辿る資料も作り上げました。

(長女 髙間久美子さん)
「まずはどうやって調べようかなと思って、とりあえず県の図書館に行って調べて」

髙間さんが描いたいくつものスケッチも収めることに。

(大石アンカーマン)
「一日何時間くらいこれと向き合いましたか」

(長女 髙間久美子さん)
「仕事が終わってから、9時から夜中までやることもあれば、涼しいときにちょっとやるときもあれば、時間があると向かってました」

家族に手伝ってもらいながら、やっとのことで本が完成しました。

ほとんど戦争の話をしなかった父の苦労を、手記で知る

(大石アンカーマン)
「父親が苦労してたんだなって、一番知る場面ってどのあたりでしたか」

(長女 髙間久美子さん)
「やっぱり食べるものがほんとに限られたもの、何もなくて命をつないでいるだけの食事」

【手記より】
「夕食用にキャベツの外葉800グラムの配給だった。栄養失調になり生きることが限界となる危険な状態だった」

(長女 髙間久美子さん)
「こんなひどい苦労をして大変な思いをして、九死に一生を得たということも分からないくらい穏やかな人だった」

家族にはほとんど戦争の話をしなかった髙間さん。本でその実情を初めて知りました。

(次女 野原治子さん)
「父の体験を身をもってではなく、今も何分の1も分からないと思うんですが、今回の手記を読むことによって、父は抑留生活が元になって次の生き方をしたということを改めて感じました」

(三女 寺井昌子さん)
「自分の子どもの代、孫の代、その後も若い世代の人には、戦争の苦しさ、今どれだけ幸せかを感じ取ってもらえれば」

地元の歴史資料館では髙間さんが寄贈した防寒着や軍靴を展示

【揖斐川歴史民俗資料館 2023年8月】

この本の出版を後押ししたのが、地元の歴史資料館の館長、小谷さん。
毎年8月、髙間さんが寄贈したシベリア抑留時代の防寒着や軍靴を展示しています。

(揖斐川歴史民俗資料館 小谷和彦 館長)
「戦争終わって78年。戦争について語れる方が本当に減っているので、こうしたものを見て語り継いでいくことが大事だと感じている」

(大石アンカーマン)
「いずれ戦争を知っている方はいなくなりますもんね」

(小谷和彦館長)
「この本が本当に貴重な歴史の証人。今後それを見ていただいて、皆さんに語り継いでいってほしいというのが心からの願い」

【本の言葉】
「戦争の馬鹿らしさ、捕虜のつらさを誰が知る。ただその悲しい事実の目撃者であり、体験者である」

(長女 髙間久美子さん)
「本を出すのが(娘としての)最後の仕事、それが実現できて良かったなと。この本をひとりでも多くの人に読んでいただき、平和は大切だ、戦争は嫌だということを、ひとりでも多くの人に伝えたい」

2023年10月5日放送 CBCテレビ「チャント!」より

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