3メーカーのチャンピオン候補が緊迫の三つ巴直接バトル。au TOM’Sが予選12番手から大逆転勝利【GT500決勝レポート】

 シーズン終盤残り2戦でサクセスウエイトも半減、そして九州オートポリスでは初開催『未知の450km』戦となった2023年スーパーGT第7戦は、予選12番手から36号車au TOM’S GR Supraが大逆転を決め、重要な局面での今季2勝目をマークしてランキング首位に浮上する結果となった。周囲が早めのルーティンに向かうなか、ドライバー最低義務周回数まで粘りのドライブを続けた坪井翔の奮闘と、セカンドスティント以降の”ダブル”で驚異的なラップペースを維持し続けた宮田莉朋のパフォーマンスにより、セオリーどおりの“正統派”ストラテジーを完璧に遂行したチームが手負いの状態での逆転勝利を決めてみせた。

 前戦SUGOのポールシッターである8号車ARTA MUGEN NSX-GTが公式練習の占有走行枠でまさかのクラッシュを喫し、修復作業なるも予選Q1敗退の波乱となった土曜は、僚友の雪辱とばかりに燃えた16号車ARTA MUGEN NSX-GTの福住仁嶺が、後続を約コンマ5秒も突き放す驚異的タイムでポールポジションを獲得。コースレコード更新のオマケ付きで、来季新型車投入を控えるホンダと同じくARTA陣営にとっても、鈴鹿、SUGOに続く3戦連続のNSX-GT予選最前列確保となった。

 しかしその背後のフロントロウ2番手には19号車WedsSport ADVAN GR Supraを先頭に、39号車DENSO KOBELCO SARD GR Supra、14号車ENEOS X PRIME GR Supra、そして37号車Deloitte TOM’S GR Supraと4台のトヨタ陣営が包囲網を形成。一方でニッサン陣営の4台は、この週末でクラス唯一の燃料リストリクター“1ランクダウン”が残る3号車Niterra MOTUL Zの9番手を含め、全車Q1敗退を喫して後方グリッドからの追い上げを期す状況となった。

 強風ながら快晴に恵まれた日曜は、正午から20分間のウォームアップも大きなトラブルやアクシデントはなく無事完了。給油義務2回の450km戦に向けダブルスティントが基本となりそうな戦略面や、FCY(フルコースイエロー)やセーフティカー(SC)、さらには天候急変など外乱への迅速な対応、そして何より、荒い路面に起因する国内屈指の『タイヤに厳しいサーキット』でのライフ管理マネジメントなど、長丁場でのレースペースをいかに保つかが焦点となる。

 午後13時30分のパレード&フォーメーションラップ開始時点で気温は17度、路面温度は27度と、冷たい風の影響か路温の上昇は最小限に。前日の予選からの選択タイヤコンパウンドによる温まり性能とグリップ発動条件の差が出たか、19号車WedsSport ADVANが遅れターン1で39号車DENSO KOBELCO関口雄飛に先行を許すと、背後に2ポジションアップで浮上してきた17号車Astemo NSX-GT松下信治にテール・トゥ・ノーズで突き上げられる。

2023スーパーGT第7戦オートポリス GT500クラスの決勝スタート

 さらに中段では3号車Niterraが100号車STANLEY NSX-GTの牧野任祐をパスし、8番手に進出。一方、5周目まで粘り抜き3番手を守った19号車WedsSport ADVAN国本雄資だったが、再三にわたりパッシングを繰り返した17号車松下が狙い澄まして車速を合わせ、第二ヘアピンのアウト側から豪快に前へ。

 すると19号車はここで前日予選で使用したスタートタイヤのライフが尽きたか、8周目のターン1ではブレーキングゾーンでの3ワイドを演じながら、14号車ENEOS X PRIME山下健太と37号車Deloitte TOM’S笹原右京がサンドイッチ状態でオーバーテイクを決めていく。

 続いて38号車ZENT CERUMO GR Supraの立川祐路も19号車をパスしていくと、これが九州ラストランとなる“GT最速男”は、10周目に14号車山下健太とのドッグファイトを制して4番手へ。さらに背後にいた37号車Deloitte笹原も、GT300のバックマーカーを挟みながらアウト側のラインを見つけ、立川を追い5番手へと続いていく。

 この間、車体にダメージを負った8号車ARTAとタイヤライフに限界を迎えた19号車が8周目に。続くラップで同じくヨコハマタイヤ陣営の24号車リアライズコーポレーション ADVAN Zと、ダンロップ装着の64号車Modulo NSX-GTが早めのピットに向かい、12周目には1号車MARELLI IMPUL Zもルーティン作業へと入ってくる。

 ここから“キレた走り”を披露し続けた立川は2番手争いの渦中に飛び込むと、100Rのアウト側から39号車DENSOと17号車Astemoの2台を一気にオーバーテイクする離れ技を演じて2番手へ。それを背後で目撃した37号車Deloitte笹原も、ダウンヒルストレートで39号車DENSOの前に出る。一方、選手権を争う12番手スタートの36号車au TOM’S GR Supraは、序盤での他車との接触があったようでフロントバンパーに大穴が開くダメージを背負う。

2023スーパーGT第7戦オートポリス au TOM’S GR Supra(坪井翔/宮田莉朋)

 14周目にはターン1でスタックしたGT300クラス車両により最初のFCYが発動すると、16周目の再開で39号車DENSOと100号車STANLEYがピットレーンへ。さらに路温が20度まで下がった20周目には首位の16号車ARTAも動き、ここで最初の義務ピットを終えていく。

 そして5番手まで上がっていた選手権首位の3号車Niterra千代勝正は、背後のランキング2位36号車au TOM’Sから逃げを打つべく、21周目の第2ヘアピンで14号車山下を急襲。イン側でスモークを上げながらレイトブレーキングを敢行し、これで4番手とする。

 続く22周目突入で38号車立川、17号車松下、そして23号車MOTUL AUTECH Zの3台がピットへ。ここでドライバー交代なしのフルサービスを経て、38号車がモニター上で35.6秒の作業静止時間、同17号車が34.1秒でマシンを送り出したものの、この2台より1コーナー寄りにボックスを構えるニスモ陣営は、ここで“給油なし”の4輪交換のみというショートストップを選択。ルール上の義務給油2回を果たすため、23号車は事実上『3STOP』のチョイスとする。

 また27周目、28周目と立て続けにFCY(フルコース・イエロー)が発動し、この時点でのピットストップ未消化はTOM’S陣営の2台とランキング首位の3号車のみに。トラック上で80km/h上限のスロー走行が続く間に作業のスタンバイを終えた各陣営だが、FCY解除のタイミングが最終コーナーに重なった暫定首位37号車Deloitteと36号車auはそのままホームストレートへ向かい、背後の3号車のみ31.9秒の作業で義務ピットを消化する。

 続くラップで37号車(33.7秒)が、レース距離3分の1を超えた35周目に36号車auがクラス最後に1回目の作業へ向かい、坪井翔から宮田莉朋にスイッチしてコース上での巻き返しに向かう。

■8号車ARTAのストップにより3度目のFCY。再開後はチャンピオンシップを睨んだトップ争いが激化

 しかし同じラップでは3号車Niterraが前を行く1号車MARELLIを第2ヘアピンでパスして5番手へ。序盤はポジションが前後していたチャンピオンシップのライバルに対し大きなゲインを築く。それに負けじと、グリップ発動後の36号車宮田も38周目に39号車DENSOを、続く39周目に24号車リアライズを仕留めて8番手に上がっていく。

 41周目には暫定2番手にいた23号車が1回目の義務給油を済ませ、ここでロニー・クインタレッリから松田次生にスイッチ。続く42周目の第2ヘアピンでは、やはり接触によるダメージが残っていた右フロントサスペンションか、またはステアリング系統の異常か。8号車ARTAの野尻智紀がストップし、ここでふたたびのFCYとなる。

 再開後はレース展開も落ち着きを取り戻す中、クラス先陣を切って3番手にいた38号車立川が52周目にドライバー交代に向かい、完全燃焼のパフォーマンスを見せた2スティントを経て、37.9秒の静止時間で石浦宏明に最後を託す。

 ここから続々と最後のルーティンが始まり、首位の16号車ARTAは60周目に43.3秒の作業静止時間で大津弘樹にスイッチするも、その手前の56周目に第2ヘアピンで23号車をパスし、暫定9番手としていた38号車ZENT石浦がピットレーン出口にいる16号車ARTAを逆転し、前にいた2台のアンダーカットに成功。これで暫定ながら、ピット義務終了組のなかで事実上の首位に浮上する。

2023スーパーGT第7戦オートポリス ZENT CERUMO GR Supra(立川祐路/石浦宏明)

 しかしグリップ発動なった16号車ARTA大津は、すぐさま38号車ZENTに迫りターン1で逆襲。暫定首位を奪い返し、66周目に36号車auが2回目のピットへ向かった時点でトップの位置に返り咲く。

 その36号車auも約2周前に義務ピットを消化した3号車のピットストップ静止時間38秒0に対し、大きくタイムを削る30.8秒でピットアウト。コース上で38号車ZENTをパスして2番手に浮上して逃げるライバルに対し、36号車宮田も23号車をかわして5番手、さらに17号車Astemoも仕留めて4番手とすると、70周目には3番手の38号車ZENTにも先行して直接対決の構図に持ち込むなど、チャンピオンシップを睨んだ争いも激化していく。

 68周目には23号車MOTULも義務消化で3回目のピットを終え、残り25周を前に2番手争いはテール・トゥ・ノーズへ。コンマ差で集中力をすり減らす接近戦を演じた2台は、76周目の最終セクターでGT300に詰まった3号車の高星明誠に対し、最終コーナーで並んだ宮田がマーブルだらけのホームストレートを並走。続く77周目のセクター1でもサイド・バイ・サイドを演じ、第一ヘアピンでインを奪った36号車が鮮やかに2番手を奪う。

 ここからさらなるスパートを見せた宮田は、80周に入り首位16号車ARTAとの差を2秒台にまで詰め、81周目突入時点では1秒を切って迎えた87周目。前のラップからバックマーカーに詰まった首位16号車に対し、虎視眈々とチャンスを伺った36号車は、セクター1で我慢を続けて第二ヘアピンの進入でスバリとインサイドへ。

 これで残り10周を前についに首位浮上を果たした宮田は、後続の追撃を振り切り今季2度目のトップチェッカー。レース序盤からフロントグリルを破損したままの状態で、ランキングでも最終戦を前に首位浮上を果たす大きな大きなマッチアップを制した。

 手元の集計では、ランキングトップ36号車au TOM’S GR Supraが69ポイント、2番手3号車Niterra MOTUL Zが62ポイント、3番手16号車ARTA MUGEN NSX-GTが53ポイントのトップ3となっている。

2023スーパーGT第7戦オートポリス GT500クラス優勝を喜ぶ坪井翔と宮田莉朋(au TOM’S GR Supra)
2023スーパーGT第7戦オートポリス GT500クラス優勝を飾った坪井翔/宮田莉朋/伊藤大輔監督(au TOM’S GR Supra)
2023スーパーGT第7戦オートポリス GT500クラスの表彰式

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