岡田将生が語る『ゆとり』の魅力「読み物としてちょっと別格」

岡田将生、松坂桃李、柳楽優弥といった、日本を代表する同年代の俳優が共演し、大きな話題を呼んだ連続ドラマ「ゆとりですがなにか」(2016年・日本テレビ)。脚本・宮藤官九郎×監督・水田伸生がタッグを組み、「ゆとり世代」と括られるアラサー男子3人が世間のさまざまな荒波にもまれながらも立ち向かう姿を描く笑いあり涙ありの社会派コメディだ。

映画『ゆとりですがなにか インターナショナル』主演の岡田将生(左)と水田伸生監督

その作品が、2017年のスペシャルドラマ以来、じつに6年のときを経て、豪華キャストとスタッフ陣が再結集して映画化されることに。10月13日より公開される映画『ゆとりですがなにか インターナショナル』で主演をつとめた岡田将生と水田伸生監督に話を訊いた。

取材・文/華崎陽子

◆「映画化に宮藤さんはすごく慎重だった」(監督)

──まずは、映画化が決定したときの心境を聞かせてください。

岡田「映画であってもなくても、とにかく『ゆとりですがなにか』(以下、『ゆとり』)の世界に戻れることがうれしかったです。それも、みなさんが『ゆとり』を愛してくれてこそなので、それも含めてとにかくうれしかったですね」

──ドラマではなく、映画化ということにはどのように感じられましたか?

岡田「どっちでもいいんですよ(笑)。『ゆとり』の続きができれば。ドラマのときも映画のカメラを使って撮っていたので、最初から枠に捉われていないというか。ドラマでも映画でも、あの世界に戻れることがとにかくうれしいという感覚でした」

©2023「ゆとりですがなにか」製作委員会

──監督は、続編を作りたいという思いはずっとお持ちだったのでしょうか。

監督「もちろんです。宮藤さんに会うたびに(『ゆとり』の続編を)やりましょう、やりましょうと言ってました。宮藤さん自身もあの作品をすごく大切にしてくださっていて、『ゆとり』の脚本で『2016芸術選奨 文部科学大臣賞 放送部門』を受賞してますから。ただ、その放送部門というところに宮藤さんが引っかかっていて」

──引っかかっている?

監督「安易に映画化に飛びついていいんだろうか、と躊躇していたんです。でも、正直なところを言うと、ドラマのときでさえ主要キャスト3人のスケジュール調整が大変だったのに、またドラマになると4カ月拘束しなきゃいけなくて」

──2016年の時点でも、みなさん売れっ子でしたもんね。

監督「4カ月はキツイと。でも映画だったら、我々なら40日以内で映画を撮れるだろうから、その方が現実的だと僕は思っていて。また、僕も自信を得た作品だったので、お客さまに劇場に足を運んでいただくことも、なんとかなるんじゃないかと自惚れていたんです。その一方、宮藤さんはすごく慎重で、ずっと答えをはぐらかされてて。そこに松坂桃李が登場するんですね(笑)」

──松坂さんが登場されるのは、完成報告会見でおっしゃっていた大河ドラマ『いだてん』の打ち上げですね(笑)。そこから一気に進んだのでしょうか。

監督「(『いだてん』の打ち上げの)翌日、宮藤さんから『昨晩、桃李くんからこんな提案があって、書いてみようと思います』と連絡があって。そこから『ゆとり』の映画化が急激に動き始めました」

◆「宮藤さんの脚本は『ト書き』がない」(岡田)

──本作はもちろん、ドラマのときから宮藤さんの脚本には毎回唸らされますが、おふたりにとって宮藤官九郎の脚本というのはどういうものなんでしょうか。

岡田「読み物として本当に面白いんですよ」

──それは、ほかの脚本とはまったく違う?

岡田「全然違いますね。誰が書いたかわからない脚本を10冊渡されたとしても、どれが宮藤さんが書いたものか分かるぐらい、読み物としてちょっと別格ですね」

監督「全然違う。格付だったら、GACKTじゃなくても当てられる(笑)」

岡田「ほんと、そうですね(笑)」

──それぐらい面白いんですね。

監督「演じる前に読んで笑わせたいという、ものすごいサービス精神の塊のような脚本なんです。実はそこに落とし穴があって。本の通りに撮ってしまうと面白いシーンが続きすぎて、緩急がなくなってしまう。宮藤さんとは何度か一緒に仕事をしているので、そのあたりが分かっていて。撮影前にいくつかオチを切らなきゃいけない。編集でやろうと思ってもそうはいかないから」

『ゆとりですがなにか インターナショナル』予告

──面白くて切れなくなってしまうからでしょうか?

監督「というより、演じる側は最後のオチに向かって演じていますから、途中でブチっと切っても尻切れトンボになるだけなので。すべてのシーンがひとつの作品のために存在していて、それぞれ役割がある。その役割をこちらが見極めて作らないといけないんです」

──面白い脚本であっても、ジレンマもあるんですね。

監督「ピークが連続するとフラットになりますよね。やはりアップダウンがないと」

岡田「あと、宮藤さんの脚本は『ト書き』がないんですよね」

監督「そうなんです。いわゆる、シーンや状況の説明がないんです」

岡田「場所は書いてありますが、基本的には会話しかないので、どう動こうが自由なんです。ほとんどの脚本には、『ここで立ち上がる』など動作が書いてあるんですが、宮藤さんの脚本にはないので役者も無限に考えられるんです」

坂間正和(岡田将生)&茜(安藤サクラ)ら、坂間家ファミリー ©2023「ゆとりですがなにか」製作委員会

──指示された通りに動くのではなく。

岡田「しかも、連続ドラマを経ているので、脚本を読んでいると『みんなこうやって動くかな? ああやって動くかな?』と考えるのはもちろん、予想外の動きをされても『そうくるか! じゃあこうしよう』というセッションが毎回楽しめるという」

監督「じゃあ、酒蔵のシーンで3人が集まったら、このあたりで話すだろうなって読めてるんだ?」

岡田「なんとなく、ここだろうなって思ってます」

監督「へえ、そうなんだ(笑)」

岡田「酒蔵と言っても、何パターンもありますが、ここでやりたいという思いもあって。連続ドラマのときに、安藤サクラさんと『わー』って言いながら酒蔵のなかを走り回るシーンがあったんですけど、こんなに自由なんだと感じて(笑)。そこから一気にそういう考え方にシフトチェンジしていった気がします」

監督「あのシーンは『映らなくていいから』と言ってね。『わー』って声だけ聞こえたらいいと(笑)」

岡田「今までの自分の撮影スタイルにはまったくなかったことだったので、そういう枠のようなものに捉われなくなりました」

◆「台本を読んで声出して笑ったのは初めて」(岡田)

──脚本にゆとりというか、余白があるんですね。

岡田「そうなんです。余白があるんです。でも、その余白が怖いという感覚も一方ではあって。宮藤さんが脚本を手掛けた映画『一秒先の彼』(2023年)という作品のときに、最初に山下敦弘監督から、『ゆとり』のときはどうやって撮ってたの? ト書きがないんだよ。みんな、どうしてたの?と聞かれて。僕はそれが当たり前だと思ってやっていたので、そっか、そうじゃないんだと」

監督「山下監督にとっては驚きだったんだね」

岡田「みたいですね。『どうやって撮ってたんだ?』って(笑)」

──映画『一秒先の彼』のとき、宮藤さんが岡田さんについて「ヒロイン感がある」とおっしゃっていましたが、この作品も岡田さんが真んなかにいるからこそ成立していると感じました。水田監督はどのように感じてらっしゃいましたか?

監督「それはありますね。同世代のライバルと言える、桃李くんとも柳楽さんとも力みなく人間関係を築いていて。将生くんはものすごく共演者を尊重するんです。尊重というのは、決して遠慮しているわけではなくて。僕は相手から影響を得ることをプラスにして、その影響をお返しするのが演技だと思うんです」

左から、山路一豊(松坂桃李)、坂間正和(岡田将生)、道上まりぶ(柳楽優弥) ©2023「ゆとりですがなにか」製作委員会

──岡田さんと水田監督、そして宮藤さんは映画『謝罪の王様』(2013年)でもタッグを組まれてましたよね。

監督「あの映画の将生くんの役は、宮藤さんが『将生くんがいい』って言ったんです」

岡田「え!? そうなんですか? それは知らなかった」

──それまでの岡田さんのイメージとは違って、セクハラで訴えられる軽薄な会社員という斬新な役でした。

監督「ちょっといかれてる役でしたよね(笑)」

岡田「たしか、そうでした(笑)。あの役、楽しかったんですよね」

監督「宮藤さんのなかでは、いかれてる役を将生くんぐらい端正な顔立ちの人がやるギャップが楽しくて仕方なかったみたいです。僕は、あの作品で初めて将生くんと仕事をして、芝居のなかにこんなに大きな振り幅を内包しているのかと驚いたんです。だから、『ゆとり』の企画で宮藤さんとキャスティング会議をしているときに、意見が一致したんです。坂間正和は将生くんがいいと」

子豚を抱える坂間正和(岡田将生) ©2023「ゆとりですがなにか」製作委員会

──『謝罪の王様』から繋がっていたんですね。

水田「当然、将生くんのキャスティングが最優先だったけど、桃李くんも柳楽さんも第一希望でしたから。まぁ、でもそれは無理だろうと」

──ドラマの頃は3人とも20代後半で、役者として絶好調でしたから。

水田「事務所としても、出る杭は打っておこうとお考えになっていたかもしれません(笑)。それでも、宮藤さんの脚本が、俳優に演じてみたいと思わせる力があるからだと思います。だからこそ共演が叶った」

岡田「それぐらい第1話が面白かったんです。僕は、今まで台本を読んで声出して笑ったのは『謝罪の王様』が初めてでした。台詞に『ラスカル』とか『ぱしかに』とか。これが成立するんだ、こんなに台本って面白いんだと衝撃を受けました」

◆「すいすい書けるんです、天才ですよね」(監督)

──『謝罪の王様』もそうでしたが、本作も、なかなか直接的には触れられないことをコメディに落とし込んで成立させているのがすごいと思いました。

監督「『謝罪の王様』は、ジャンルとして風刺喜劇をやろうと言ってスタートしたんです。宮藤さんが『風刺喜劇って何ですか?』と言うので、戦争にまっしぐらに進もうとする陸軍、海軍がいた頃に、それに対して戦争反対と声を荒げることなく、喜劇で『それは間違っていませんか?』と問いかける作品を、伊丹十三さんのお父さん、伊丹万作さんや市川崑監督がお作りになっていて。それを例題にして説明したら『わかった』と言って、すいすい書けるんです。天才ですよね」

大阪の舞台挨拶にて、「ゆとりポーズ」で撮影した岡田将生(左)と水田伸生監督(10月4日・大阪市内)

──今回の脚本を読んで、ドラマのときとの違いを感じた部分はありましたか?

監督「やはりコロナを挟んだことですね。コロナ禍もあって、宮藤さんが脚本を書き直してくださったんですが、宮藤さんの見てるものがコロナ前後で変化したように感じました。コロナ以前は、まるで窓の外の景色のように過ぎ去っていく今の問題を、宮藤さんが足を止めてすごく具体的にして、さらに、自分の問題として考えられるように。それを全部今回の映画のなかに入れてくださってますよね。本当にすごいと思います」

岡田「コロナになってリモート会議が出てきて、接続の問題が起こって、それが笑いになる。そんな風に転換しているのがすごく面白いと思いました。やるまではどうなるんだろう? と思っていましたが、実際にやっていくうちに『これは面白くなる』と確信に変わっていきました。宮藤さんのああいうところは本当にすごいと思います。撮影は、本当に大変でしたけど(笑)」

──岡田さんは、主人公・坂間正和を演じる上でなにか意識されてますか?

岡田「先ほど監督がおっしゃったように、相手あってこその正和だと思っています。サクラさん演じる妻や友人の山路(松坂)とまりぶ(柳楽)がいて、みなさんの反応で正和はできあがっていったキャラクターなので。第1話のレンタルおじさんとのシーンで、吉田鋼太郎さんのお芝居を見て、そうか、こういう感じか、じゃあ僕も、と少しずつ輪郭がはっきりしてきたのが正和なので、こうしてああしてというのはないんです」

映画『ゆとりですがなにか インターナショナル』のワンシーン ©2023「ゆとりですがなにか」製作委員会

──頭で考えて演じていないということでしょうか。

岡田「そうですね。その場で起きていることに対して自然にリアクションしています」

──舞台の感覚に近いのでしょうか。

岡田「演劇に近いですね。撮り方も長回しですし。だから、計算して演じようというのがまったくなくて。今までの僕のお芝居の作り方が間違っていたんだと気づかされました。考えながら演じることに限界を感じてしまって。20代前半の僕の技量ではそこに辿りつけていなかったので、それをこの現場で教えてもらいました。みんなで必死に作ったからこそ、忘れられない大切な作品になったんだと思います」

監督「みんな稽古熱心で。サクラちゃん含めて4人が揃うと、ずっと自主的に稽古してるんです」

岡田「前室(スタジオ手前の待ち合いスペース)もそうですし、プライベートでご飯を食べているときも台本を開いてます(笑)」

映画『ゆとりですがなにか インターナショナル』

2023年10月13日(金)公開
脚本:宮藤官九郎
監督:水田伸生
出演:岡田将生、松坂桃李、柳楽優弥、安藤サクラ、仲野太賀、吉田鋼太郎、ほか
配給:東宝

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