【インドネシア】日本の支援で復興進展[社会] スラウェシ地震から5年(1)

インドネシアのスラウェシ島中部で2018年9月28日、マグニチュード(M)7.5の地震が発生し、津波や液状化現象による大規模な地滑りなどで4,300人以上の死者・行方不明者を出した震災から5年が経過した。日本は復興計画の策定から社会インフラの再建まで一貫して支援し、現在も復興事業が続いている。国際協力機構(JICA)などの支援により中スラウェシ州で復旧が進むインフラや、インドネシア政府による住宅再建の進展、政府関係者の復興事業への見解など、現地の状況を3回にわたり伝える。

JICAは災害発生の直後から、現地の被災状況を把握する調査団を派遣。インドネシア政府当局による復興基本計画(マスタープラン)の策定から、復旧・復興事業の実施まで支援してきた。スラウェシ中部地震の復旧に一気通貫で支援を行ったのは、国際開発援助機関としては唯一だという。

インフラ復興事業のうち、中スラウェシ州パル市では震災で崩壊したパル第4橋の再建工事が、日本の無償資金協力で進行中だ。2車線の橋の長さは250メートル。パル川河口に位置するこの橋と湾岸の道路が震災で分断されたため、現在は2~3キロメートル離れた別の橋を迂回(うかい)してパル市の東西を往来しなければならないが、完工後には物流や人流が活性化すると期待される。

再建中のパル第4橋は、2車線で長さ250メートル。

オリエンタルコンサルタンツグローバルを幹事会社とした共同企業体が詳細設計と入札補助などのコンサルティングサービスを担当、施工は東急建設が手がけている。公共事業・国民住宅省道路局の関係者によれば、現在の工事進捗(しんちょく)率は約40%。日本の耐震技術を用い、24年6月の完工を目指している。

パル第4橋の側面イメージ図(オリエンタルコンサルタンツグローバル提供)
パル第4橋の建設現場(写真右)。地震で崩壊した橋桁の残骸(左)がまだ残っている =9月26日、中スラウェシ州(NNA撮影)

■円借款でインフラ整備30案件

無償資金協力以外では20年1月に、JICAとインドネシア政府との間で中スラウェシ州のインフラ復興を目的に279億7,000万円を限度額とする円借款契約が締結され、道路・橋、河川、公共施設の3セクターで合計29事業が行われている。道路・橋の分野は、被災者の移転先となった住宅へのアクセス道路や、津波で甚大な被害を受けたパル沿岸の道路かさ上げ工事など11案件(総延長99キロ)。うち5案件がすでに完工した。

液状化地滑りによる崩壊現象が最も広範囲だったジョノ・オゲ地区で再建された道路。同地区を含め液状化地滑りの発生リスクが高い地域では、集水井戸80カ所の建設が計画されている=9月26日、中スラウェシ州(NNA撮影)

河川分野では、地震による大規模な液状化に伴う地滑りで損壊した河川や灌漑(かんがい)水路の改修、土砂災害対策としての砂防ダムの建設など17案件を実施、うち4案件が完成した。道路と河川のすべての案件について、24年12月までの完工を目指している。

シギ県のバンガ川下流域の山間部では斜面が広範囲で崩壊し、下流域の集落では震災直後から複数回の洪水と土砂氾濫が発生して約500棟の建物が損壊したことを受け、土石流をせき止めて安全に流す砂防ダムを建設した。同県のサムウェル副知事は「砂防ダムの完成後は、雨の日でも近隣住民が安心して眠れるようになった。日本の支援には感謝している」と話した。

公共施設では、パル市中心部にある中スラウェシ州内唯一の公営病院を再建した。病院の敷地は4ヘクタールあり、地震で損壊した本館を日本の免震技術を用いて建て替えた。公共事業・国民住宅省によれば、地下1階、地上4階建てで、延べ床面積は1万7,798平方メートル。

入院患者用のベッド数は75床。24の診療科があり、州で最も高い水準の医療が受けられる病院となっている。

パル市内の公営アヌタプラ病院の本館外観。総合診療科など一部の施設が9月23日に稼働を開始した=9月26日、中スラウェシ州(NNA撮影)

■日本の震災経験を生かす

JICAの復興支援では、東日本大震災からの復興経験や知見を生かした取り組みも行われてきた。インドネシア政府関係者を日本に招き、震災後の復旧活動における災害対策や復興事例を実際に見てもらう研修や講演を実施して、理解を深めてもらった。

被災したインフラを単に復旧するのではなく、次の災害に備えて防災・減災策を取り入れてより強靱(きょうじん)な地域づくりを進める「より良い復興」のコンセプトを随所に盛り込んでいる。

シギ県のサムウェル副知事は「日本では、防潮堤や海岸林などの複数の対策を組み合わせた『多重防護』という減災策を学んだ。インドネシアの現状に合わせて河川の洪水・土砂災害対策に活用して災害に対する安全度を高めている」と話した。

土砂災害の低減策として建設されたシギ県の砂防ダムについて説明する、同県のサムウェル副知事 =9月26日、中スラウェシ州(NNA撮影)

またJICAの支援は、インフラ再建というハード面だけでなく、住民の生計回復やコミュニティーの再生といったソフト面でも行われた。現地で捕れたしらすで地元名物の菓子を作って売っている女性は「JICAの支援を得て、それまで売っていた賞味期間の短い軽食だけでなく、日持ちが良くて売価も高く設定できるスナックを販売できるようになった」と笑顔を見せた。

<用語解説>

スラウェシ島地震:2018年9月28日、中スラウェシ州の州都パル市の北80キロメートルを震源とするM7.5の地震が発生。19年2月5日に国家災害対策庁(BNPB)が発表した情報によれば、パル市、シギ県、ドンガラ県、パリギ・モウトン県(いずれも中スラウェシ州)の死者・行方不明者は合計4,340人、負傷者は4,438人。6万8,451戸の住宅が損壊し、避難を強いられた人は17万人以上に上った。

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