ラグビー日本代表「頑張らないといけない時に頑張れなかった」理由。W杯の敗因と求められる仕組み作り

予選プール2勝2敗の結果に終わり、惜しくもラグビーワールドカップ2大会連続でのベスト8進出は果たせなかったラグビー日本代表。決勝トーナメント進出を懸けたアルゼンチン代表との予選プール最終戦では多くの課題も垣間見えた。日本代表の予選プール敗退を受けて、元日本代表の五郎丸歩さんは自身のXで「大きな仕組みを変えない限りこれ以上の発展は日本ラグビー界にはない」と投稿。多くの反響を生んだ。では「大きな仕組み」はどのようにして変えていくべきなのだろうか?

(文=向風見也、写真=AP/アフロ)

「頑張らないといけない時に頑張れなかった」理由

今度のラグビーワールドカップで日本代表が決勝トーナメントに行こうが、行くまいが、改善すべき課題は明らかだったといえる。

大会のあったフランス時間で10月8日。参戦する予選プールDの最終戦でアルゼンチン代表に27―39で敗れた。試合終盤、得点した直後に失点するシーンが2つもあった。その翌朝、日本代表の藤井雄一郎ナショナルチームディレクターがオンライン会見でこう語った。

「選手は皆、頑張っているんですけど、頑張らないといけない時に頑張れなかった。その辺の、勝負どころ(での決断や判断)は、(ハイレベルな)経験を積んでいかないと上がっていかない」

2019年の日本大会で初の8強入り。当時のジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ体制をさらに継続させてきた日本代表は、ずっと厳しい条件を受け入れていた。

新型コロナウイルスの感染が広がった2020年は、一切の代表活動ができなかった。同年秋に開かれた強豪国同士の大会へは、国内事情を鑑み辞退せざるを得なかった。そのためフランス大会前までにできたテストマッチ(代表戦)の数は、日本大会前の31から17に激減した。

国際舞台に挑む回数が限られたことが、今度のアルゼンチン代表戦のような接戦で苦しむ遠因となったのだろう。だから藤井は、「頑張らないといけない時に頑張れなかった」わけを「経験」と分析したのだ。

さらに痛かったのは、サンウルブズの活動休止だ。

サンウルブズは2016年から国際リーグのスーパーラグビーに参加し、特に2019年までは代表本隊と首脳陣や選手を共有。日本大会に出た選手、コーチの多くがその存在の大きさを振り返る位置づけだった。2020年限りでスーパーラグビーを撤退したのは金銭面の事情からだといわれている。もっとも実際のところは、内部の人間関係が引き金となっていた。それは公然の秘密だった。

選手層に課題。全試合に先発した選手が9人

2022年以降は、国内リーグがトップリーグからリーグワンに新装開店。外国人枠を広げて試合の強度を高め、日本代表の主力で元サンウルブズのリーチ マイケルも「接戦が多く、世界一のリーグになる可能性は十分にある」と発言する。

ただし、その「可能性」を高めるのにはまだ時間が必要か。スーパーラグビーを経験した他の代表選手は、試合の強度には改善の余地ありとの見立てだ。

リーグワンで最大級のパフォーマンスを披露する強豪国代表の選手のうち数名は、来日の理由を問われて「(欧州などに比べ)試合数が少ないこと」と述べた。日本独自の素早い試合展開を味わいながら、その年ごとの代表戦やワールドカップへコンディションを整えられることをメリットにしていた。

いまの日本国内のスケジュール、レベルでは、日本代表の首脳陣がテストマッチで起用できる選手を見極めたり、その見込みのある選手にほどよい刺激を与えたりするのは難しいのだろう。

かくして日本代表は、十分な「経験」を積んだ選手の数、つまり選手層に課題を残した。

フランス大会開催年に行った強化試合計6戦へは、ほぼほぼ主力候補を固定して臨んだ。件のアルゼンチン代表戦では、相手が3戦目からスターターを11人も入れ替えていたのに対し、日本代表は全試合に先発した選手が9人もいた。

藤井は続ける。

「(ワールドカップ前のテストマッチで出番のなかった選手も、本当は)使おうかなと思った選手がほとんど。やはり主軸の選手すら試合数が少なかったので、彼らに試合経験を積ませたということ」

母国のニュージーランドに生活拠点を置きながら約7年間、日本代表を率いてきたジョセフは、こう認めた。

「我々はクオリティのあるチームだけど、クオリティのある選手を育てる場がなかなかないのが現状です。こうした課題は日本ラグビー界について回っています。どんなラグビー選手でも、厳しい試合をしなければいけない。今年は(大会直前に)タフな試合をして、自分たちの可能性を引き出していた状態でした」

仕組みを作る役目は、日本ラグビーフットボール協会に

つまり、仮にアルゼンチン代表を下して決勝トーナメントに進めていたとしても、これから代表選手やその予備軍に国際経験を積ませるよう仕組みを考え直さなくてはならないのは、明白だったわけだ。

その仕組みを作る役目は、日本ラグビーフットボール協会(日本協会)に託されている。

日本協会は競技の普及と発展のためにある公益財団法人。日本代表を統括する立場にもある。ここで2019年夏から専務理事という重責を担う岩渕健輔氏は、日本きっての国際派だ。

試合不足に悩む2021年以降も、強豪国とのテストマッチを取りつけるなどできうる最善手を打ったことで知られる。何より、2023年以降の施策にも、人脈と知恵を生かしている。

ニュージーランド協会、オーストラリア協会と連携を深める覚書を締結したのは、フランス大会の直前期だ。

さらに、国際統括団体のワールドラグビーが世界最上位層の枠組みを変える際、日本代表が「ハイパフォーマンス・ユニオン」のメンバーとなったのも今年に入ってからだ。

ジョセフ率いる日本代表が世界8強入りした実績にも支えられ、日本ラグビー界の地位を向上させたのだ。

この変化は、翌年以降の代表戦のマッチメイクを優位に進めたり、南半球とのクラブ同士による公式大会を実現させたりすることにつながりそうだ。すなわち、多くの選手の経験値アップに大きな影響を与えうる。

ジョセフ体制はフランス大会限りで解散。次期指揮官は…

これからは準代表チームを創設し、選手層を拡大させるべきでは――。そのような趣旨で聞かれると、岩渕はこう言葉を選んだ。

「リーグワンのレベルアップのスピードと、短期的な代表チームの(理想の)強化スピードとでは、時間的なズレが出てくる可能性があります。そのため、短期的な強化をどれだけ進めるかも、協会は考える必要がある。サンウルブズ型の少数精鋭強化のシステムも、同時に作る必要があると考えています」

「(準代表チームの活動には)相手もいる(必要な)こと。ただ、流動的な国際的カレンダーにおいて、他国リーグの試合は埋まっています。選手のウェルフェア(休息と実戦経験のバランス)、リーグワンの試合数やレベル、代表チームの試合数やレベル、準代表のようなチームを作った場合にどのような相手と戦うかなどを、大きなパッケージで考えなければいけない」

ジョセフ体制はフランス大会限りで解散する。次期指揮官は、公募で集まった候補者のなかから最後に日本協会がチョイスする。注目の的となっているこの件についても、岩渕氏は、仕組み作りを絡めて語る。

「代表チームと、国内のラグビーと、代表チームに入る選手のプレー環境は一体で考えていかないといけない。永続的に強化できるシステムを協会は考える必要がありますし、代表チーム、代表チームを支えるスタッフは、システムそのものに対して協力いただく必要がある。そこもヘッドコーチ選考の上では大きなポイントになります」

日本協会の理事にも名を連ねる藤井は、次期ヘッドコーチの選任へこう言及する。

「委託業者に頼んだからという理由だけでは、選手もチームも納得しない。ただ、しっかりとした理由のもとヘッドコーチを選べば選手もついていくでしょうし、そのなかで必要なことがあれば私たちもサポートしていきたい」

ジョセフの率いていた日本代表のスタッフによると、岩渕氏が最近の代表チームの内部的な部分に深くタッチすることはなかったそうだ。ジョセフ体制が選手間、内部スタッフ間の絆を深めて無形の底力を発揮していた一方、岩渕氏は日本協会を「世界一のユニオン」とすべくそれを外から支えてきた。

日本協会の整えた仕組みを日本代表が生かし、日本代表が結果を出すことで日本協会の仕組みの価値を高める――。2024年以降には、そんな相乗効果を多く見せてほしい。

まずは選手に無理を強いない、かつ納得感のある仕組みを日本協会が作れるか。要注目である。

<了>

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