社説:日韓共同宣言25年 交流重ね確かな信頼関係を

 植民地支配の反省とおわびを明記し、未来志向の関係構築をうたった「日韓共同宣言」が発表されてから、今月で25年を迎えた。

 1998年、当時の小渕恵三首相と金大中大統領が発表した。韓国はそれまで規制していた日本のアニメなど大衆文化を受け入れ、日本でも韓流ブームでK―POPやドラマがすっかり定着した。共同宣言が掲げた未来志向の変化の象徴だろう。

 ただ、民族差別にとらわれたヘイトクライム(憎悪犯罪)事件はなくならず、京都では在日コリアンが多く暮らす宇治市伊勢田町ウトロ地区で偏見に基づく放火事件があった。

 一方で、京都市南区で毎年11月に開かれる東九条マダンでは、朝鮮半島にルーツを持つ人だけでなく地域の多様な文化を持つ人々が一緒に踊り、観衆が囲む円形劇場で上演されるマダン劇を楽しんできた。

 市民レベルの対話と交流は深化している。

 尹錫悦大統領は対日関係改善を掲げて就任した。長くあつれきとなってきた元徴用工訴訟問題で、植民地時代に動員した日本企業2社の賠償支払いについて、韓国政府傘下の財団が肩代わりする解決策を今春発表した。日本も対抗措置だった半導体材料輸出規制の強化措置を解除した。

 岸田文雄首相と尹氏との首脳会談は半年で6回を数え、外交レベルでの関係修復は急速に進んでいる。隣国の首脳が歩み寄り、信頼関係を結ぶ意義は大きく、評価できる。先鋭化したナショナリズムに引きずられ、対話が途絶する事態を繰り返してはならない。

 アジアの安定と発展に寄与する日韓関係が求められる。ただ、両政権とも支持率の低迷にあえぐ。韓国は来年春に総選挙が控えている。仮に政権交代があっても揺るがない、重層的な外交関係を築く必要がある。

 尹政権が日本と急速に関係改善を図る一方で、韓国と北朝鮮の関係は悪化している。

 北朝鮮メディアは今夏、韓国軍の拠点や飛行場を目標に想定した戦術核攻撃訓練を行い、戦術弾道ミサイル2発を発射したと報じた。

 朝鮮戦争休戦から今年で70年だが、北朝鮮は核戦力を「高度化する」との内容を盛り込んで憲法を修正するなど、南北関係は緊迫度が増している。

 日韓は緊密に情報を共有しつつ、北朝鮮との対話の糸口を探ることで地域の安定を図る責務がある。

 4年近く途絶えている日本と中国、韓国の3カ国首脳会談を早期に再開することも朝鮮半島の緊張緩和には欠かせない。日本は過去に向き合いつつ、多国間交渉を主導したい。

 歴史を踏まえて未来を志向する日韓共同宣言の文言に立ち返り、生かす時である。

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