アイドルの枠を「超えて」22歳・久保史緒里がやりたいこと

『夜は短し歩けよ乙女』『桜文』などの主演舞台が続き、大河ドラマ『どうする家康』では、織田信長の娘・五徳の演技で絶賛された乃木坂46の久保史緒里。

いのうえ歌舞伎『天號星』に出演する久保史緒里

次回はついに、日本屈指の人気劇団「劇団☆新感線」のアクション時代劇『天號星(てんごうせい)』に、物語の鍵を握る巫女・みさき役で出演する。アイドルの枠を超えて、古今東西の様々な世界にナチュラルに溶け込んでいく期待の星に、出演が立て続いている時代劇に対する思いや、最近目覚めた趣味などについて訊いた。

取材・文/吉永美和子 写真/渡邉一生

■ 「新感線は、ずっと口角を上げて観てしまう」

──『天號星』は、実は気弱な裏稼業の元締め(古田新太)と、凄腕の殺し屋(早乙女太一)の身体が入れ替わるという時代劇です。久保さんは神を降ろしてお告げを伝える踊り巫女を演じますが、もともと新感線のファンだったそうですね。

グループの先輩・西野七瀬さんが出ていた『月影花之丞-大逆転-』(2021年)を観たのがきっかけでした。新感線さんはビジュアルにすごく迫力があるので、今回そのなかに自分がいるということに感動しています。

──座長のいのうえひでのりさんの演出は、自分のタンスの引き出しを片っ端から開けて、いろんなものを詰め込んで「これ、今日からお前のものだから」って言われるような感じ・・・と、ある俳優さんからうかがったことがあるのですが。

あー、それを聞いて「なるほど!」って思いました。稽古に入る前、頭のなかで「みさきって、こんな感じかな?」と考えていたんですけど、いのうえさんにはいのうえさんのみさき像があって、それを稽古で授けてくださるという感じです。「この台詞は、こういう言い方にしてほしい」「こう動いてほしい」と、本当に細かい部分まで言葉にしたり、実際にやって見せて教えてくださってます。

──それが自分の想像とは、違う引き出しから出てきたものだという実感が。

そうですね、そのタンスの例えはすごくしっくり来ました。みさき以外にも、個性の強いキャラクターがいっぱいいるんですけど、いのうえさんはその1人ひとりにすごく・・・もちろん演じる自分が一番愛を持って、この役を考えなきゃいけないんですけど、いのうえさんも同じ温度感で、役のことを考えてくださってるんです。その愛をいただいているという感覚は、すごくあります。

インタビュー中、丁寧に言葉を選び、応える久保

──これが新感線初出演となりますが、観るのとやるのとでは違うというか、意外とこれに苦労している、というものはありますか?

日常会話の掛け合いの、テンポ感ですね。新感線さんの芝居って、ずっと口角を上げて観てしまうんですけど、それは普通の会話のやり取りのなかにある、ちょっとした仕掛けみたいなものが、すごく好きだから。でもそれを自分がやってみると、あの空気感とかディティールは、頭で考えてできるものじゃないんだなあ、と感じました。

久保は劇団☆新幹線の特異性を「すごく好き」と語る

──確かに大阪人は、無意識にツッコミが出てくるとか、頭より反射神経で会話している部分があったりするし、それは新感線の会話にも根強くありますよね。

そうなんですよ。私は(宮城県出身の)東北人というのもあって(笑)、なかなかそれに乗り切れずにいます。(京都の)「ヨーロッパ企画」さんとは、何度かご一緒させていただいてるんですけど、同じ関西の劇団でも、日常会話のテンポやリズムが全然違うんですよね。そのなかに混ぜていただけるのは、大変だけどやっぱり楽しいので、これから新感線さんの言葉をたくさん浴びて、身につけたいと思っています。

■ 『どうする家康』は「周りに助けられた役でした」

──明治時代の花魁を演じた『桜文』(2022年)に続く時代劇の舞台ですが、久保さんぐらいの年代のアイドルが、時代物の舞台に主演するのはめずらしかったですよね。

そうですね。今までも、アイドルがあまり演じることがないような役を、やらせていただくことが多かったです。

──もしかしたら今は、作る側も観る側も「この役はアイドルには無理」とは、もはや考えなくなっているのかもしれないですね。

そういうある種のくくりって、外れれば外れるだけおもしろいと思うんですよ。演じる想像がつかない役やビジュアルをやれるのはすごくうれしいし、皆さんの反応も楽しみです。

──そういえば男性から、時代劇を演じるおもしろさをうかがう機会は多いのですが、久保さんのような20代女子が感じる、時代劇のおもしろさってなんでしょうか?

昔の人たちって、すごく感情に素直じゃないですか? 今の時代って「隠したもん勝ち」じゃないですけど、感情のおもむくままに行動するということが、あまりないように感じて。それはやっぱり、昔は「死」がすごく近い場所にあったからじゃないかと思うんです。だから1つひとつの言葉の重み、感情の大きさや振れ幅が、現代劇と比べたら圧倒的なエネルギーがあるし、パワーの大きさがすごいです。

──それは『天號星』でも感じますか?

感じますね。みさき自身は戦うシーンはないんですけど、やっぱり「守るべきもの」ができたときには強いエネルギーが発せられるし、普段だったらできない行動・・・「あ、ここでこう動くんだ!」みたいなこともあります。それは1つ、演じていておもしろいところです。

時代物への出演が続いている久保、『どうする家康』での演技も記憶に新しい

──時代劇といえば『どうする家康』で、傲慢な姫から愛情深い妻へと変わる五徳の演技もすばらしかったですね。

台本を読んだときから、多分視聴者の印象が、最初と最後で180度変わる人物になるとは思っていました。でも最初から「嫌な奴でいよう」と狙わなくても、徳川家の皆さんと一緒にいることで、凍りついた心をどんどん溶かしてもらえるだろう、と。だから私自身も五徳と同じように、徳川家の共演者の皆様によって、言い方や顔つきが自然と優しくなっていったから、本当に周りに助けられた役でした。

──父である織田信長(岡田准一)の思いを、特に語るシーンはなかったのですが、ご自身はどのように考えて演じてらっしゃったのですか?

顔をガッとつかんでくるとか、一見すごく怖い父でしたよね(笑)。でもやっぱりそんな父の偉大さがすごく好きでしたし、その娘であることに誇りを持っていました。織田家への家族愛はしっかりあるけど、徳川家に嫁いだことで、新しい家族の形を知って。行動とは裏腹に、心のなかではどちらの家にも、強い愛情を抱いていたという気がします。

──その岡田准一さんは先日の会見で、久保さんを「素直に演技を受けてくれる、すごく上手い役者」とほめてらっしゃいましたよ。

え、本当ですか? 岡田さんは意外と一緒のシーンが少なかったんですけど、いつも演出陣の皆さんと「五徳にどうアプローチするか」を一緒に考えてくださっていたんです。だからそれに応えたいという一心で、食らいついていました。うれしいです!!

■ 「初めてのお酒は父と一緒にと決めていた」

──共演の古田新太さんが、会見中に「明後日呑みに行こう」と誘っていたのが話題になっていました。久保さんが20歳になったのは、ちょうどコロナ禍の最中だったから、気軽に呑み会ができなくて残念だったのでは。

そうなんですよ。でも初めてのお酒は父と一緒にと決めていたので、実家に戻ったときに呑みました。そのときちょうど演じていたのが『夜は短し歩けよ乙女』(2021年)の黒髪の乙女で、酒豪という設定だったから、それでガーッと行きたいというのもあって。

──偽電気ブランを?(注:同作に出てくる幻の名酒)

呑みたかったんですけど(笑)、ラム酒が好きな役だから、ラムコークで乾杯しました。昨日は大阪で、(会見に出席した)皆さんと呑みに行けたんですよ。お話を聞くのがすごく楽しくて、こうやってどんどんカンパニーの仲を深めていくんだなあ・・・と思いました。私のような新参者が居やすい環境を作ってくださるのが、本当にありがたいし、そこはもう少し甘えて、もっともっとお酒を交わして仲良くなっていけたらと思います。

現在22歳の久保、これからの展望を強い眼差しで語った

──呑み以外にも「これをもっとやってみたい」と思っていることってありますか?

最近「旅行に行くのが楽しい」と、やっと気づきました(笑)。休みの日は、家でずーっと寝ちゃうタイプでしたが、去年の春に箱根温泉旅行をして「あ、こういう時間はすごく大事だなあ」と。これからは積極的に出向いていきたいし、舞台とかでいろんな地方に行く経験を、もっと積みたいと思いました。

──地方公演では、毎年大阪に行っていますね。

そうですね。やっぱりその土地の持つパワーを感じることは、人生に深みを持たせてくれると思います。今回は結構大阪に滞在できるので、もっとこの土地を好きになって、エネルギーを持って帰りたいですね。この(取材場所の)窓の外を見るだけでも、気になる所がありますし!

『天號星』は古田新太、早乙女太一、早乙女友貴、高田聖子、粟根まこと、山本千尋、池田成志などが出演。東京公演を経て、大阪公演は11月1〜20日に「COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール」(大阪市中央区)にて上演される。チケットは一般1万4800円、22歳以下2200円、現在発売中。

劇団☆新感線43周年興行・秋公演 いのうえ歌舞伎『天號星』

期間:2023年11月1日(水)~20日(月)
会場:COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール(大阪市中央区大阪城3-6)
料金:14800円(ヤングチケット2200円※22歳以下)

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