新NISAで見落としがちな企業型DCの強み、転職・退職予定の人が気をつけたいポイントとは?

「神改正」と注目される新NISAへの関心が高まりすぎて、最近はないがしろにされがちな確定拠出年金ですが、特に企業型は自分で運用ができる退職金とも言える大切なものですから最大限活用したいものです。今回は見落としがちな企業型DCの活用ポイントと注意点を解説します。


企業型確定拠出年金は退職金の一種

会社の制度にはなかなか関心が持てないというのは多くの方が共通でもたれる感情です。例えば「NISAではどのような運用をしたら良いのか」といった相談に来られる方であっても、自分が勤める会社に「企業型確定拠出年金」があるのかないのか、それさえも分からないという方も少なくありません。

資産形成は「仕組み作り」です。何にいくら投資をしようかと考えるよりも、最もストレスなく継続して資産形成ができるような「仕組み」を作ることが一番重要です。その中で、確定拠出年金(企業型DCあるいはiDeCo)と少額投資非課税制度(NISA)の税制メリットを日々の暮らしのなかに無理なく組み込んでいくかが最大のポイントです。

仕組み化の上で会社の退職金制度は金額が大きいという点からも最初に確認したいポイントです。退職一時金なのか、確定給付企業年金(DB)なのか、企業型確定拠出年金(DC)なのか、もしくは全くないのかの把握です。

退職一時金の場合は、勤続年数連動なのかポイント制なのか、あるいはもっと別の計算ルールがあるのかをチェックします。最近では「定年が60歳から65歳に引き上げられたけれど退職金については60歳以降の退職金の増額カーブは非常になだらかでがっかりした」という声を聞くこともあります。

DBも概ね同じようなチェックポイントですが、2024年12月以降、企業型DCと合算された掛金で企業年金を管理するようになるため最近は会社から拠出額が提示されるように変わってきているようです。

DCは、言ってみれば退職金を前払いしてもらっていて、かつ自分自身で運用責任を担う訳ですから、会社からいくらの掛金を受けているのかの理解はマストです。また会社によっては「想定利回り」と呼ばれる期待される利回りがあることもあります。この利回りを達成しないと、本来受け取れるはずであった退職金の金額より下回るという意味となります。

また会社によっては従業員の給与を原資として、会社の企業型確定拠出として拠出するという「選択制」が用いられているところもあります。この場合、給与の一部をDCの掛金とすると税金の対象とならないばかりか、社会保険料の算定対象ともならないため、社会保険料の支払が減ることがあります。

社会保険料の支払が減るということは給付も減るということに、改めて注意が必要です。特に病気やけがで働けない場合に、健康保険から給付される傷病手当金もDCの掛金を拠出すると減額されます。

目安としては、1万円給与を原資としてDCの掛金とすると、一日あたり222円手当が減ります。(10,000円÷30日x2/3)傷病手当金は、1年半給付を受けられますから最大で121,500円ほど手当が少なくなるということです。仮に最高額である55,000円を拠出すると傷病手当金の受けられなくなる金額は一日あたり1,222円、最高で67万円ほど給付が少なくなります。

その他にも老齢厚生年金、遺族厚生年金、障害厚生年金、出産手当金、育児休業給付金、介護休業給付金、雇用保険の基本手当など影響があります。また給与を原資として掛金を拠出するとその分が残業代に反映されないという会社もあります。このあたりは注意しておきたいところです。

個人掛金の拠出も実行する

DCの事業主掛金には法律上上限が設定されています。月55,000円でDBがある会社の場合、その半額である月27,500円です。とはいえ、上限いっぱいまでの事業主掛金を受けている方は希で、5,000円から10,000円くらいの方が多いのではという感覚です。

事業主掛金と合算で55,000円かつ事業主掛金同額まで、個人で掛金を拠出できるのがマッチング拠出です。あるいは、マッチング拠出を選ばずiDeCo併用も可能です。こちらは事業主掛金と合算で55,000円かつ20,000円が上限です。なお、DBもある会社の場合、iDeCo併用の掛金上限は12,000円です。なお、いずれの方法で個人掛金を拠出しても掛金は全額所得控除ですから節税メリットがあります。

残念ながらこの制度も、あまり活用されてはいないようです。少なくとも、自分にとってはどちらが良いのかくらいは検討してみましょう。冒頭申し上げた通り、最近はNISAが人気で、かついつでも解約が可能という点を好ましく思う方も少なくないのですが、確定拠出年金の税制優遇の仕組みに勝るものはありません。誰しも必ず老後があるのですから、やはり最大限活用していただきたいと考えます。

では、マッチング拠出とiDeCo併用ならどちらを選ぶべきでしょうか? まず掛金で考えると事業主掛金が20,000円未満であればiDeCo併用の方が掛金を多く出すことができます。一方iDeCo併用の場合は自分自身で手数料を負担しますし、自分で金融機関との手続きを行いますので、その点ではマッチング拠出の方が良いでしょう。

会社員にとってもっとも重要な退職時の注意点

転職あるいは退職は、企業型確定拠出年金において最も注意が必要な時です。あとから後悔しないよう事前に確認が必要です。

まず企業型DCは、会社の制度であるがゆえに会社を辞めるとDCの資産をiDeCo等に移換しなければなりません。その際は必ずすべての金融商品を売却して現金として移換するというのがルールです。

従って、転職を考えている人、定年退職の際に全ての資金を引きだそうと考えている場合は、前もって株式投資信託など価格が上下しやすいものから定期預金など金額が変動しない商品に切り替えた方が望ましいでしょう。何もせずに会社の加入資格を喪失したら金融機関の指定するタイミングで全売却されます。

マッチング拠出をした分も、企業型DCの口座に入るので、例え個人拠出といえども会社を辞めると現金化されます。従って転職が考えられる人は、マッチングではなくiDeCoを併用しておいた方が運用の継続性が保てるので良いかも知れません。

会社によっては、短期で会社を辞めると「事業主返還」といって事業主が拠出した掛金について返金を求められたりすることがあります。これは会社を辞めたあとで、金融機関によって手続きが行われます。事業主返還があることを知らずにいると、いつの間にか自分のDC資産が減っていたということにもなりかねません。

例えば、勤続年数3年未満での退職の場合、事業主返還を行うというルールであれば、その期間を満たさず退職すると、事業主から受けた掛金を全額返金します。仮にその間に10万円の事業主掛金を受けていれば10万円が残高から差し引かれます。事業主掛金は10万円だったけれど、運用がうまくいかず5万円になってしまったという場合は、5万円を上限として事業主に返金します。

この事業主返還を設定するか、あるいは勤続何年にするかはそれぞれの会社が決定します。これは退職金を一定の勤続年数がないと支払わないという慣習がありそれを踏襲したものと言われています。

この時、間違ってはいけないのは、期間の設定は「勤続年数」であるということです。ある会社で、これを「加入期間」と間違って運用していたケースがありました。そこは、入社から一定期間経過しないと企業型DCの加入資格を得られないとしていたため、誤って事業主返還を求められた方がいらっしゃいました。

それについては、法律上「勤続年数」であることが定められているため、会社に間違いを指摘してもらいましたが、会社を辞める際に手続きに問題が起こるのはあまり気分の良いものではありません。

事業主返還を加入期間で判断すると、その会社に入社する前にiDeCoや企業型DCをしている社員については、その加入期間が通算されるため事業主返還というルールが効かなくなります。

そういう原理原則的な理由を理解せず、社内ルールだと思い込んでしまうとやはり間違いが起こってしまいます。確定拠出年金は複雑だと言われてしまうとそれまでですが、自分の身を守るためにも就業規則を良く読む、確定拠出年金のルールを理解するといったことはしておきたいものです。

企業型DCは、各会社独自の人事制度であるが故に、制度運用に個性が生じることも多々ありますが、資産形成の仕組み化を進める上ではとても重要な要素ですから、1人では難しいと思った場合はぜひファイナンシャルプランナーなどに相談してみていただきたいと思います。

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