Vol.07 プリビズとは?ハリウッドで活躍するブリビズ・アーティストに聞く[鍋潤太郎のハリウッドVFX便り]

はじめに

ハリウッド映画のメイキング記事を読んでいると、「プリビズ」という言葉が出てくることが多い。しかし、学生の方やVFXにあまり馴染みのない方には、プリビズが具体的にどのようなものであるか、よくご存じでない方も多いことだろう。

プリビズは、プリ・ビジュアライゼーションの略語であるが、ハリウッドの現場でもPre-Visualization / Pre-Vis / Pre-Vizのように、何種類かの表記方法がある。

簡単に言えば、3Dソフトを用いて、撮影前に演出やアクションの展開をラフなアニメーションで予習したり、フル・デジタルのショットに仮のカメラ設定やアニメーションをつけて見え具合を予測したり、複雑なモーションコントロール撮影を事前にシュミレーションする作業プロセスの総称である。

今回のコラムでは、実際にハリウッドの現場でプリビズの専門家としてご活躍されている方にご登場いただき、「プリビズとは?」について伺ってみた。

※今回のインタビューは英語で行われた。その模様を、筆者の意訳によってお届けすることにしよう。

プリビズの専門家に聞く

お話を伺ったのは、こちらの方である。

ロイ・佐藤(Roy Sato)

ハワイ州ホノルル生まれ。代々木アニメーション学院を卒業後、都内のAICスタジオ、ウォルト・ディズニー・アニメーション・ジャパン・スタジオ等で経験を積む。1997年、スクウェア(現・スクウェア・エニックス)のホノルル・スタジオにて制作された映画「ファイナルファンタジー」(英名:Final Fantasy:The Spirits Within)に最初のリードアニメーターとして参加。現在はDigital Domain LAにてシニア・アニメーター、およびリード・プリビズ・アーティストとして勤務。Digital Domain(以下:DD)での勤務歴は15年以上に及ぶ。

――簡単な自己紹介をお願いします。

私はハワイ州ホノルルの出身です。日本の代々木アニメーション学院を卒業後、2Dアニメーションのアニメーターとしてのキャリアをスタートさせました。まず、東京のAICスタジオで勤務後、三鷹に新しく設立されたウォルト・ディズニー・アニメーション・ジャパン・スタジオで勤務していました。その当時、ディズニーは多くのアニメーションを海外に委託しており、日本のスタジオでは、そのシリーズの制作を依頼されていました。

その後、1997年にホノルルでスクウェア(現・スクウェア・エニックス)の映画「ファイナルファンタジー」(2001)のプロジェクトで、私は最初のリードアニメーターとして雇われました。それが私にとっての初めての3Dアニメーション作品でした。その後、幾つかの小規模プロジェクトに携わった後、LAのDDに移籍しました。現在はDDでシニア・アニメーターおよびリード・プリビズ・アーティストとして勤務しています。

――「プリビズ」を、VFXに詳しくない方にもわかりやすく、説明していただけますか?

プリビズとは、監督が頭の中で持つビジョンと、最終的な映画の完成映像と、その間の「重要かつ視覚的な架け橋」となります。

旧来の方法では、監督が思い描いているものを他の映画制作スタッフに説明するために、絵コンテやストーリーボードが描かれていました。

プリビズは、1つのショットを撮影する前に、監督の考え、脚本、コンセプトのアイデアを取り入れて、「映画の大まかな3Dバージョン」を組み立てる作業と言えるでしょう。

――「プリビズ」には、どのような歴史があるのでしょうか。

私はプリビズ史の専門家ではないので、歴史についてはあまり詳しくはありませんが(笑)。

おそらく、プリビズの初期のイテレーションの1つである事例は覚えています。「アニマティクス」と呼ばれるそれは、「スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還」(1983)のプリプロダクションで、アーティストたちはアクション・フィギュアやスピーダーバイクの大まかなモデルを使用し、家庭用ビデオカメラで、スピーダーバイクのシーケンスを撮影して、それを実際に撮影の参考にしていました。それがプリビズ誕生のルーツだったのかどうか、実際のところはわかりませんが、この事例は有名な制作エピソードでした。

その後、3Dソフトウェアがより利用可能になるにつれて、プロダクションでは実写とCG映画の両方を支援するためにラフ・ブロッキング(=仮のアニメーション)を使用し始めたと思います。

私が参加した映画「ファイナルファンタジー」のプロダクションでは、プリビズが非常に大まかなカメラワークやキャラクターの動きといった、最終ショットの基礎を築きました。

――「プリビズ」には、どのような利点があるのでしょうか。

プロダクションに掛かる、時間とお金を節約できます!

監督にとって、プリビズは「自分のアイデアがうまくいくかどうか」を説明する素晴らしい方法だと思います。撮影監督にとっては、レンズとカメラワークのセットアップに役立つだけでなく、実際のセットでカメラが動作する必要があるため、カメラが後ろに下がった際にセットの壁や柱にぶつからないか等の潜在的な問題を事前に明らかにするのに役立ちます。

私はプリビズと最終アニメーションの両方に取り組んだ経験がありますが、プリビズの段階で監督からアプルーブされた3Dシーンファイルを用意することで、VFXスタジオの他の部署にとって非常に役立つことを知っています。そのため、ワークフローの下流にいる他の部署のアーティストは、受け取ったシーンファイルを開けば、「シーンがどのように見えるべきか」を正確に知ることができます。

――メイキング講演などで、よく「ポストビズ」(Postviz)という用語が出てきます。プリビズとの違いは何でしょうか?

まず最初に、プリビズに従ってショットが撮影され、プレート(実写素材)がポストビズ・アーティストに渡されます。そしてプレートの上に、CGセット、特殊効果、CGキャラクターなどの要素を仮合成して、「最終形態がどのように見えるか」を監督に事前にイメージしてもらうプロセス、これがポストビズです。

映画のプロダクションでは、「最終ショットが監督の期待通りに見えるか、そうでないか」を未然に知ることが大変重要となります。これは、事前に問題を明らかにしたり、後でVFXアーティストが調整を加える際の、「より詳細なガイド」を提供したりできるため、プリビズと同じくらい重要なプロセスであると私は信じています。

――ハリウッドでは、THE THIRD FLOORに代表される、プリビズ専門の会社があります。近年、大手VFXスタジオが社内にプリビズ部門を持つケースが見受けられるようになりました。例えばDDにもプリビズ部門があります。これには、どのような利点があるのでしょうか?

私はDDのプリビズ部門の立ち上げ当初から関わっていました。DDのビジュアライズ・スーパーバイザーのスコット・メドウズは、映画「トロン:レガシー」(2010)のプロダクション開始とともに、社内にプリビズ部門を持つことを提言しました。

社内にプリビズ部門を持つことで、プロセスが非常に円滑になると思います。すべての部門が1つ屋根の下に集まり、コミュニケーションがはるかに容易になりました。プリビズを社外に外注すると、時間とコミュニケーションの問題が常に発生し、コストの高騰につながる可能性があると思います。プリビズの活用が、よりスタンダードになるにつれて、VFXスタジオは独自のプリビズ部門を持つ必要性を感じていると思います。

映画「トロン:レガシー」(2010)から、プリビズの例Image Courtesy:Digital Domain/©Disney
映画「トロン:レガシー」(2010)から、同じショットのファイナル画像Image Courtesy: Digital Domain/©Disney

――実際にプリビズの作業をしていて、「楽しい」と感じる部分は何でしょうか?

プリビズは、クリエイター/ディレクターと話し合い、彼らのビジョンを初めてアニメーションで表現するスタートラインとなるため、私にとって非常に楽しいです。おそらくデジタル・アーティストの中では、フィルム・メイカー(映画制作者)に最も近いポジションでしょう。

ストーリー、キャラクター、背景、ライト、カメラ、エフェクトを作成し、他の人がガイドとして使用できるように組み立てます。プリビズ・アーティストによって様々な考え方があると思いますが、私の場合、アイデア、デザイン、またはクールな(=カッコ良い)アニメーションのプリビズ・ショットを思いついたとき、個人的には非常に満足できます。監督もそれを気に入ってくれて、それが最終的なムービーにまで反映されます。

プリビズ作業をしていて、いちアニメーターの視点から「面白いな」と感じることは、私は「アニメーターとしてよりも、プリビズ・アーティストとしてアニメーションを作ることが多い」という点です。

これは、まさに2つの異なる考え方があると思います。

アニメーションでは、各キャラクターが持つモチベーションや物理的要素を理解し、動くものすべてに集中して作業を行います。また、1ショットに何日もかけて動きを詰めていきます。

一方、プリビズの場合、作業においてアニメーション自体は間違いなく重要なスキルであることに変わりはありませんが、スケジュールの都合上、1ショットに何日も何週間も費やすことはできません。時には監督にアイデアを伝えるために、1日に5~6ショット、または1つのショットから多くのバリエーションを作成しなければならないこともあります。そういった違いがあるのです。

最後に、プリビズは、監督、俳優、撮影スタッフと一緒に映画セットで働くことができる、数あるデジタル・アーティストのポジションの中でも稀な仕事の1つだと思います。私はいくつかの撮影現場に行ったことがありますが、我々がショットをプリビズした後、撮影スタッフが実在の撮影セットで、衣装を身にまとった俳優の演技によって、そのショットが「生命を吹き込まれていく」瞬間を見ると、本当にビックリします。

私のキャリアの中で最高の思い出のいくつかは、撮影セットで働いたこと、監督と直接話したこと、そしてそれが実際にショットとして撮影されていくのを目の当たりにできたことです。

It's a great job, and I love it!

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