チャンピオン争いが厳しくなったホンダ陣営「BSのNSX同士でタイム差が開きすぎている」第7戦オートポリス戦総括

 第6戦SUGOの決勝中盤。不慮のアクシデントで負傷したホンダ陣営エースの山本尚貴(100号車STANLEY NSX-GT)がシリーズ終盤2戦の欠場を発表。迎えた第7戦オートポリス(AP)の土曜走り出しでは、前戦ポールシッターかつ繰り上げ勝者となった8号車ARTA MUGEN NSX-GTがまさかのクラッシュと、この週末のホンダ陣営も2戦連続で厳しい状況での勝負を強いられることになってしまった。

 エンジン開発責任者でありGTプロジェクトの統括も担うHRCの佐伯昌浩LPL(スーパーGTプロジェクトリーダー)は、陣営内の16号車ARTA MUGEN NSX-GTがレコードブレイクのポールポジションを獲得した土曜予選後、最前列確保の喜びを前にまずは以下の言葉からレースウイークを始めた。

「前戦SUGOの事故で山本選手が参加できなくなるという事態で、ホンダ陣営としては後半2戦に向け、かなり苦しい状態で戦うことになりました。山本選手は病院で治療と療養が続いていて、完治に向け努力していますので、山本選手への応援もよろしくお願い致します」

 そのSUGOではGT300の18号車UPGARAGE NSX GT3(最低地上高違反)と、GT500の17号車Astemo NSX-GT(スキッドブロック厚み規定違反)と両クラスを制覇したNSXが相次いで再車検不合格となり、今季チャンピオンシップの趨勢も大きく傾く事態となったが、GT500での要因となったスキッドブロックに関しても、このAPに向けホンダ陣営全体への注意喚起を実施したという。

「もとはDTM(ドイツ・ツーリングカー選手権)さんとのコラボで始まった規定なので、スキッドブロックを確認する箇所やエリアに関しては割と厳しい。スキッドブロックを使う規則のカテゴリーは他にもありますが、ピンポイントで測るのでなく広範囲に、全面にわたって『これを満たしなさい』というような書き方です。規則的には2020年から使っている技術規則で、ずっと同じ文書でとくに何も変わっていないですが規則書が英文しかない部分もありますので、『チームさんのスキッドブロックの管理の仕方をこうしましょう』という部分を共有しました」と説明するのは、NSX-GTの車体開発を担当する徃西友宏氏だ。

 今季は鈴鹿でも23号車(MOTUL AUTECH Z)が同様の再車検不合格を経験したが、実際のSUGOでは17号車の走行シーン中にフロアから火花や白煙が上がる量や場面もそれほど見受けられず「スキッドブロックが減るほど、車高を下げれば下げるだけ速くなるかというと、今はそういう単純なクルマではない」とも言う。

「逆に抜群に速くてブッチ切りで優勝したクルマでも、全然余裕のスキッドブロックで再車検を合格してるクルマがNSXにもあります。そこだけに固執して『車高を上げるとクルマのパフォーマンスが落ちる』など、変な頑張り方はしなくていいと思っています」と徃西氏。

 こうした意識も含めて走り始めたAPでのホンダ陣営、8号車は午前のクラッシュからなんとか修復が間に合い、予選最後尾を避けることが叶ったものの、アライメントが取れていないクルマでは10番手が精一杯に。その一方で16号車ARTAは「セクター2がすごく速かった」と、首脳陣も驚きのタイムで、福住仁嶺がコースレコードを更新してみせた。

 本州のサーキットと比較した年間走行車両数や、その舗装面の荒さなどから『タイヤへの攻撃性が高い』として知られるAPだが、この週末における想定外の低温条件、持ち込みタイヤのレンジとセットアップなど、翌日の決勝を見据えたチョイスを考慮しても「同じBS(ブリヂストン)勢としても、他社も含めて結構バラツキが出てるんじゃないかと思いますが、そこそこのサクセスウエイト(SW=37kg)も積んでますし、あそこまで同じBSのNSX同士でタイム差が開くのは、ちょっとビックリしました」(佐伯氏)と言わしめるアタックとなった。

 ただし、この時点で背後に4台が連なったライバル陣営をして、決勝のリザルトにも大きく影響を及ぼしそうな、ある懸念点にも触れていた。

「速いトヨタさんのクルマのセクタータイムを見ても、最終(S3)でずば抜けて速いクルマがいる。エンジンパワーが出ている、出ていないというよりは、履いているタイヤを含めて、実際のクルマが本当に速いという感じでした」と、その印象を語った徃西氏。

「こちらはクラッシュやドライバー変更など諸条件により、同じBSタイヤを履くNSX4車が予選でしっかりまとまったタイムを出せていない。逆にトヨタさんはしっかりウエイト(第7戦よりSWが半減)が軽くなってくるのと連動して、まとまって皆さんが同じようなタイムを出されてるので、かなり手強いですね……」

 昨季のここAPでは、同じく土曜午前にクラッシュを喫して週末をカーボンブラックのボンネットで戦い抜いた17号車が、リヤのスタビリティを置いても「フロントタイヤを守り抜く」セットアップで、逆境からのドラマティックな優勝を飾っている。

 同じコンパウンドのタイヤを装着しても、セットアップ次第で抜群に速く走れるバランスもあれば、早々にフロントタイヤが悲鳴を上げたり、この週末も各陣営から聞こえて来た「ピックアップの多さ」により、いつまでもリヤタイヤの回復がままならないなど、そのタイヤセットが許容できるアンダー/オーバーのバランスの中で、ロングディスタンスをいかに上手く走らせるかが勝負になる。

 その点、ポール発進から決勝残り10周まで首位を維持しながら、97周走破時点でわずか5.474秒差の2位となった16号車と、予選12番手からの大逆転を決めた36号車(au TOM’S GR Supra)では、最終セクターでの走りに大きな違いがあったようにも見受けられた。

「まだ全体のタイムを見ての分析は出来ておらず、あくまで映像からの印象ですが、やはり(上りの)コーナーが連続する区間なので、例えばその周にちょっとピックアップしてたりだとか、何かグリップに問題を抱えてる等があれば、一気にライバルに詰められる場所ではある」と決勝後に振り返った徃西氏。

「今日はNSXがあの区間で引き離せているという画はあまり見なかったですし、予選の1周はまだクリーンな路面とタイヤで走れると思いますが、レース中でもセクター3でアドバンテージがなかったかな、という気はしています。それが非常に僅差のレースにしているな……というのはすごく感じました」と、往西氏は続けた。

 これで恒例”ノーウエイト勝負”の最終戦モビリティリゾートもてぎには、ランキング3位の16号車(53pt)がトップの36号車au TOM’S GR Supraと16点差(69pt)でタイトル挑戦権を持って臨むが、ビッグブレーキングでの安定性に定評あるNSX-GTは、もうひとつのホームコースとして好相性を維持して来たトラックでもある。そして、ランキング2位の3号車Niterra MOTUL Z(62pt)のニッサンZも、武器の最高速に加えてブレーキングゾーンでの強みも増すなど、ライバル陣営との差は詰まりつつある。

「我々はもう16号車でポール・トゥ・ウインを目指すっていうところに集中したいと思います」(佐伯氏)との言葉どおり、その上で選手権首位36号車(69pt)が6位以下(16号車がPP以外なら7位)、同2位の3号車が2位以下(同3位)の条件付きながら、ラストイヤーNSX-GTの花道を飾れるか。緊迫の勝負が待ち受ける。

予選6番手からオープニングラップで2台オーバーテイクするなど一時3番手まで順位を上げたAstemo NSX-GT松下信治「今日はパフォーマンスは出せましたが、優勝するつもりで来ていたので結果的には悔しいですね」決勝は6位に終わった

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