マッチングアプリで出会った女子高生が消えた!? AR少女にのめり込みリアルとバーチャルの境界に沈んでいく男を描いた大江崇允監督作『鯨の骨』

©2023『鯨の骨』製作委員会

「ねえ、私のこと見えてる?」

アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』の脚本家・大江崇允が監督を務め、リアルとバーチャルの境界が曖昧になった世界でARアプリのカリスマ少女にのめり込んでいく男を描いたミステリー『鯨の骨』が全国公開中だ。

――結婚間近だった恋人と破局した不眠症の間宮は、マッチングアプリで唯一返信をくれた女子高生と会うが、女子高生は間宮のアパートで自殺してしまう。うろたえて山中に埋めようとするも、気がつけば死体は消えていた……。

間宮はARアプリ<王様の耳はロバの耳(通称ミミ)>(※)の中で、死んだ女子高生と瓜二つの少女“明日香”を発見する。“明日香”は<ミミ>を通じて再生できる動画を街中で投稿し、動画目当てのファンたちが街を徘徊するカリスマ的存在だった。

“明日香”の痕跡を追いかけるうちに、現実と幻想の境界が曖昧になっていく間宮。いったい“明日香”とは何者なのか? 彼女は死んだ少女と同一人物? そして本当に存在するのだろうか?

※ARとは?ARとは「Augmented Reality」の略称で、日本語では「拡張現実」を意味する。現実世界での体験にデジタル情報を重ね合わせ、新たな価値を生み出す「XR(Cross Reality)」と呼ばれる先端技術のひとつ。ARアプリの主な例として『セカイカメラ』『ポケモンGO』などがある。

※アプリ<ミミ>とは?劇中に登場する、位置情報を元としてスマホカメラ画面で撮影した自分の動画を撮影場所に残せるサービス。また、ミミを起動することで、その場所に残された動画を再生することができる。名前の由来となったあのお伽話のように、秘密や愚痴を垂れ流し、それで街を埋め尽くそうという悪意のコンセプトで作られたジャンクアプリ。

監督は『ドライブ・マイ・カー』『ガンニバル』脚本の大江崇允

濱口竜介監督と共同執筆した『ドライブ・マイ・カー』が米アカデミー賞脚色賞にノミネートされ、話題沸騰の配信ドラマ「ガンニバル」の脚本も手がけた大江崇允。いま世界が注目する映画作家が、リアルとバーチャルが混濁する現代の寄る辺なさを、ミステリアスな迷宮ファンタジーに昇華させた最新監督作が『鯨の骨』だ。

海の底には、“鯨の骨”の栄養を求めて群がる魚たちがいるという。“明日香”をさがす人々も、半バーチャル世界の底に潜り込み、ほのかな光を求めて集まってくる。果たして彼女は救いをもたらしてくれる希望か、それとも現実から目をそらし続けるための底なし沼か。誰もが確実ななにかを欲しながら、見つけられずにいる時代の不安定さを反映しながら、ときに切実に、ときにユーモラスに展開する“少女探し”。気がつけば、遠い他人ごとに思えていた“間宮”や“明日香”と自分とのリンクが見えてくる。

拡張現実にハマる落合モトキ、不思議なカリスマを放つAR少女あの

まったくの未知だった拡張現実アプリにはまり込んでいくサラリーマン、間宮を演じたのは『桐島、部活やめるってよ』『素敵なダイナマイトスキャンダル』の落合モトキ。子役からの長いキャリアを持つ実力派が、無気力とナイーブの狭間を漂う主人公を好演。そして間宮のみならず、孤独なひとびとを引き寄せる“明日香”には、強烈な個性で注目を集めるミュージシャン、あのを起用。“あの”という存在が象徴している今の時代の空気がみごとに役に生かされており、とらえどころのないカリスマ性で唯一無二の魅力を放っている。

また、明日香に憧れ、<ミミ>内で新たなカリスマを目指す女性、凛役に横田真悠、間宮の恋人、由香理役に大西礼芳、明日香の熱狂的な信者、しんさん役に宇野祥平が扮し、脇を固めている。

『鯨の骨』は2023年10月13日(金)より渋谷シネクイント、シネマート新宿ほか全国公開

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