2023年10月17日、岡山~出雲市駅間を伯備線経由で結ぶ特急「やくも」用の新型車両「273系特急形直流電車」が報道陣に公開されました。
まばゆい「やくもブロンズ」の車体に国内初の「車上型の制御付自然振り子方式」を導入し、乗り心地を改善した新型車両は、2024年春以降にデビューし現行の381系を置き換えていきます。
「やくもブロンズ」のエクステリア・くつろぎのインテリア
新型273系のデザインコンセプトは「沿線の風景に響き自然に映える車体、山陰の我が家のようにくつろげる温もりのある車内」です。株式会社イチバンセン(デザイナー川西康之氏)と近畿車輛株式会社デザイン室がデザインを監修しています。
エクステリアは山陰線や伯備線の風景に響き、自然に映える車体を意識したデザイン。車体の色は宍道湖の夕日やたたら製鉄の黄金色、大山夏山開きの松明、赤瓦の街並みなどをイメージした「やくもブロンズ」――岡山駅で山陽新幹線から乗り換える際に、このブロンズの車体を見ると「山陰」をイメージする、そんなカラーリングです。
窓周りの色はロゴと同じクリーム色に揃えていますが、デザイン監修の川西さんによれば、「特急らしい優雅さ」の表現や「編成として綺麗に見せたい」という思いからそのようなデザインになったとのことです。車体前面や車体側面に配した八雲立つ「やくも」のロゴは、旧来のヘッドマークに似せたデザインとし、伝統を継承しました。
車内はグリーン車・普通車でデザインが異なる
273系の座席はゆったり広々とした作りになっており、シートピッチは新幹線と同じ1,040mm。これは新幹線からの乗り換え時に違和感を感じさせないよう設定されたものです。またリクライニングに連動して座面が動くチルト機構を採用し、しっかりと身体をホールドするバケット構造で座り心地を向上させています。
デザインはグリーン車と普通車で異なり、普座席通車は沿線の山々をイメージした緑色ベースに、「古来から神事に用いられ、人を守る魔除けの意味もある『麻の葉』模様をあしらい、沿線の自然・風土を演出」しました。なお、麻の葉柄はカーテンにも採用されています。
一方のグリーン車は明るく空間の広がりを感じられる黄色ベースに。「富と長寿の象徴とされる亀の甲羅をイメージした『積石亀甲』模様をあしらい、山陰の文化・風土を演出」するデザインです。
気になるのが車両の窓。サイズは高さが830mm、幅が1816mmと大型のものになっており、座席2列に一枚割り当てられています。カーテンは振り子車両特有の揺れを考慮し、ロールカーテンとしました。
セミコンパートメントやフリースペースも
1号車の半室にはグループ向け座席「セミコンパートメント」が設置されています。鉄道車両の鉄道を生かし、向かい合うボックス席、フラットにできるシート、ゆるやかな仕切りでプライベート感を演出します。発売額は普通車指定席と同額で、4人用は3~4人、2人用は2人利用で購入することができます。
また最新の移動円滑化基準に適合した車いすスペースやバリアフリートイレ・多目的室の設置、幅広い利用者層を意識した「フリースペース」や様々な用途に対応するための「ユーティリティスペース」の設置などで快適性の向上を図ります。
273系特急形電車 概要
◆運行区間
岡山駅~出雲市駅
◆投入車両数
44両(4両×11編成)
◆投入時期
2024年春以降
◆車両製造
近畿車輌
最高速度や所要時間などは現行の381系と変わりませんが、最新設備を備えたことで乗り心地は大幅に向上。JR西日本によれば、JR西日本・鉄道総研・川崎車両が共同開発した新型の制御付自然振り子方式により乗り物酔い評価指標を23%改善したということです。
デザインも利用感も大幅にグレードアップし、ビジネスや旅行、様々な用途に対応できる新型273系「やくも」。唯一の不安は座席数の少なさですが、多客期などは併結して8両編成で運行することも検討されています。
記事:一橋正浩