これぞ大一番での勝負強さ。カイル・ラーソンが0.082秒差勝利で次ステージ1番乗り/NASCAR第33戦

 いよいよポストシーズンも終盤戦の“ラウンド・オブ・8”に突入した2023年のNASCARカップシリーズ第33戦『サウス・ポイント400』は、早くもプレーオフ4度目のポールウイナーに輝いたクリストファー・ベル(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)との熾烈なマッチアップを制し、わずか0.082秒差で勝利を収めたカイル・ラーソン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)が、自動的に3週間後の最終ステージ“チャンピオンシップ4”への出場権を獲得。日曜午後の267周中133周の最多リードラップを刻んだ2021年王者が、大一番の局面でさすがの勝負強さを披露した。

 前戦シャーロット“ローバル1”ではFPで痛恨のクラッシュを喫しながら、なんとか13位まで挽回して薄氷の次ステージ進出を決めていたラーソンは、来季2024年の挑戦を表明する北米最高峰シングルシーターの“聖典”インディアナポリス500マイルレースに向け、レースウイーク中に『ルーキー・オリエンテーション』のプログラムに臨んだ。

 シボレーエンジン搭載のアロウ・マクラーレンとヘンドリック・モータースポーツ(HMS)協業による6号車をドライブしたオーバル巧者は、この2.5マイルを72周して最速217.898mph(約350km/h)のラップを記録した。

「これほどの速さを体感できるのはクールだね」とインディカー初ドライブを満喫したラーソン。

「グリップとスピードに関しては、ほぼ期待どおりの感触だったと言える。明らかに少し不意を突かれた小さな出来事はあったが、ストレートではとにかくクルマが左に引っ張られるから、ステアリングと格闘して右に切り続けた。でもコーナーでの感触や重さは想像の範囲だったよ」

 チームのスポーティングディレクターも務める2013年インディ500覇者のトニー・カナーンも、ラーソンの初ドライブとそのパフォーマンスに「感銘を受けた」と語った。

「スーパースターがいると僕の仕事が楽になるし、チームの見栄えも良いよね」と続けたカナーン。「今朝起きたら本当に緊張していた。理由は分からないが、僕がそうなる理由はないよね(笑)。素晴らしい1日だったし、何より良かったことは僕とカイルがかつてのチームメイトだったことさ。デイトナ24時間で勝利し、互いをよく知る仲だ。僕らは今日、お互いのシートに座りシームレスに仕事を始められた。今日やるべきことはやれたと思うよ」

 こうして新たな経験を積みラスベガス・モータースピードウェイに乗り込んできたラーソンだったが、予選ではトヨタ陣営の“QF最速男”になりつつあるベルが奮闘し、元王者を抑えて今季ラスベガスで2度目のポールポジションを獲得した。

 しかし迎えた日曜は7名のドライバーによる20回のリードチェンジが起こる展開だったにも関わらず、フロントロウ発進のラーソンが圧巻のドライブでレースを支配。ステージ1、ステージ2と連続で勝利を奪っていく。

そのカイル・ラーソン(Hendrick Motorsports/シボレー・カマロ)は、来季2024年の挑戦を表明する北米最高峰シングルシーターの”聖典”インディアナポリス500に向け、レースウイーク中に『ルーキー・オリエンテーション』のプログラムに臨んだ
クリストファー・ベル(Joe Gibbs Racing/トヨタ・カムリ)が元王者を抑えて今季ラスベガスで2度目、プレーオフ4度目のポールウイナーに輝いた
デニー・ハムリン(Joe Gibbs Racing/トヨタ・カムリ)は10位。ライアン・ブレイニー(Team Penske/フォード・マスタング)は6位を”取り戻し”た

■「他に何ができたのか分からない」と敗戦の弁

 そのステージ2中盤には、一瞬ハイラインでルーズになった5号車カマロZL1がコントロールを失い、深いアングルのサイドウェイ状態で白煙を上げる場面があったものの、ダートレースやグラベル路面の経験も豊富なラーソンは危機を生き延び、劇的な修正で冷静さを取り戻す。

 タイトルチェイスの準備を整えるべく、8名のドライバーによる3戦勝ち抜きラウンドの緒戦という緊張感のなか、残り45周のリスタートでベルを従えたラーソンは、20号車カムリの執拗かつ効果的な仕掛けも抑え切り、合計1031周の年間最多リードラップ記録も樹立してのポストシーズン2勝目を飾った。

「ありがたいことに、クリストファー(・ベル)はいつも非常にクリーンなレースをする。チェッカーを受ける直前は誰だってクレイジーになる可能性はあるが、そこで敬意を持ってレースをしてくれた彼に感謝したい」と、まずは競合への賛辞を送ったラーソン。

「僕自身もターン1と2で危うく終わってしまいそうになった。サイドウェイ状態で壁にぶつかったが、そこから反撃しなければならなかった。これだけの結果を残せてうれしいし、数週間後にチャンピオンシップを争えるのは素晴らしいことだ。今後の2レースでストレスを感じなくて済むのは本当にうれしいよ」

 一方、ポール発進から61周をリードしたベルは、2位獲得ながら“チャンピオンシップ4”進出圏内から2ポイント後方のランク5位に甘んじる結果となった。

「他に何ができたのか分からないよ……」と複雑な心境を吐露したベル。「それこそ僕が“チャンピオンシップ4”進出を決める瞬間になったはずだが、完全に捉えることはできなかった。彼(ラーソン)がブロックすると読んでハイラインに行ったが、彼も同じ動きをしたんだ。ステージポイントを確実に獲得し、2位でフィニッシュできた素晴らしい1日だったと考えるよ」

 同じく3位に滑り込んだカイル・ブッシュ(リチャード・チルドレス・レーシング/シボレー・カマロ)や、38周をリードしたブラッド・ケセロウスキー(RFKレーシング/フォード・マスタング)ら非プレーオフドライバーを挟み、11位のクリス・ブッシャー(RFKレーシング/フォード・マスタング)までプレーオフの権利を持つ8名がトップ10に絡んだが、そのうち6位に入ったライアン・ブレイニー(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)の12号車は、レース後の再車検で「左フロントダンパーが規定の長さ(22.55インチ)を満たしていなかった」として、一時失格の処分を言い渡される。

 しかし、月曜日に発表されたNASCARのリリースの中で、同シリーズは検査プロセス中に使用されたテンプレートに「問題を発見した」とし、ステージとレースのフィニッシュ順位を回復する措置を講じている。

 一方、併催されたNASCARエクスフィニティ・シリーズ第30戦『アルスコ・ユニフォームス302』は、地元ラスベガス出身の24歳ライリー・ハーベスト(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)が、後続に14.9秒差という圧倒的かつ今季最大ギャップを記録してのキャリア初勝利を飾っている。

最終的に、ラーソンが合計1031周の年間最多リードラップ記録も樹立してのポストシーズン2勝目を飾った
息子のオーウェン君とともに勝利を祝ったラーソン。インディカーの感覚もリカバーに活きたか
NASCAR Xfinity Series第30戦『Alsco Uniforms 302』は、24歳ライリー・ハーベスト(Stewart-Haas Racing/フォード・マスタング)がキャリア初勝利を飾っている

© 株式会社三栄