災害時障害者を守る個別避難計画 自治体の努力義務も策定が進まず 支援者の確保が課題

災害時に自力での移動が難しい障害者の避難について、震災の教訓を生かし個別避難計画の策定が努力義務化されました。次の災害への備えです。

宮城県東松島市に住む石森祐介さん(38)です。脳性まひで自力歩行が難しく、外出する時は電動車いすを使っています。2011年3月11日、東日本大震災で九死に一生を得ました。

当時、石森さんは、海から2キロほど離れた自宅で被災しました。買い物に出掛けた母の帰りを待っていて、地震発生から約30分後に帰宅した母と祖母と一緒に内陸への避難を決意した時でした。
石森祐介さん「1.3メートルから1.4メートル前後の津波が到来しまして、音も無く家の中に黒い水が入ってきまして、その時は無我夢中で2階に駆け上がりました」

何とか2階に避難して翌日、陸上自衛隊に救助されました。1人で外にいたら逃げ遅れていたかもしれないと話します。
石森祐介さん「普通に外で動いてもおかしくない時間帯ではありました。道などにもしいたとしたら、溺死もしくは凍死していた可能性の方が高いんじゃないかなと」

震災で九死に一生を得る

東日本大震災における障害者の死亡率は、住民全体の死亡率の2倍と言われています。災害弱者の避難には、様々な困難が伴うことが浮き彫りになりました。
東北大学災害科学国際研究所佐藤翔輔准教授「車いすであったり、杖をつかないと歩けない方はスムーズな移動が困難になってしまいますので、そういった障害をお持ちの方は、情報の面と移動の面でかなりハンデが生まれてしまうと。その方を支援する計画を作るということはとても重要」

災害時に自力での避難が難しい障害者や、高齢者1人1人の避難手順や避難の際の注意点を決める個別避難計画の策定が、2021年の災害対策基本法の改正で自治体の努力義務となりました。

自治体は、要支援者の同意を得て自治会や福祉関係者らと話し合って策定します。総務省消防庁と内閣府の調査によると、1月時点で全員分の策定が完了したのは、1741ある全国の自治体のうち159と9.1%にとどまり、1人分も作っていない未策定の自治体は25.2%に上ります。

宮城県では石巻市と美里町が策定を終え、16の自治体が一部策定済みとなっていますが、残る17の自治体が策定に着手できていません。策定が進まない理由の一つが、支援者の確保の難しさです。自治体が福祉専門職などの関係者の協力を得るに至っていないケースや、高齢化が進む地域ではそもそも避難を支援できる人が少ないという課題があります。

東北大学災害科学国際研究所佐藤翔輔准教授「実は一律に障害者手帳を持っている人とか何歳以上ってなるとすごいたくさんの人数になってしまうんですけれども、実は個々に目を向けると、この人はちょっと言えばちゃんと避難してくれる人だったり。個別避難計画を作るぞって思うのも大事なんですけど、まずは本当に支援が必要な誰かっていうことを絞り込むっていうのが実は大事なんですね」

宮城県亘理町に住む佐藤翔太さん(20)です。2022年に個別避難計画が策定されました。脳性まひで寝たきりの生活を送る翔太さん。個別避難計画では、自宅から約3キロ離れた川が氾濫した場合を想定しています。多くの医療機器があるため基本的に外には避難せず、2階にいることにしていますが。
母親佐藤洋子さん「停電は一番怖いですね。呼吸器1台が7時間しか持たないんですね。バッテリー付きなんですけど。うちは1台、2台あるので14時間。それ以上自宅っていうのはちょっと厳しい」

避難に不安も

停電した場合は、福祉避難所や病院に避難すると決めました。しかし、自宅に洋子さんしかいない時、翔太さんと全ての医療機器を車まで運ぶのに40分かかります。近所の人に、いざとなった時は協力してほしいと呼び掛けていますが。
母親佐藤洋子さん「避難しなきゃいけない時に近所の人たちも働いている方が多いので、どこまで支援、お手伝いしてくれるのかが私も不安なんですよね。いなかったらどうしよう。1人でやるしかないのかなって思ってます」

個別避難計画の策定後も残る不安と課題。佐藤さんの自宅は、宮城県が2022年に新たに公表した津波浸水想定のエリアに含まれていることが分かりました。
母親佐藤洋子さん「その当時は津波の水害にならない地区だったんですけども、この作成後にここも津波に遭うってなったのでもう一度このプランは見直ししなきゃいけないんじゃないかなってちょっと思ってますね」

個別避難計画はあくまで避難への第一歩にすぎないという洋子さん。今後は地域と連携した避難訓練の実施を求めています。次の災害にどう備えるのか。障害者の避難の在り方が今、問われています。

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