衆院長崎4区補選 防衛費の増額、論戦深まらず… 大票田の基地の街・佐世保

9月、防衛関連企業を招き開かれた「水陸フェア」。補選では防衛費増額の論戦は深まっていない=陸自相浦駐屯地

 22日に投開票される衆院長崎4区補選で、大票田となる佐世保市は自衛隊や米海軍を抱える「基地の街」。2023~27年度の5年間で防衛費を約43兆円に増額する政府方針に注目が集まっている。ただ選挙戦では、自民側が防衛力の強化を声高に訴えるのに対し、立憲民主側は訴えの中での優先度は低く、踏み込んだ論戦にはなっていない。
 「この問題は大きく動こうとしている。予算を確たるものにしなければならない」。15日、佐世保中央公園。宮島大典市長は、岸田文雄首相が応援に入った自民新人、金子容三候補(40)の集会で強調した。
 「問題」とは市が長年求めてきた米軍佐世保弾薬補給所(前畑弾薬庫)の移転・返還。防衛省は24年度の概算要求で移転に向けた実証実験などの費用として約14億6千万円(24~25年度)を計上した。近年で大幅な増額要求となり、市や市議会では「懸案が前進するのでは」と期待感が先行する。
 「市長が金子候補支援に動いたのも防衛分野での政府・与党との連携の必要性を考えてのことだろう」。市議の一人は推察する。
 選挙戦で金子陣営は防衛力強化の訴えを「支持集めに有効な手段」(陣営関係者)と捉える。市内の自衛隊基地には8千人近くが勤務。保守層が多い自衛隊や基地関連企業はこれまでの国政選挙、地方選挙でも無視できない“票田”となってきた。
 そうしたこともあり、金子候補は街角の数分の演説でも防衛力強化や自衛隊員の住環境整備の必要性などに言及する。16日夜、市内の個人演説会では同党の古賀友一郎参院議員が「防衛と佐世保は切っても切れない。だからこそ4区の議席は自民党がお預かりしなければならない」と訴えた。
 ただ防衛費増額を巡っては財源がはっきりせず「説明も不十分」との声も渦巻く。加えて15日夜には木原稔防衛相が、金子候補の個人演説会で自衛隊の政治利用と取られかねない発言をして物議を醸した。翌日、発言を撤回したものの、野党は早速「罷免に値する」(福島瑞穂社民党党首)などと反発。陣営からは「野党を勢いづかせないか」と心配する声も出ている。
 一方の立民前職、末次精一候補(60)。選挙戦前半では物価高対策や既得権益の打破が訴えの中心で、防衛費増額についてはほぼ言及していない。16日の総決起集会でも福島党首が「弾薬を買うお金の半分以下で給食の無償化ができる」と取り上げただけで、末次候補や立民の泉健太代表は演説で触れなかった。
 そもそも野党の防衛政策には違いがある。末次候補は本紙政策アンケートに「防衛力を強化し、対処能力を備えます」とするが、社民は反撃能力の保有や防衛費増額について「断じて認めない」との立場。国民民主は自衛のための反撃能力保持に理解を示す。
 社民市議の一人は「接戦の中、主張を鮮明にした場合は逃げる票もある。それを最小限にしたいのではないか」とおもんぱかる。
 論戦が低調な中、基地問題に詳しいリムピース編集委員の篠崎正人氏は防衛費増額について「根拠があいまい」と指摘。「なぜ増額が必要なのか。強化の理由とされる『脅威』の中身などについて、もっと議論が必要」と指摘する。

© 株式会社長崎新聞社