ユニバーサルツーリズムあ~だこ~だ vol.5「増える訪日クルーズ客、取り残される一部のクルーズ客」

クルーズはユニバーサルツーリズムに最適

先日、海外からのクルーズ船が入港したとある港に行ってきました。2023年に入っても1〜2月はコロナでほぼゼロに近かったものの、3月以降は毎月全国の港で多くのクルーズ船が寄港し始めました。

旅行会社在籍時代に、クルーズ船を利用したツアーは、高齢で車いすや杖を使用されている顧客に大変人気のシリーズでした。大型客船内にはエレベーターがあり、バリアフリーキャビンも数ルームから十数ルーム用意されています。一度チェックインすれば、大きなスーツケースは部屋に置いたままで滞在でき、観光地から観光地への移動は寝ている間に船が運んでくれます。バスや鉄道、航空機で移動しながら周遊する旅行に比べて、乗船してしまえばストレスが少ないのがクルーズ船の旅です。

では、ツアーを企画していたころ、ハードルはなかったのか。毎回、寄港地から先の観光に向かう交通手段に頭を悩ませていました。ツアーの場合、概ね5台前後は車いすのお客様が参加されるので、リフト付き観光バスを手配しなければなりません。首都圏では、ほとんど手配に苦労することはなくなりましたが、県によってはいまだに旅行会社が手配できるリフト付き観光バスが1台もない会社もあり、寄港地でのバスの手配が一番大変でした。交通さえ何とかなれば、観光地、食事処はほぼ問題なく手配できました。

皆さまの港は誰もが楽しめる寄港地ですか?

この日は、港には中型客船(2万8千㌧クラス・乗客定員約400人)が韓国から午前7時に入港していました。

見学の目的は、杖や車いすを使用する乗船客がどのような観光に出掛けるのかを確認するためでした。しかし、行ってみると船から港には約40段のタラップだったのです。

クルーズ船の場合、乗下船口の位置だけでなく、港の構造やその時間の潮位によっても状況が異なります。

午前8時36分、一般客が概ね下船したあたりで4人のスタッフが車いすを持ち上げて年配の男性をサポートして降りてきました。

車いすにはシートベルト、4カ所にスタッフが持ち上げるためのレバーが付いています。車いすや杖を使用する方が一定数乗船しているクルーズではごく普通の対応なんですね。

下船した男性は車いすではなく、手押し車でご家族と移動されました。高齢者の中には、普段の生活では車いすは使用しておらず、旅行の間だけ必要に応じて車いすを使う方が増えています。

港には大型観光バスが待機していて、さてどの観光コースのバスの乗られるのか? と様子を見ていると。

午前9時6分、なんと! ターミナル内をわずか30分間歩いただけで、スタッフに持ち上げられて船に戻られました。

車いす使用者がいることは想定していましたが、まさか観光に行かずに船に戻るとは予想していませんでした。たまたま目にした光景ですが、じつは多くの寄港地で同様なことが起きているのではないでしょうか。

寄港地となる自治体の多くは、下船する大勢の一般客を迎え入れる準備には注力されますし、それは当然のことだと思います。一方でバスでの観光や、他の参加者のペースについていけない一部の客が取り残されていることにも目を向けるべきだと私は思います。今回のような来訪者もいることを想像し、すべてに対応はできなくてもできることは何かを考えて動き始めると、誰もが楽しめる寄港地(ユニバーサルツーリズム)として、他の港との差別化につながりクルーズ会社から選ばれる港になるはずです。

全国にあるバリアフリー旅行相談窓口との連携が鍵

自治体や観光協会だけではどうしたら良いかわからない、これも当然です。全国にはバリアフリー旅行相談窓口として「ユニバーサルツーリズムセンター」「バリアフリーツアーセンター」等を運営されている団体が数多く存在します。中には地域の観光地、飲食店、交通、宿泊等のバリアフリー情報を集約されサイトで発信されている窓口もありますよ。

(観光庁)

まずは、皆さまの地域の窓口ではどのような活動をされているかを確認するところから始めてみてはどうでしょうか。連携することで何か新しいアイデアが生まれるかもしれません。もちろんご相談いただければ、私も今までの経験を活かしてアドバイスさせていただきます!

次回以降も、あ~だこ~だと事例を紹介していきます。

寄稿者 渕山知弘(ふちやま・ともひろ)ユニバーサルツーリズム・アドバイザー / オフィス・フチ代表

© 株式会社ツーリンクス