実際の“ホームレス荷物強制撤去事件”から人間の尊厳を問いかける『香港の流れ者たち』

『香港の流れ者たち』©︎mm2 Studios Hong Kong

香港アカデミー賞11部門、台湾アカデミー賞12部門を席捲し、日本では全国5都市にて開催された「香港映画祭2022」で動員数No.1となった注目作『香港の流れ者たち(原題:濁水漂流)』が、12月16日(土)より全国順次公開される。このたび、メインビジュアルと場面写真が解禁、ジュン・リー監督からコメントが到着した。

人間の尊厳を問いかける社会派ヒューマンドラマ

香港の下町・深水埗で暮らすホームレスたちは、出所祝いにヤクを打ち、こっそり万引きする。そんな彼等の日常は、突然やってきた食物環境衛生署による“清掃”により失われてしまう。ソーシャルワーカーの助けを借り、政府に賠償を求め裁判を起こすが、和解金を前に意見が割れてしまい…。

日本でも宮下公園のホームレス排除により人権を巡る議論が巻き起こったが、香港でも同様の社会問題が起きている。本作は2012年に高架下のホームレスが強制退去させられ、政府への賠償請求の裁判が起こされた「通州街ホームレス荷物強制撤去事件」をベースに制作された。再開発のかげで追いやられるホームレスの排除問題を軸に、移民問題、そして薬物に蝕まれる貧困層など様々な社会問題を浮き彫りにしていく。

“新世代の香港映画”の俊英ジュン・リー監督は、デビュー作『トレイシー』(2018)が「東京国際映画祭」で上映された注目の監督。長編2作目となる本作で、過酷な状況の中にも人間の「尊厳」、お互いを思いやる「心」を見出し、社会派ドラマという枠を超えヒューマンドラマとして深い余韻を引き出した。

新進気鋭のジュン・リー監督の元に集まったのは、香港の新旧世代を代表するスターキャストたち。80年代から香港映画界で活躍し、『エグザイル/絆』(2006/ジョニー・トー監督)などで知られる香港のベテラン俳優フランシス・ンが、ヤク中のホームレスの人生の悲哀を表現し、新境地を切り拓いた。最近はイケオジ俳優としても名高いツェー・クワンホウ、90年代を代表するロレッタ・リー、『風の輝く朝に』(1982/レオン・ポーチ監督)で知られるセシリア・イップの特別出演も話題となった。

そして若手キャストは、『燈火は消えず』(2022/アナスタシア・ツァン監督)、『返校 言葉が消えた日』(2019/ジョン・スー監督)などの話題作への出演が続くセシリア・チョイ、『別叫我“賭神”』でチョウ・ユンファの息子役に抜擢された注目俳優ウィル・オー、『私のプリンス・エドワード』や『星くずの片隅で』で注目されるチュー・パクホンなど、注目俳優が集結した。

深水埗のホームレスを初めて取材したのは、まだ大学生頃だった。当時、彼らは翡翠市場の前で野宿していた。彼らと同じテーブルに座り語り合い、彼らが今まで癒されたことのない心の傷、忘れられない痛みを抱えていることを知った。
その後、僕は一時香港を離れていたが、再び彼の元を訪ね時、木造の家はさらに密集して、囲いはどんどん高くなり、様々な人々が行き来していた。部外者の僕にとって、彼らとの接触はますます難しくなってしまっていた。僕は外部の要因によって激変したその地域の変化を、あらゆる善意と敵意も含めて書き留めることにした。
多くの人は僕がこの映画を撮ることを知って、聞いてくる。彼らがなぜ路上で生活することになったか?ホームレスたちにはどんな過去があったか?と。
この映画について、僕はそうした質問に答える必要がないと思う。なぜなら僕は彼らを非難したり、同情したりするつもりはないからだ。僕が関心を持っているのは、彼らの「現在」の生活と状態だ。彼らがどこの出身であれ、過去に何をしてきたかには関係なく、自分の尊厳のために戦う権利があり、人間として扱われ、尊重されるべきだと信じている。
(ジュン・リー/監督)

『香港の流れ者たち』は12月16日(土)よりユーロスペースほか全国ロードショー

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