【特集】チョウザメの缶詰で全国出場の馬頭高校を追う(前編)

 那珂川町の馬頭高校には、海がない内陸の県のなかで、全国で唯一の水産科があり、特色のある授業が行われています。

 知識や経験を培ってきた生徒たちは今月、全国の高校生たちが競う缶詰のアイデアコンテストに出場しました。

 環境の配慮や地域の活性化に向けて試行錯誤しながら缶詰の開発に取り組む生徒たちの姿を追いました。

 暑さが残る8月31日、那珂川町にある馬頭高校水産科の実習場です。

 全国の高校生を対象にした缶詰のアイデアコンテスト「ローカルフィッシュカングランプリ」までおよそ1カ月に控えたこの日。

 缶詰の試作に励んでいたのは3年生の3人組です。

 馬頭高校は、海のない内陸にある県のなかで唯一・水産科がある高校です。

 小説「ナカスイ!」のモデルにもなっています。

 水産科では実習場でチョウザメを養殖。

 卵を使ってキャビアの製造や販売を手掛けていますがオスは食用として出荷される一方でメスは卵を採ることが目的のため脂が付きすぎた身は廃棄されています。

馬頭高校水産科廣田晃さん:「チョウザメを知ってもらいたい」

 そんな思いで3人が応募したローカルフィッシュカングランプリは、高校生が「食用に向かない魚」や「海産物を食い荒らす食害魚」など地域で課題になっている魚介類を選んで缶詰を開発する大会です。

 3人は、日頃から思っていた「もったいない」の気持ちから廃棄されてきたチョウザメの身に着目。

 試行錯誤を重ねてチョウザメの身で若者から高齢者まで食べられるパスタソースを開発しました。

 グランプリには全国の高校から57チームの応募がありましたが、馬頭高校は、一次審査の書類審査、二次審査のプレゼンテーション審査を通過し、みごと決勝に進みました。

 「チョウザメを知ってもらいたい」という思いのもと3人はそれぞれ得意な仕事をこなしています。

調理担当 佐藤 凛さん

プレゼン担当 廣田 晃さん

デザイン担当 渡辺 楓真さん

 チョウザメの魅力を知ってもらうためにはまずは缶詰に興味を持ってもらわなければなりません。

 この日は馬頭高校水産科の卒業生でプロのデザイナーとして活躍する中荒井季華さんに缶詰のラベルについて相談しました。

 中荒井さんは、高校生のときから研究発表などで好成績を収めているほか、水産科の生徒たちが作った調味料「あゆの魚醤」を開発して、ラベルのデザインも担当しました。

プレゼン担当 廣田晃さん:「チーム名はちょっと恰好悪いんですけどチョロンチーノです。チョウザメとペペロンチーノを合わせて」

デザイン担当 渡辺楓真さん:「チョウザメって分かりやすいのと今時感を出すためにインスタっぽくハッシュタグとか考えてみました」

 卒業生デザイナー中荒井季華さん:「ぱっと見たときに何が入っているのかわかりやすいのと、ハッシュタグがあるのもいいな、チョロンチーノを商品名として載せるのもありだと思う」

 誰の目にも止まるようなシンプルで分かりやすいデザインが良いと方向性が固まりました。

 プロのアドバイスを基にもう一度、デザインを練り直します。

 決勝までおよそ4週間に迫ったこの日(9月14日)、チョロンチーノの3人は試作品を持って味の監修をお願いしている日光市のカフェを訪れました。

 日本両棲類研究所所長の篠崎尚史さんです。

 実は、日光市出身の渡辺さんのアルバイト先。

 これまで篠崎さんのアドバイスを仰ぎながら何度も試作を繰り返し理想の味と香りのペペロンチーノソースに近づけてきました。

 この日が本番前の最後の試食会。

 3人が緊張した面持ちで見守ります。

篠崎尚史所長試食

 課題は、麺とソースを馴染ませることでしたがこれを克服。

 油で揚げたチョウザメにニンニクの香りがこうばしいパスタソースが出来上がりました。

 今回の試食でこれまでにない手ごたえを感じた3人、本番に向けて気合が入ります。

 それからおよそ2週間後(9月26日)この日の実習場には3人のクラスメートの水産科の3年生18人全員の姿がありました。

 缶詰の開発に賛同する鹿沼市の養魚場から届いた3匹のチョウザメを使いグランプリ本番用の缶詰100缶を作るためです。

 まずは血抜きをしたチョウザメを捌きます。

 そこは水産科の生徒たち。担当の長山佐知子先生の指導の下、出刃包丁を器用に使い丁寧におろしていきます。

 クラスメートもチョロンチーノの3人を応援しようとチョウザメの身を切るグループ、ソース作りのための玉ねぎやニンニクを刻み炒めるグループに分かれ作業に取り組みます。

 チョウザメ本来の淡泊な味わいと弾力を感じてもらうためキッチンペーパーで身の水分をしっかり抜きます。

 ここまで順調そうに見えましたがチョロンチーノの3人は缶詰100缶という大量生産は初めてでした。

 全てを自分たちでこなすには時間がかかり夕方になっても終わる気配がありません。

 そしてさらに…

 思っていたよりチョウザメの身が縮み一缶の量を予定より減らしても100缶には届かないことが分かりました。

 それでも最後まであきらめず缶詰を作り続けた3人。

 自信のほどは…

 缶詰のラベルも完成しました。

 黒地にチョウザメの名前の由来、チョウの形をしたウロコをあしらいました。

 最初のCの字にはチョウザメが描かれています。

 中国やヨーロッパで皇帝や王室に愛されたというエピソードにちなみハッシュタグで「皇帝の愛したパスタソース」と入れSNSでの発信も想定しました。

 そして迎えた全国大会決勝の10月8日。

 全国から集まった精鋭相手にチョロンチーノは無事にプレゼンテーションを成功させられたのか。

 決勝大会の模様は18日のナイトニュース9でお伝えします。

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