絶品のプリンが話題の「珈琲日記」(四ツ谷)。会話が生まれるお店が持つ魅力と、名物マスターと

喫茶特集も終盤。今回の取材の舞台となるのは自家焙煎珈琲とスコーンのお店「珈琲日記」。ツヤツヤのプリンや美しいフルーツサンドを求めてSNSから多くの人が訪れます。一方で、常連客に愛され支えられているお店でもあります。“ひげのマスターこと、オーナーの小林正哉さんに「珈琲日記」のこと、珈琲と人気メニューのプリン、そしてこれからについてお話を聞くことができました。

人と人の出会いと、弾む会話であふれる

まずは、お店のことから紹介していきます。「珈琲日記」は、2016年9月15日に表参道の日本文化の発信をテーマにしたとある複合施設にて、イベント的に期間限定で誕生した喫茶店で、その後は神楽坂、そしてクラウドファンディングを経て2021年、現在の四ツ谷にオープン。

最寄り駅は四谷三丁目、または四ツ谷駅から徒歩8分ほどのところにあります。以前は完全予約制でしたが、現在は席が空いていればフリーで入れます。

テーブル席のほか、素敵なカウンターが際立ちます。小林さんにその理由を伺うと、もともと“人が好き”で始めた仕事。コーヒーを楽しむのはもちろん、会話や空間を楽しんでいただきたいという想いからカウンターはなくてはならない存在だったそう。カウンター同士でお客さん、そして店員さんも仲良くなる感じを大事にしたいんだとか。

店内は自家焙煎機、そしてテイクアウトできる焼き菓子が並びます。スノーボールやクッキー類など、種類豊富な焼き菓子と共に特筆すべきはスコーン。もともと珈琲紅茶専門店を横浜で営んでいた小林さん。そんな経歴もあり、焼き菓子の中にはスコーンがあり、このお店で長年愛されている人気商品の一つ。毎日カウンター裏の工房で丁寧に焼き上げられ、店内ではその日や季節で変わる自家製のジャムといただくことができます。

絶品プリンの美しさ

注目すべきはスコーンだけではありません。イートインメニューの中でも、最も人気なのがこのプリン。コロナ禍に仮キッチンで臨時営業している時に、狭かったことからできなかった名物のフルーツサンドに代わるメニューとして奥様がプリンを提案したんだとか。

那須養御卵を使用し、むっちりした食感と、卵のコクがあふれんばかりに舌の上を踊ります。そしてそれを引き出す決め手は、このカラメルソース。グラニュー糖ではなく和三盆糖を使っているのがポイントで、精製度が低い和三盆で作ると仕上げのポイントが狭くなり、苦みの度合いが難しくなるところを何度も試作し、完成させたんだとか。軽く酸味を感じ、苦すぎない。そして深煎りにも浅煎りのコーヒーにも合うのがこのソース。

「ドリンク屋のプライドは捨てない」そう話す小林さん。コーヒー、紅茶に合わないものは絶対出さない。合うお菓子しか作らない。そんなこだわりがこの三角形のプリンに、ぎっしりと。

どうしても三角の形で出したかったという、このプリンのカットの美しさは他で見ることのない、唯一無二のビジュアル。

「うちは昔ながらの喫茶店だから」

今流行りのスイーツはたくさんあるものの、メニューは“喫茶店に昔からあるもの”にこだわる。そんな哲学も感じます。最近販売開始し、話題になったのは「フレンチトースト」。これもなぜ今フレンチトーストか?その答えは喫茶店がヒントに。

今更フレンチトースト、でもそこにどれだけのこだわりを詰められるか? ファンが増えるのも納得のメニューです。

マスターこだわりのサイフォン式コーヒーに見とれる

このお店の楽しみ方の一つとして、カウンター席でサイフォン式コーヒーの淹れる様子を、間近で見られるところも挙げられます。写真の竹べらは、小林さんが25年以上も愛用しているそう。

サイフォン式コーヒーとは、19世紀の初め頃にヨーロッパで開発され、蒸気圧を利用してお湯を押し上げ、高い温度のお湯とコーヒー粉を浸漬して抽出する方法です。

マスターが温度を見極めながら、ゆっくり丁寧にお湯を行き渡らせます。ポイントは温度管理で、火をなるべくギリギリのところでコントロールし、ボコボコした状態で上げないようにするそう。「1回目の攪拌(かくはん)でほぼ味が決まる」と小林さん。最初の数十秒は特に集中して作業をされます。

横浜時代から数えると約35年、サイフォン式コーヒーを淹れ続ける小林さんのコーヒーはファンも多く、ぜひスイーツだけではなくコーヒーも味わっていただきたいそう。

「ハレの楽しみに」

この「珈琲日記」。たくさんのファンに支えられてきました。どんなお店を目指し、何を考えコーヒーを淹れ続けるのか、小林さんにお店のコンセプトを含めインタビューさせていただきました。

Q.「珈琲日記」はどんなお店でしょうか?

小林さん「このお店は、喫茶店と比べると少し高めの値段設定になっています。自分へのご褒美だったり、いわゆるハレの楽しみにしてもらいたいと考えています。もちろん日常使いでも来ていただけたら嬉しいことです。コーヒーはもちろん、こだわって作ったプリンやフルーツサンドもあって、非日常的な場所として感じてもらえたらと思っています。」

Q.紅茶の産毛の話など、Instagramには役立つ情報やうんちくが多く、面白く勉強になると感じます。そういった情報を発信していく意図を教えてください。

小林さん「Instagramの投稿を、ちゃんと最後までしっかり読んでくださるフォロワーさんが有難いことにいらっしゃいます。フォロワーを増やしたいとか、バズらせたいとか、そういう意図はなく、届く人に届いて想いが伝われば、それは凄く嬉しいことです。

うんちくは、実際のお店では、お客様から聞かれた時以外は、自分から発信することはあまりありません。うんちくは気を付けないと、興味のない人にとっては押し付けがましく、気持ち悪く感じる人も多いと思います。ですから、SNSで発信すれば、読みたい人が読むので、SNSでは長文を書いています。ありがたいことに、楽しみにしてくださっているお客様も多いので。

ある時、メニューの一部がSNSでバズった効果か、凄くたくさんお客さんがいらしたときがありました。そういう時が一番怖いというか、お店のことを事前にあまり知らない方が来る時は少し困惑してしまうことも。

一方で、先日からフレンチトーストを始めていて、その時に朝行列ができました。それがほとんど常連客で、それが凄く嬉しかったです。実はフレンチトーストは、SNSにアップしていませんでした。お店に通っているから知っている情報で、そして“珈琲日記だから美味しいだろう”と思って来て下さるので、それはとても誇らしいこと。そういうお客さんを本当に大事にしていきたいと思っています。」

Q.難しいかもしれませんが、小林さんにとって「喫茶」というものは、どういう存在ですか?

小林さん「“喫茶店”というのは、日本文化だと思っています。英語ではカフェと言いますが、海外から入ってきたものではなく、日本独自で進化した文化です。クラシカルで、木の温もりがあって、カウンターがあって、名物のマスターがいて。そして常連のお客さん同士が話し合えて、それこそ初めて来たお客さんが常連さんと仲良くなったり、そこには“会話”というものがあります。そして“接客”があって、それが喫茶店なのかなと思っています。

この“接客”が凄く大事だと思っています。コーヒーが美味しい、スイーツが美味しい、美味しい店はたくさんあり、逆に美味しくない店を探す方が難しいと思っています。

例えば、ホテルニューオータニとか行くともちろんスイーツも美味しいのですが、接客が凄くて。価格は高いですがそれを超える満足感があって、気持ちよく満足して帰れることって本当に大事なことだと再認識しました。最近はチェーン店も増えていて、セルフサービスのお店もありますよね。安さと使い勝手の良さというのはお客さんからしたら、大切なことなので、それも大事だとは思っています。でもそうではない部分を大事にしたい。接客を通じて自分の時間を楽しめて、価格以上に満足ができる場所こそが、“喫茶店”なんだと思っています。」

About Shop
珈琲日記
東京都新宿区若葉2丁目7−1 ビデオフォーカスビル 1階
営業時間:9:00~17:00
定休日:月、火

Writing/坂井勇太朗(編集長)

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