竹内涼真の新境地。湊かなえ衝撃ミステリー『落日』インタビュー

『連続ドラマW 湊かなえ「落日」』立石力輝斗役の竹内涼真 撮影/福岡諒祠(GEKKO)

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2019年に湊かなえの作家生活10周年の節目に書き下ろされたミステリー長編『落日』が、『連続ドラマW 湊かなえ「落日」』としてWOWOWオンデマンドで全話配信中だ。監督は『ミッドナイトスワン』の内田英治。

15年前に起きた“笹塚町一家殺害事件”をめぐり、新進気鋭の映画監督・長谷部香(北川景子)と新人脚本家・甲斐真尋(吉岡里帆)が映画作りのために真相を探っていくストーリー。

事件の鍵を握るのは、犯人として死刑囚となった立石力輝斗(竹内涼真)。力輝斗は、妹・沙良(久保史緒里/乃木坂46)を刺殺した後、自宅に火をつけて両親を殺害し、刑の執行を待つ身である。

力輝斗と妹の間にいったい何があったのか? 15年前の事件を調べていくうちに、衝撃の真実が明らかになる。

今回、そんな哀しく重い過去を背負う力輝斗役を演じた竹内涼真にインタビューした。

『落日』で死刑囚役を演じた竹内涼真の新境地

『連続ドラマW 湊かなえ「落日」』より

30歳のタイミングでこの役がめぐってきた

――今回、竹内さんは死刑囚の立石力輝斗役です。力輝斗は心も体も鉛のように重そうで、胸の奥の苦悩を画面からも感じさせられました。難しい役だと思いましたが、演じるにあたって役へのアプローチはどのようにしていかれましたか?

まずお話をいただいた時に、過酷な生い立ちの人間であり、死刑囚というとても重い何かを背負っている役だったので、演じてみたいと思いました。今まで演じたことのない役柄でキャスティングしてくださったことに、感謝の気持ちが強かったですし、今年30歳になったタイミングでこういった役がめぐってきたんだな、とも感じました。

撮影は非常に短いスケジュールだったのですが、その限られたなかでどんなふうに役にアプローチしていこうかと思った時に、死刑囚や殺人犯というところから入るのではなく、もっと純粋に彼が幼い時から一番欲しかったもの、求めていたものは何なのか? という人間性を台本から抽出していきました。

本来なら狂気とかけ離れた力輝斗が妹を無残に刺し殺してしまい、犯人となったわけですが、その裏側にはすごくピュアで純粋な何かがあるのではないか? と考えるところから始めました。

――30歳で初めて死刑囚役を演じるというタイミングや、これまでやったことのない役柄ですがイメージもできたのですか。

力輝斗を深く理解していくことでイメージできたと思います。もしも死刑囚の役ではなかったとしても、僕が心から向き合える作品であれば、30歳の今はどんな作品でもチャレンジしたと思います。今回は偶然にも信頼している内田監督の作品で、撮影期間は5日間ぐらいと短かったですが、すごくいい経験をさせていただきましたし、充実感がある撮影になりました。

「牢獄でシナリオを読むシーン」は2パターン撮影した

竹内涼真 撮影/福岡諒祠(GEKKO)

――力輝斗が牢獄の中で香からの手紙を読んで、不安定になる様子などもありましたが、しんどかったというような大変だったシーンはありましたか?

シナリオを読むところですね。事件の真相を追う香が映画化のために、シナリオを書いた手紙を力輝斗に送ってくるシーンがあるのですが、ここは感情を出して演じるパターンと、こらえるパターンの2パターンを撮影したんです。

結果として感情を出したほうが使われたのですが、最初は感情をしまっていた僕に、内田監督から「もっと解放してみて」と言われて、自分なりに演じてみました。

それは苦しかったというよりは、見方を変えると、力輝斗の心の深層に触れてくれた喜びでもあるというシーンなんです。ただ、ものすごく心の奥にしまっていたものをいきなり掘り起こされたことに驚いていて。

本当に驚いた時は泣かないものだと思うのですが、自分でも嗚咽してしまうとは予測していませんでした。あの感情は、自分では一生懸命気持ちを抑えようとしているのですが、わざと解放しているわけではなく、あふれでてしまったんです。

人間って、笑わないようにしようとすると逆におもしろくなったり、こらえればこらえるほど苦しくなるような時もありますよね。だから、力輝斗の心をこじ開けられそうになるところを必死で閉じようとしたんですよ。

気が重いし、怖い、真実と向き合いたくないからそれならばいっそのこと死刑でいいと言っているという状況に土足で心の奥底まで踏み込んで探られるようなシーンだったので、とても疲弊しました。

役作りで模索したこと&重要なアイテムとは?

竹内涼真 撮影/福岡諒祠(GEKKO)

――内田監督とは、2020年のWOWOWドラマ『竹内涼真の撮休』以来ですが、「3年で変化した、成長した」と監督はおっしゃっていて、ご自身でもそれは感じていますか。

3年前とは全然違いますね。芝居に対する考え方も、引き出しも多くなっているはずです。意識も生活も変化したので、「だいぶ変わった」と内田監督に言っていただけたのは、すごくうれしいです。

――短い期間で濃い役作りをしたなかで、とくにご自身で模索したことはなんですか。

力輝斗の学生時代と死刑囚になり牢獄に入っている時の2つを描かなくてはいけなくて、そのビジュアルの変化は大切にしました。

髪型にしても、イメージを伝えてカツラを作っていただいて、服装にしてもそうです。そして現場に入って、まわりの風景や音や光といったものを敏感に感じ取って、彼の人生とリンクする形になるように体も馴染ませていきました。

『連続ドラマW 湊かなえ「落日」』より

なかでも、カツラはすごく重要なアイテムで、つけると自然に声やしぐさが学生時代の力輝斗のモードに入っていくんです。

カツラをつけた自分をしっかり見ることは大事なことで、鏡を見てかっこつけるわけではなく、自分の顔や容姿を鏡で見た時に、そこで目で見て脳で判断して、いろいろと行動が変わってきたりもします。

今回は短い撮影期間だったので、早く役に馴染むためにすごく鏡を見ましたし、写真を撮っていただいたりもしました。すると、だんだん体の感じや座り方など、立ち振る舞いが変わってくるので、意識してやっていましたね。

妹役の久保史緒里(乃木坂46)はすごく感性が豊かな方

竹内涼真 撮影/福岡諒祠(GEKKO)

――乃木坂46の久保さん演じる力輝斗の妹・沙良と一緒のシーンも多かったですが、共演されてみていかがでしたか?

楽しかったですよ。ただ、久保さんは大変だったと思います。力輝斗に手をあげるシーンがあったのですが、「もっとやっても大丈夫です」と伝えたこともありました。

彼女は監督とも役について、「もっとこうしないと」と話し合っていました。遠慮しないで、過剰に力輝斗を痛めつければつけるほど、この作品は深みが増し、際立ったと思います。

なぜ沙良は力輝斗に当たるのか。彼女のむしゃくしゃした気持ちを僕にものすごくぶつけないと物語が成立しないですし、沙良の動機がすごく弱くなるので、久保さんも葛藤しながら殻を破って挑戦されていて、とても刺激になりました。

アイドルのグループでセンターをされていた久保さんが、アイドルを目指す沙良役に正面から勝負するというのは、すごく体力がいることだと思います。ですから、実際に本編を見て、彼女のお芝居はとても素晴らしかったと思います。エキサイティングだったと言いますか、彼女のお芝居を見て、すごく感性が豊かな方なんだなと感じました。

『連続ドラマW 湊かなえ「落日」』より

――沙良が本当に意地悪な人に見えました。

意地悪に見えるんですよね。だけど、可愛らしいじゃないですか? 内田監督も久保さんにとても繊細に演出していらっしゃった気がするので、それが見事に画に表れていたと思います。

――竹内さんから演技のアドバイスをすることはなかったのですか?

僕がアドバイスする次元にはいないです、彼女は素晴らしいです。話したのは、クランクアップしてからですね。現場で少しの会話のキャッチボールはしましたが、力輝斗と沙良の関係性を考えると、緊張感のある雰囲気も大事にしたいなと思っていました。

ただ、力輝斗のあのカツラをかぶっていると、うまく人とコミュニケーションが取れなくなるんですよ(笑)。

髪型や視界の広さは、意外とその人の性格に影響すると思うんです。あのカツラの自分を鏡で見ると、人とあまりしゃべりたくなくなりましたし、聞かれたことに対してしか答えたくなくて。それも一因になって、あまり会話しなかったところもあるかもしれません。

内田英治監督とは初対面から話が弾んだ

竹内涼真 撮影/福岡諒祠(GEKKO)

――内田監督がお好きだそうですが、内田組のどんなところが魅力ですか。

内田監督とは最初にお会いした時から話が弾んだので、内田監督の人柄も好きなのだと感じました。ふたりでいると演技の話をよくしますし、ほかの相談もしますし、海外作品の作り方の話を聞くのも好きです。

あとは内田監督の声のトーンが落ち着くので、その声で演出していただけると自分の体に役がすんなり入ってくるからリンクさせやすいんです。

――今回、監督からアドバイスはありましたか。

力を抜いて楽器のように、いつでもいろんな音を鳴らせるようにできるといいよね、というアドバイスをいただきました。日本人は感情を外にアウトプットすることや、とくに一瞬で吐き出すようなことはないですよね。でも、演技の世界では爆発力みたいなものが必要だと。

人が怒っている時、驚いている時、悲しんでいる感情は、爆発力があるから魅力的でもある。そういうものをもうちょっと出してほしい、と言われた時に、いつでもそこに持っていけるような状態を自分でも意識しておくと、すごく演技の幅が広がると仰っていました。

『連続ドラマW 湊かなえ「落日」』より

作品作りは、自分の演技が編集されて組み立てられていくことでもあります。このシーンにはこうすれば面白いだろうという時に、気持ちがつながらなくてできないと、表現の可能性をつぶしてしまう。だから、どうにか自分で解釈してパンッと音を鳴らしたほうが、その作品の魅力にはなるのかなと思いました。

それで自分で枠を決めて現場に入ってはいけないなと、あらためて感じたんです。自分の意見は絶対に持っていなきゃいけないのですが、ただ、本番が始まってカメラがまわるまでは、いろいろなヒントがあふれているはずなんです。それをキャッチできないと、もったいない、ということでもあると思います。

竹内涼真が考える30代のこだわりとその先

竹内涼真 撮影/福岡諒祠(GEKKO)

――インタビューの最初に、「30代でこの役がめぐってきた」とお話しされていたのですが、俳優というキャリアにおいて20代でこれを確立したから、30代はこういう役をやっていきたいというような目標を持って走っていらっしゃるようなところもありますか?

そうですね。いろいろな目標があります。30代の今しかできない役を一生懸命やりたいですし、たくさんの作品に出演したい。そして、50代や60代に向けて経験を積み重ねていきたいと思っています

最近思うのは、その時の年齢やその瞬間にしか出せないものもあると思うのですが、やっぱり歳を重ねて俳優をやってきた方には、どうしてもかなわないんですよ。40歳を越えて50歳を過ぎてから出てくる厚みがあるんです。

そこまでいくために、作品をこなしていくのではなく、ものすごく丁寧に役に取り組む習慣をもっと体に染み込ませていきたいですね。

俳優として、自分にしか持ってないものを磨きに磨いて、もう少し歳を重ねた時に誰にも負けないものを出したいと思っています。

取材・文/かわむら あみり カメラマン/福岡諒祠(GEKKO)
スタイリスト/徳永貴士(SOT) ヘアメイク/佐藤友勝

【作品情報】

連続ドラマW 湊かなえ『落日』
WOWOWオンデマンドで全話配信中(全4話)

出演:北川景子、吉岡里帆、久保史緒里(乃木坂46)、竹内涼真、黒木瞳ほか
原作:湊かなえ『落日』(ハルキ文庫)
監督:内田英治
脚本:篠﨑絵里子
音楽:小林洋平
チーフプロデューサー:青木泰憲
プロデューサー:村松亜樹、八巻薫、木曽貴美子
協力プロデューサー:遠田孝一
制作協力:MMJ
製作著作:WOWOW

(mimot.(ミモット)/ かわむら あみり)

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