NISAを利用しているひとにも影響はある? 米国の利上げはなぜそこまで注目されるのか

テレビやニュースを見ていると、米国の中央銀行にあたるFRB(米連邦準備制度理事会)が利上げをした、という報道を目にすることがあります。投資未経験者や、投資を始めたばかりの個人投資家からすると、日本の報道なのに、なぜ米国の金融政策の内容を大々的に報じているのだろう、と疑問に思う人も多いでしょう。また、個人投資家の発信をSNSなどで追っかけていても、米国の金融政策が決定される会合日は多くの人が結果に注目していることが分かります。今回は米国の利上げが日本経済や日本の個人投資家に与える影響について解説します。


なぜFRBは金利を引き上げ続けたのか

なぜFRBは金利を引き上げているのでしょうか。金利を引き上げる理由はいくつもありますが、今回の米国の利上げ局面における金利引き上げのおもな理由は「インフレ退治」にあります。コロナ前における米国の物価は毎年2%程度の伸びでした。ここでいう物価とは、正確には消費者物価指数という経済指標を指しており、たとえば同指数はコロナ前(2017年1月~2019年12月)の平均値は前年同月比+2.1%となっています。

しかし、コロナが始まると、最初の数か月は経済活動が停滞したことで物価の伸びは鈍化しましたが、その後は半導体をはじめとして様々な物資が不足する供給制約を背景に物価は上昇し続け、昨年の夏には10%近くまで物価が上昇しました。

一般的に金利を引き上げると、家計が住宅ローンなど借り入れをして消費をすることを控えたり、企業が融資を受けて設備投資することを控えたりすることで、需要が減少し物価上昇が鈍化すると考えられています。ただ、今回の物価上昇局面は旺盛な需要によってもたらされたというよりは、前述した通り供給制約による要因が大きかったため、なかなか金利を引き上げても物価が落ち着かず、1年半で5%以上金利を引き上げるという異常事態を招きました。

米国の金利が日本経済にも影響を与える

米国で金利が引き上げられている背景を説明しましたが、なぜそれが日本でも大々的に報じられているのでしょうか。米国の金利が引き上げられたからといって、日本経済に直接影響があるようには感じられないかもしれません。しかし、経済というのは非常に複雑なもので、あらゆる事象が様々な経路を通じて影響を与え合っています。

たとえば、日本と米国の中央銀行が、それぞれどのような金融政策をとっているかを考えてみましょう。日本では10年以上にわたって金融緩和政策がとられています。米国に限らず世界の多くの国がインフレ退治のために金利を引き上げているなか、日本は未だにマイナス金利政策をとっています。普段は経済についてのニュースを見ない人でも、銀行預金につく金利の低さを考えれば、日本の中央銀行は金利を低く維持していることは直ぐに分かるでしょう。

米国の金利が1年半で一気に5%以上引き上げられる一方で、日本は依然として低金利政策をとっていることを考えると、金利が低い円を売って、金利が高いドルを買えば、金利差を収益として得ようとする人が増えて、ドル高・円安が進むことは容易に想像ができます。実際、ドル円相場を見てみると、コロナ前は1ドル=105円前後だった相場は今では1ドル=150円近くまで円安が進んでいます。

このように円安が進行すると、日本では輸出企業が儲かる一方で、海外から原材料を輸入している企業はコストが上昇し減益してしまいます。

株式投資にはどのような影響があるのか?

このようにして、米国の金融政策の変更が為替相場を通じて日本経済に影響を与えるということは理解できたかと思います。それでは、個人投資家にはどのような影響があるのでしょうか? 前述の通り、円安が進行すれば、輸出する企業にとっては業績面で追い風になりそうですし、逆に原材料を輸入している企業にとっては業績面で逆風になりそうです。

また、円安を背景に原材料価格が上昇し、それが価格転嫁されていくと、物価の上昇以上に給料が増えていかない限り、家計は節約をするでしょうから、小売業や飲食店業界は厳しくなりそうです。ただ、円安になれば外国人観光客が増えますから、その観点では小売業や飲食店業界にとってはプラス面もありますし、宿泊や航空業界にとってはプラスといえそうです。

しかし、上記のような考え方は、あくまで一般論に基づくものであり、実際には企業経営者は為替相場に業績や投資計画が左右されないようにするために、為替予約といって予め決まった為替レートで両替できるようにしていたり、生産や販売の拠点を国内だけではなく海外にも設置したりしていますので、各企業が為替相場の変動を受けないようにどのような戦略をとっているかを調べるようにしましょう。

NISAを利用している投資家にも影響がある?

投資をする場合、日本国内の経済や金融政策だけではなくて、海外の経済や金融政策までも気にしないといけないの?と不安になった人もいるでしょうし、あまり相場変動を気にしないで資産運用をしたいから「つみたてNISA」を活用していたのに、と思った人もいるでしょう。

正直、個別株に投資をしている方は国内だけでなく海外の経済や金融政策までも気にした方がよいと思います。なぜなら、個別株の株価はその企業の業績に大きな影響を受けるため、その業績に影響を与える国内外の経済環境を見ないで投資をするということは、自分の大事な投資資産を適当に投じることになってしまうからです。

ただ、インデックス投信をつみたて投資している人は、そこまで神経質になる必要はないでしょう。可能であれば国内外の経済環境を把握した方がよいですが、インデックス投信の場合は円安がプラスになる企業もマイナスになる企業も含まれているため、為替がどちらに動いたとしても、資産全体でみればそこまで大きな影響を受けないからです。これが分散投資によってリスクが低減できる理由なのです。

2024年からNISAが拡充されます。残り2か月となりましたが、ひとまずできる範囲で海外の経済環境を学ぶ習慣を身につけながら、自身が理想とする投資生活を思い描いたうえで、どのような投資手法を選べばいいかを考えていきましょう。

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