「記念すべきJリーグ30周年なのに」サポーターの暴走が激増 原因はまさかの新型コロナ? 厳罰化へ、サッカー協会もレッズも動いた

Jリーグの浦和―G大阪戦後、もみ合う両チームのサポーター=2008年5月、埼玉スタジアム(写真は一部加工しています)

 Jリーグは今年で創設30周年。記念すべき年であるにもかかわらず、サポーターによる暴力や威嚇、器物の破壊行為といった問題行動が春以降、頻発している。8月の天皇杯全日本選手権で、浦和レッズのサポーター約70人が暴徒化した問題が記憶に新しいが、実はJ1からJ3まで、連鎖するかのように続いている。
 危機感を抱いた日本協会は、Jリーグ、リーグ全60クラブと共同で「誰もが安心・安全にサッカーを楽しめる環境を広げる」とするメッセージを出した。再発防止のため処分の厳罰化なども検討が始まっているが、なぜここまで急増したのか。関係者の間では「新型コロナウイルス禍」の影響もささやかれている。(共同通信=名取裕樹)

Jリーグの浦和―G大阪戦終了後、フェンスを乗り越えて争う両チームのサポーター=2008年5月、埼玉スタジアム(写真は一部加工しています)

 ▽横浜FCでも、ベガルタでも、ギラヴァンツでも…
 最近のサポーターの問題行動は、主なものだけでもこれだけある。
・5月、横浜FCのサポータ-が別のサポーターに暴行。
・6月、J2ベガルタ仙台のサポーター100人以上が試合後、対戦相手チームバスを取り囲んで威嚇。
・7月、J3ギラヴァンツ北九州のサポーターが別のサポーターに暴力。
 ほかにもJ2ジェフ千葉で1人が、J2徳島ヴォルティスは7~8月に計3人がそれぞれ侮辱行為やピッチへの物の蹴り込み・投げ込みで処分を受けた。
 7月の天皇杯では、FC東京のサポーター4人が、ゴール裏観客席の観客が多いエリアで試合開始前、約1分20秒にわたり100発以上の花火と発煙筒に点火、観客1人にやけどを負わせた。4人は大旗の下に身を隠し、そこに切り込みを入れて花火を打ち上げる悪質さだった。
 8月に暴徒化した浦和レッズでは、4月にも名古屋グランパス戦で警備員に暴行したという指摘もある。(浦和は、当事者が否定しており証明できないと発表)
 まだある。9月には鹿島アントラーズと柏レイソルの観客が運営スタッフや警備員に暴力を振るっている。

日本サッカー協会の田嶋幸三会長=8月18日、東京都文京区

 ▽「過去に類を見ない極めて危険かつ醜悪」
 天皇杯を主催する日本サッカー協会は、特に浦和について前代未聞と言える厳罰を科した。来年度の天皇杯参加資格を剝奪したのだ。特に悪質な行為が特定できたサポーター計21人は国内全試合の無期限入場禁止処分。今後も行為が特定できた人物は処分するとしている。
 クラブへの処分を決めた協会の規律委員会(弁護士3人と協会側2人で構成)は、暴徒化した浦和のサポーター多数をこう断罪している。
 「相手チームのサポーターを威嚇し(中略)サポーターや警備運営関係者に対して暴行を加えるという、日本サッカー史上、過去に類を見ない極めて危険かつ醜悪なもの」
 FC東京サポーターの火気使用についても、持ち込んだ大量の花火や発煙筒に引火したり、応援の旗に引火したりすれば「観客だけでなくピッチ上の選手や審判その他関係者にもケガを負わせるなど大惨事につながりかねなかった極めて危険な行為」と批判した。実行したサポーター4人は国内全試合の無期限入場禁止処分。未然に防げなかったクラブに対しては罰金500万円などとした。
 サポーターが対戦相手のバスを取り囲んだ仙台は、Jリーグから罰金500万円の処分を受けた。
 日本協会の田嶋幸三会長も危機感を抱いている。
 海外で過去に何十人、時に300人以上の死者を出したサッカー場の事故では、逃げ惑う観客が一カ所に殺到して将棋倒しになったり、暴徒化などで大きな人の流れがぶつかったりして倒れ、圧死するケースが多かった。
 田嶋会長は1980年代にドイツに留学。当時、欧州ではフーリガンが乱行を繰り広げ、スタジアムで多くの犠牲者まで出した。その無法ぶりに遭遇した経験を持つだけに、二つの事件を「人の生死にも関わりかねない」と強い口調で非難した。

浦和サポーターが差別的な横断幕を掲げた問題で、Jリーグ史上初めて無観客で行われたJ1浦和―清水戦=2014年4月23日午後、埼玉スタジアム

 ▽「コロナ明けの発散」のために来場?
 なぜ今、サポーターの問題行動がこれほど頻発しているのか。
 あるJ1クラブの運営担当経験者は、新型コロナウイルス禍も影響しているとみる。
 無観客試合や声出し応援の禁止など、新型コロナ対応による約3年間のブランクで、応援のリーダー格となっていた年配サポーターの足が遠のいた。
 一方、新たにスタジアムに足を運ぶようになった一部の観客は、サッカーを見に来たというより、観戦ルールなどお構いなしに「コロナ明けの発散に来ているような人もいる」という。
 そんな時、クラブ側が毅然とした対応を取らないと、深刻化するという。「例えば運営担当者が若くて、サポーターにものを言えない。言っても、聞いてもらえない。そんなクラブは問題が起きがち」
 暴力を振るわれた被害者にクラブが謝罪して事を収め、表沙汰にしないクラブも実はあるという。そんな弱腰が、一部のサポーターの増長を招いていると言えそうだ。

アルヒラル戦を前に盛り上がる浦和サポーター=5月6日、埼玉スタジアム(写真は一部加工しています)

 ▽「顔認証」導入の検討も
 日本協会は浦和サポーターの暴徒化を機に、古い規定の見直しに着手した。田嶋会長はこう考えている。
 「新しい問題も出てきているし、観客に対しての処分は無期限入場禁止が最も重く、処分解除条件の定めもない。クラブへの罰金も数百万円では、今となっては少ない。規定が時代に合っていなかった」
 処分の厳罰化のほか、警備員の増員など態勢強化、さらには入場禁止処分の実効性を高める顔認証システムの導入も検討する。
 入場禁止処分を受けたサポーターが観客席にこっそり入るのは、それほど容易ではない。サポーターは「JリーグID」に登録しているケースが多く、別のIDで他人のふりをして入ったとしても、ほぼ間違いなく警備員に見つかる。他の観客からの通報もあるという。顔認証は「だめ押し」になり得る。
 これらの対策を実行するための経費負担策なども議論する方針だ。
 暴力や威嚇、施設や備品を壊す行為に対しては、警察に即時介入を求めることも辞さないかまえだ。
 リーグ戦と異なり、天皇杯の試合を運営するのは都道府県協会だが、トラブル対応までは荷が重いところもある。対策として、例えば準々決勝以降は勝ち上がったJクラブに運営を委ねることなども考えたいという。

横浜Mに勝利した浦和イレブンに声援を送るサポーター=2023年10月15日、埼玉スタジアム

 ▽「サポーター」とは認めない
 クラブ側も厳罰化へと動き出している。
 浦和はこれまで、トラブルメーカーに対しても「対話」で理解を求めることを基本姿勢としてきた。しかし、今回の暴徒化で浦和に届いた批判の多くは、浦和サポーターやファンたちからだった。一線を越えたサポーターを排除しきれず、その振る舞いによってクラブが何度も重い処分を受けることに憤っている。
 来季の天皇杯「締め出し」処分を受け、クラブは田口誠社長名で、ファン・サポーターに向けた声明を公式サイトに掲載した。この中で「『勝利のため』という理由で社会正義に反する行為を行う人を、サポーターとは認めません」と、これまでにない強い姿勢を打ち出している。
 同時に再発防止策も公表した。クラブ独自の処分基準を厳罰化(永久入場禁止や損害賠償請求権の行使など)。違反行為は、予兆段階であっても当該観客の即時退場を求める場合もあるといった措置を、既に開始したという。
 Jリーグの野々村芳和チェアマンはこう訴えている。
 「熱狂的なスタジアムや熱烈な雰囲気と安心・安全は、日本だからこそ両立できる」
 そのために不可欠なのは、暴力や騒動をいとわず、常軌を逸した行動を取る観客はサポーターでもお客さまでもなく、お引き取りいただく-との姿勢を各クラブが共有することだろう。
 日本協会、Jリーグ、全60クラブが出した共同メッセージは「強い使命感と責任感を持って取り組んでいく」と結ばれている。

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