バーバリー・ロスから復活の三陽商会、サプライズ決算でストップ高!要因はセール価格での販売減少か

2月決算銘柄の第2四半期決算がおおむね出揃いました。発表時期の相場環境は最悪で、アメリカの金利の上下によって、日経平均株価は、1日で500円以上も上げたり下げたりで大きく振り回わされました。そんな中での決算発表なので、決算内容よりも、全体相場につられて株価が動く銘柄が多かったように思います。

そんな中、第1四半期決算発表後にこの連載で取り上げた三陽商会(8011)が、異彩を放っています。10月6日に発表された2024年2月期第2四半期決算を見てみましょう。


上期予想の3.6倍も上振れ

画像:三陽商会「2024年2月期 第2四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」より引用

①売上高は28,155(百万円)、②前年比10.6%、③営業利益718(百万円)、前期の赤字から黒字転換です。驚くべきは、上期予想と実績との乖離です。三陽商会は、6月30日に、上期の予想を上方修正していますが、その際の営業利益予想は200(百万円)なので、なんと3.6倍も上振れて着地しました。ちなみに会社四季報秋号の上期予想も、会社予想と同じ200(百万円)でしたので、まさにサプライズ決算です。

さらに同時に、通期予想も2回目の上方修正をしています。

画像:三陽商会「2024年2月期 第2四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」より引用

①売上高61,000(百万円)→②61,500(百万円)、③営業利益2,700(百万円)→④3,100(百万円)。わたしの経験値では、第1四半期で上方修正を出す企業のうち50%以上が、その後、ふたたび上方修正する傾向にあります。まさに三陽商会も当てはまりました。

好調の要因はセール価格での販売減少か

好調の理由は、第1四半期時と同様

1. 人流回復やインバウンド需要の拡大により主力の百貨店を始めとする実店舗への集客が順調に回復したこと

2. 設立80周年の記念アイテムを含む春夏プロパー商材が好調に稼働したこと

売上が増加したことに加え、プロパー販売比率の拡大により、営業利益が伸びているという理想的な形です。最近、わたし自身も洋服をセールで買うより、プロパー価格で買うことが多くなりました。”セールになるまで待つ”、”セールじゃないと買わない”といった消費者心理にも変化が出ているのかもしれません。

利益率向上のための具体的な施策としては、「QR体制」の実行があります。QRというのは「クイック・レスポンス」の略で、アパレル産業を中心に行われているサプライチェーン管理手法の一つ。三陽商会では、20パーセントプール制というルールで、従来はシーズンの初めに100パーセント一括発注で仕込んでいたものを、見込み発注は計画に対して80パーセントで、20パーセントは保留枠として期中対応にまわすことを徹底しています。その20パーセントの保留枠によって、シーズンものでも不要なものは仕入れずに済み、逆に売れ筋のものは補充できるため、売れ残りが出づらくなります。よってセール価格での販売が減少するといった好循環となります。

実際、第2四半期の営業利益率は、前期と比べて3.8%も改善されていますので、効果は適面です。また、直営店や百貨店ではプロパー販売に徹し、未消化品はアウトレットに移動してセール販売するといった役割分担を明確にしたことも、全体的なプロパー販売率の上昇につながっているようです。

決算発表は、10月6日の午前11時に行い、その直後から株価はぐいぐい上がり、当日はストップ高で終了。その翌営業日の10月10日も14.6%上昇しており、その後も市場が荒れる中、値を保っています。

画像:TradingViewより

好決算だけじゃない、株価が堅調なもう一つの要因

株価が堅調な理由は、好決算だけではなく、もうひとつ同時に発表された「PBR(株価純資産倍率)改善計画」にあります。2023年になって、東証がPBR1倍割れの企業に対して、企業価値を向上させるよう再三、忠告しています。三陽商会は、23年2月実績でPBR0.55倍と残念な状況。1倍超えには、かなり距離があります。そこで、改善策として、2025年2月期までに具体的な数値目標を上げました。

1. ROE(自己資金利益率)8.5%

2. 営業利益43.8億円

3. 営業利益率7%

4. DOE(株主資本配当率)4%

細かい説明は省きますが「PBR(株価純資産倍率)=ROE(自己資金利益率)×PER(株価収益率)」の計算式で成り立ちますので、ROEが改善されれば、必然的にPBRも向上します。また、利益率が上がり、営業利益が増加すれば、投資家からの評価であるPERも上昇するので、こちらもPBR上昇に寄与します。

DOEというのは「Dividend on equity ratio」の略で、株主資本に対して、どの程度の配当を払っているかを表します。要は、株主還元の状況を表す指標です。通常は、当期純利益に対する配当額をあらわす配当性向が使われますが、当期純利益は変動幅が大きいため、最近はDOEを採用する企業が増えています。

三陽商会の2024年2月期は、DOE3%で予想配当額は88円。2025年にDOE4%が達成できれば、配当は126円が見込めます。かなり魅力的ですね。

上期も十分に好調でしたが、三陽商会の本番は下期にあります。単価の高いコートなど冬物衣料の売上がどれくらい伸びるかで、業績の見通しは変わります。

2023年は、夏がしぶとく居座り、9月でも半袖で十分な気温でした。そのため9月の月次売上は、芳しくありませんでしたが、10月に入り、急激に気温が下がったため、前年を越える水準まで回復しているとのこと。天候頼みというのは心もとないですが、コートの出番が頻出する冬らしい冬となれば、業績の見通しは日本晴れ! 株価も一段上を目指すことになるかもしれません。

※本記事は投資助言や個別の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資にあたっての最終決定はご自身の判断でお願いします。

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