本を読まない

 え? 本? 最近読んだのは、何か公安とか外事警察ものの小説かなあ、作者は忘れた、2週間に1回ぐらいの感じで公民館の図書室に寄るんよ…と話してくれたのは入社同期のM君。別の同僚は「直近に読んだのは浅田次郎の歴史長編ですかね」とちょっとドヤ顔で▲と、とても小規模なアンケートを思いついたのは“若者の読書事情”を嘆く資格があるかどうかを確かめるため。〈21歳の若者の6割は全く本を読まない〉という文部科学省の調査結果が少し前の紙面にあった▲調査は2001年生まれの約2万2千人が対象で「この1カ月に読んだ紙の書籍の数」の質問に62%がゼロと答えた▲雑誌・マンガまで広げても半数超はゼロ。読書の習慣があってこその電子版らしく、電子書籍はさらにゼロ層が増える。本を「新聞」に置き換えた質問はなかった▲“読書の効能”をどう語るかは、それこそ千差万別だ。最近読んだのは〈想像力を培うこと。他者を知って理解しようとし、理解できなくても認めること。それが日常生活の根源をなす一番重要なことだと思っています〉という作家の角田光代さんの説▲誰かが紙の本を手に取るきっかけになるとうれしい-と願いつつ、角田さんの言葉をネットで見つけたことは白状せねばならない。嘆く資格が危うい。(智)

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