AIで映像のサッカー選手を追跡 人物が重なり精度低下、大胆な手法で対策

人工知能(AI)技術でスポーツ選手の映像を解析してトレーニングなどに役立てる技術を、大阪産業大学などの研究チームが開発した。九州産業大学で先月行われた「The Conference of Digital Life vol.1」で大阪産業大学の姜文渊(きょう・ぶんえん)准教授が発表した。

九州産業大学で講演する大阪産業大学の姜文渊(きょう・ぶんえん)准教授=9月16日、福岡市

研究チームは、ウェアラブル端末「xG-1」で選手の動きを追跡してデータ化する研究にも取り組んでいる(論文はこちら)。しかし、GPSなどの測位衛星システム(GNSS)を利用しているため、衛星の電波を受信しにくい屋内で行われるスポーツでは性能をフルに発揮できないという。

また、多数の専用カメラを用いて多角的に試合を撮影して選手の動きを追跡する手法も研究されたが、導入コストの壁があり、部活動やサークル活動では普及が難しかった。

「これらの課題もあり、安価なビデオカメラで撮影した映像を処理して、選手を追跡する技術が求められていました」(姜准教授)

複数の既存手法を調査すると、ニューラルネットワークなどを用いて映像内のサッカー選手を追跡する場合、選手同士が重なって奥の選手が一時的に見えなくなる「オクルージョン(遮蔽)」が起きた箇所で精度が低下する問題があることがわかった。例えばボールが転がった場所に両チームの選手が1人ずつ集まり、散開すると、その前後で各選手の追跡情報を正確に取得できなくなってしまう恐れがあるのだ。

そこで研究チームは、オクルージョンが起きた時点の情報を一切扱わないという大胆な手法を考案した。姜准教授は「オクルージョン後の情報を、その前の情報をマッチングすることで選手を同定できると考えました。既存手法とは逆の発想です」と説明。複数の写真に写る人物が同一人物かどうかを判別する「ReID(re-identification、再識別)」という深層学習技術などを用いることで、追跡精度の低下を防げるとした。

研究チームは、オクルージョン中もデータを取得する既存手法と、オクルージョン中のデータを利用しない新手法を実証実験で比較。サッカーの試合で、開始時から6分後に正確に追跡できた人数を比べたところ、既存手法が4人(開始時は22人)だったのに対して新手法は8人(同22人)だった。別の視点から撮った映像では既存手法が3人(同21人)、新手法が17人(同17人)だった。

選手一人一人ではなくフレーム(映像の一コマ)ごとに比較した場合も新手法の方が高精度だったことから、姜准教授は「新手法を用いると高い精度で選手を同定して追跡できることが分かりました」と結論づけた。また、フィールドの両サイドにいる審判員が選手を特定する“ノイズ”になると、新たな課題を報告した。

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