阪神の優勝を支えたドラフト戦略、「目玉」でなくても役割・ポジションで上位指名 補強から育成へ、「生え抜き」の成長で目指す常勝チーム

2022年のドラフト会議で、抽選のくじを引く阪神・岡田監督=2022年10月、東京都内

 プロ野球のドラフト会議が10月26日に開催される。今季18年ぶりにセ・リーグ優勝を果たした阪神の勝因の一つが、徹底したドラフト戦略と育成の成功だった。優勝を決めた9月14日の巨人戦での先発メンバーは、外国人選手のシェルドン・ノイジー外野手以外は全て自ら指名して育て上げた「生え抜き」の選手。常勝チームを築けるかは、継続的に有望株を獲得できるかに懸かっている。今年のドラフトにも注目だ。(共同通信=原嶋優、浅山慶彦)

 ▽長期ビジョン描き育成重視
 今年と同じように18年ぶりの優勝を成し遂げた2003年は、フリーエージェント(FA)で獲得した金本知憲外野手や、トレードで加入した下柳剛投手らが活躍。その後も大リーグから日本球界に復帰した城島健司捕手や西岡剛内野手、福留孝介外野手を獲得するなど、大型補強を繰り返した。

 だが、Aクラス入りの常連にはなったものの、2005年を最後に優勝からは遠ざかった。12球団で最も熱狂的なファンを抱え、在阪メディアも手厳しい。監督など現場は目の前の勝敗にとらわれがちだが、長いペナントレースを制すにはもっと大局的な視野が必要と判断し、育成重視の方針へかじを切った。当時の編成担当者は「親会社の人間で長期的なビジョンを描き(方針が)ぶれないようにした」と振り返る。

9月9日の広島戦で2点適時二塁打を放った近本外野手。2018年のドラフト会議で阪神が獲得した

 ▽ドラフト戦略の成功
 選手の獲得などに関わる嶌村聡球団本部長は「MLB(大リーグ)やFAで補うのは対症療法。センターライン(グラウンドの中心に当たる捕手と二遊間、中堅)、4番打者、先発投手など、チームの中核は日本人選手でと考えた」と、ドラフトでの狙いを話す。

 スカウト部門の要職に親会社の阪神電鉄出身者などを配し、ドラフト戦略をコントロール。将来の中軸候補に狙いを定めた2016年は、白鷗大の大山悠輔内野手を1位で単独指名した。2018年のテーマは「センターラインの強化」。重複指名の抽選で藤原恭大外野手(現ロッテ)、辰己涼介外野手(現楽天)を外したが、中堅を守れる選手にこだわり近本光司外野手を獲得した。手薄だった遊撃手もターゲットとし、将来を見据えて宮崎・延岡学園高の小幡竜平内野手を2位で、即戦力として社会人野球のホンダの木浪聖也内野手を3位で指名した。

6月5日のロッテ戦で3ランを放った大山内野手。2016年のドラフト会議で阪神が獲得した

 上位を野手で固めるのは異例で反対意見も出たというが、嶌村本部長は「大事なことは何を捨てるか。最後は力業だった」と意向を貫いた。重要なのは、選手のネームバリューにこだわらず、「左投手」「右の大砲」「遊撃手」など、必要性の高いポジションや役割を見定めることだという。主軸候補として大山、俊足の1番打者として近本を獲得したように、選手のタイプを見極め、「ドラフトの目玉」として注目されていなくても、必要と判断すれば1位で獲得してきた。

 2019年は岡山・創志学園高の西純矢投手や大阪・履正社高の井上広大外野手ら高校生を中心に指名。中長期的な視点に基づき、勝ち続けられるチームをつくるための選択だった。

 ▽育成方針の確立
 選手の育成については、月に1度の会議で意思統一を図っている。フロント、スカウト、2軍指導者らが、若手選手一人、一人について議論する。投手のフォームを変更させる際には、レーダーを用いて弾道などを精密に測定する機器「トラックマン」を活用して、腕や指の角度まで細かく分析。精神論での指導は徹底して排除し、スタッフ全員で選手の将来像を共有した。

 データなどの根拠に基づいた合理的な育成によって、独立リーグ出身の湯浅京己投手や石井大智投手も1軍の戦力へと成長を遂げた。さまざまな取り組みが実を結んでの優勝に、あるスカウトは「急に(チームを)変えることはできない。地道にやるしかない」と万感を込める。

 今回のドラフトは大学生の好投手がそろっている。フロントの判断に任せる方針の岡田監督は「どこも上位はピッチャーになるんちゃう」。ドラフト巧者がどのような戦略を描くのか、今年も目が離せない。

4月8日のヤクルト戦で登板した石井投手。独立リーグを経て2020年のドラフト会議で阪神から指名を受けた

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