【MLB】成功のポイントは?上沢直之のMLB挑戦を考える

写真:カブスのヘンドリックスは上沢と変わらない球速で成功している数少ない先発投手の1人

NPB・日本ハム所属の上沢直之がMLB挑戦を目指すことが各種報道から明らかになった。これまでの報道をまとめると、上沢はポスティングシステムを活用してのMLB移籍を検討中。また、メジャー契約ではなく、マイナー契約であっても移籍する可能性を検討しているようだ。

契約が成立するかどうかは現状不透明だが、上沢がもしMLBに挑戦した場合、どのような立場でどの程度の投球ができるのだろうか?NPBでの投球から考えてみよう。

まず結論から言えば、現状の上沢がMLBで結果を残すのは容易なことではない。とにかく気になるのは球速だ。今季の上沢はストレートの平均球速が145km/hほど。マイルに直すと90.1mphとなる。MLBのデータサイト「Fangraphs」によればMLBの先発右投手の平均球速が94.3mphだというから、マイルにして4マイル、キロに直すと6キロ以上遅いことになる。

一般的に、ストレートは球速が遅ければ遅いほど打たれやすくなることが知られている。打者がボールを見て、判断するまでの時間が長くなるため見極めたり、狙い打ちされたりしやすくなるためだ。いくら球速以外のスキルがあってもこの課題から逃れることは難しく、「技巧派」と呼ばれる投手であっても右の先発投手であれば平均92〜3mph、キロに直すと150km/h前後はマークするのが普通だ。

事実、今季MLBで上沢を下回る速球の球速で100イニング以上を投げた先発投手はわずかに5人だけ。アダム・ウェインライト(カージナルス)、カイル・ヘンドリックス(カブス)、ザック・グレインキー(ロイヤルズ)、そしてトレバー・ウィリアムス(ナショナルズ)だ。

このうちウェインライトは今季限りで引退するし、グレインキーも引退の可能性がささやかれている。残る2人のうちウィリアムス(今季大幅に平均球速を落としている)は防御率5.55と惨憺たる成績に終わっているから、来季も現役を継続する上今季MLBで十分に戦力になっていると言えるのはヘンドリックスただ1人となる。

残るヘンドリックスにしても、彼がフォーシームを投げる割合はわずか20%程度。主体となるのはそれぞれ全体の約40%、35%を占めるチェンジアップとツーシームだ。動くボールを針の穴をも通すようなコントロールで投げ込み、打たせてとるというまさに精密機械のごとき投球があるからこそヘンドリックスはMLBで生き残ることができているのだ。

もちろん、ヘンドリックスがやれているのだから上沢がMLBで先発投手として生き残れる可能性がないというわけではない。ただ、これは逆に言えばヘンドリックスほどの制球力や変化球の質がなければ上沢の現在の球速でMLBに生き残ることは極めて難しいということを意味する。少なくとも、現状ヘンドリックスしか成功していない道を探るよりは球速アップを模索した方が可能性は高いように思われる。

一方で、リリーフに転向するという道も考えられる。報知新聞の報道によれば上沢は2022年に最速152km/h(約94.5mph)をマークしている。これは今季のMLBにおけるリリーフの平均球速とほぼ同等だ。もし上沢がショートイニングに力を注げば150km/h以上をコンスタントにマークできるというのであれば、球速面ではリーグの平均レベルを満たすことができる。

また、上沢が空振りを奪える球種であるフォークボールを持ち合わせているのも強みにはたらくかもしれない。近年ではやや増加傾向にあるとはいえ、今季フォーシームやスプリットに分類される投球はMLB全投球の3%ほどにすぎない。千賀滉大(メッツ)やフェリックス・バティスタ(オリオールズ)が一世を風靡したのと同じように、上沢もフォーク(スプリット)の精度次第ではある程度の支配力を発揮できる可能性もある。

総じて見ると、少なくとも先発として投げるためには現在よりも平均球速を引き上げるのがより高い確率で結果を残せるように思われる。一方で、最大出力を1イニング出し続けることが可能、かつ変化球がある程度の精度を発揮すれば救援投手でMLBの座を掴むことができる可能性もありそうだ。

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