【MLB】大富豪オーナーが「3億ドルの勉強料」から得た教訓とは?|2023シーズンレビュー メッツ編

写真:メッツが大型補強の一環として獲得した千賀滉大

ポストシーズンも残すところ約2週間。リーグチャンピオンシップシリーズに出場している4球団を除き、大半のチームはすでにオフシーズンに入った。

そこで、今回からオフシーズン企画として30球団各チームごとのシーズンレビューをお送りする。第一回は、大型補強を敢行しながらもシーズン負け越しに終わったニューヨーク・メッツだ。

【チーム成績】
75勝87敗 勝率.463

◆打撃
打率 .238(26位)
本塁打 215(10位)
OPS .723(18位)
盗塁 118(13位)
WAR 18.9(15位)

◆投球
先発防御率 4.20(13位)
救援防御率 4.45(22位)
奪三振率 8.88(15位)
与四球率 3.78(26位)
WAR 10.4(25位)

※WARはFangraphs版を使用

「MLBでは大金を費やせばポストシーズンが保証されるものではないとわかった。」

8月のトレード期限で主力選手を放出し、見返りとして若手有望株を受け取る「売り手」に回る動きを見せたメッツ。トレード期限終了後に、オーナーのスティーブン・コーエンが語ったこの一言はまさに今季のメッツを象徴するものだと言っていいだろう。

歴史上最高額となる年俸約3億4300万ドルを投じたドリームチーム。それがメッツだった。

昨シーズン終了直後にはMLB最高のクローザーと評価されていたエドウィン・ディアスと5年1億ドル規模の大型契約で合意。さらにジャスティン・バーランダー、千賀滉大、ブランドン・ニモとも……。オフシーズンの目玉を次々とかっさらったメッツは、シーズンでもMLBの主役として輝くはずだった。

しかし、現実は甘くない。

暗雲が垂れ込め始めたのはシーズン開幕前のワールドベースボールクラシック。プエルトリコ代表として出場したディアスがチームの勝利を祝う最中に膝蓋腱を全断裂。シーズン絶望の怪我を負った。

さらに開幕直前にはホセ・キンタナが手術を受け長期離脱が確定。開幕直前にもバーランダーが肩の不調を訴えたほか、開幕直後には前年15勝のカルロス・カラスコが肘の遊離軟骨で戦線離脱となった。

相次ぐ主力先発の離脱にシーズン前に期待されていた強力先発ローテーションはあっという間に崩れ、チームは一転、窮地に陥った。3月から5月にかけてのメッツ投手陣のWARは2.0で30球団中29位。これは控えレベルの選手と比較してメッツ投手陣は2勝分しか積み上げることができていないことを意味する。大きな強みになるはずだった投手陣が完全に崩壊し、シーズンプランは早くも暗礁に乗り上げた。

野手陣は好不調の波や多少の離脱こそあったものの悪くない立ち上がりだったが、ここまで投手の状態が悪ければ勝ち続けることは難しい。4月こそ14勝11敗で勝ち越したものの、5月は14勝15敗。さらに6月は7連敗を含む7勝19敗で一気にポストシーズン戦線から転げ落ちることとなった。

結局7月11日のオールスターを迎えた段階で、メッツの勝敗は42勝48敗の借金6。首位ブレーブスからは18.5ゲーム差、ワイルドカード3枠目からも7ゲーム差をつけられ、ポストシーズン進出は非常に厳しい状況の中、チームはトレード期限を迎えることとなる。

一般的に、メッツほどの資金力を持つチームであれば、かなり厳しい状況下でもポストシーズン進出を目指してトレード期限で買い手に回ることはある。ただ、そこであくまでも売り手を選択したのがコーエンやビリー・エプラー(当時GM)の冷静な判断だった。

チームは契約の残る主力を次々と他球団にトレードし、ドリュー・ギルバートやルイスアンヘル・アクーニャら複数の有望株を獲得。シーズン終盤には有望株のロニー・マウリシオを昇格させレギュラーとして起用するなど、チームの再建へと舵を切った。

終わってみれば75勝87敗、借金12の地区4位。これは6月に作った借金と同じ数だ。前半の大失速が響き、前年優勝を争ったブレーブスからは29ゲーム差、ワイルドカードでプレーオフを掴んだマーリンズからは9ゲーム差をつけられる大敗となった。

このように書くと、チームの再建にはかなりの時間がかかるかのように思われるが、現在のメッツのラインナップを見るとそうでもない。

野手ではフランシスコ・リンドーアやニモ、ジェフ・マクニールといった実績ある長期契約中の主力がレギュラーとして十分な活躍を見せているし、トッププロスペクトのフランシスコ・アルバレスはレギュラー捕手の座を掴み取った。ブレット・ベイティは苦しんだものの、この経験はおそらく来季に向けての糧となるだろう。終盤に昇格したマウリシオやマーク・ビエントスらもおり、着々と巻き返しに向けて戦力は整いつつある。

気がかりなのは最後までローテを固めることができなかった先発投手陣だが、こちらもそれほど心配しなくてもよいだろう。前述の「ジ・アスレチック」によるインタビューに対し、オーナーのコーエンは先発投手の補強が重要であると強調。また、先発投手に限らず今オフも勝利のために補強を進めると明言した。

そしてその「第一弾」とも言えるのがブリュワーズで長年にわたって編成トップを務め、黄金期を築いたデビッド・スターンズとの契約だ。エプラーに代わる新たな編成トップを迎え、チームは改革を推し進めていくことになる。

これまで決して予算が潤沢ではないブリュワーズを率いてきたスターンズだが、MLB屈指の資金力を持つメッツではどのような動きを見せるか注目したいところだ。

ポストシーズンは資金力だけでは進出できないことを思い知らされたメッツ。史上最大の大補強を勉強料に、チームは苦い失敗と多くの若手有望株、そして新たな編成トップを手に入れた。これらを糧に来季はどのようなチームを作り上げるのか。まずはメッツのシーズンオフから目が離せない。

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