ラクスルは、なぜ「はんこ屋」を買収したのか?

ラクスルがTOBでグループに組み込んだハンコヤドットコム(ハンコヤドットコムホームページより)

ラクスル<4384>がTOB(株式公開買い付け)を実施し、印鑑ネット販売最大手の「ハンコヤドットコム」を運営するAmidAホールディングスを完全子会社化した。ラクスルは2022年2月にダンボール・梱包材の受発注サイトを運営するダンボールワン(金沢市)、同8月に物流プラットフォーム「ハコベル」事業など、本業である印刷プラットフォームの周辺事業でM&Aを進めてきた。今回は「印鑑」という、一見すると本業とは無縁の業種でM&Aを実施した。なぜか。

初めてのTOBにどう取り組んだか

「実は印鑑とわが社の既存ビジネスとの親和性は高い」と、ラクスルの西田真之介上級執行役員CAO(最高管理責任者)は明かす。「わが社が提供する名刺や封筒、チラシは起業や拠点開設で必ず必要とされるもの。印鑑もそうだ」という。「ハンコヤドットコム」をグループ企業に加えたことで、スタートアップを含む新しい企業のニーズにワンストップで対応できるようになったのだ。

もっとも、初めての上場企業が対象となるTOBだけに苦労もあった。「法律上の手続きや情報管理の徹底など、買収プロセスに非上場企業の10倍近い手間がかかった」(西田CAO)という。

さらに非上場企業では大口株主の合意だけでM&Aは完結できるが、相手が上場企業となると大口株主だけでなく少数株主にも適切な買収価格であることを納得してもらう努力も必要となる。約40億円のTOB資金については銀行からの長期借入金などのキャッシュがあるため、新たな資金調達はしない。

「印鑑とラクスルの既存ビジネスとの親和性は高い」と話す西田CAO

四半期に1度程度のM&Aで事業を拡大する

PMI(M&A後の統合プロセス)の手法もTOBで変化した。従来の買収企業ではラクスル流の経営手法を全面的に導入してきた。しかし、上場企業のAmidAではこれまで通りの経営手法を踏襲しながら、ラクスルの良い部分を取り入れてもらうようにしたという。

「AmidAとコミュニケーションを取りながら、事業の目標設定やPDCAサイクルによる改善といったラクスルの得意とする手法を取り入れてもらうように進めていく」(西田CAO)方針だ。

今後の戦略だが、自社と関係の深い事業をターゲットに領域拡張のM&Aに取り組む。現在、ラクスルの顧客層は個人事業主や中小企業だが、大企業と接点を持つ企業の買収も検討している。同社が大企業を顧客として取り込む足がかりにするためだ。同社は中長期的にBtoB受発注プラットフォームの決済基盤を構築する計画だが、これもM&Aで対応する可能性もあるという。

2022年からM&Aをもっと活用する方向に舵を切ったラクスル。2023年8月には新社長CEO(最高経営責任者)に、M&Aアドバイザリー経験が豊富な永見世央(ながみ・よう)前CFO(最高財務責任者)が昇格した。今後のM&Aについて西田CAOは「いつまでに何社という計画はない」とした上で、「四半期に1回、年間3〜5件のM&Aを実現したい」と話している。

ラクスルはM&Aによる事業拡大で、中期財務ポリシーに掲げた2025年7月期の売上総利益175億〜200億円(2023年7月期は122億9000万円)の実現を目指す。

ラクスルの売上総利益の推移と目標(同社中期財務ポリシーより)

文:M&A Online

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