ラージャマウリ監督の父が脚本! インド創世記を描く日本初ドラマ『戦神デヴセナ -愛と宿命の2人-』あらすじと時代背景解説

『戦神デヴセナ -愛と宿命の2人‐』©Star India Pvt. Ltd

インド創世期の物語

インドの時代劇テレビドラマ『戦神デヴセナ -愛と宿命の2人-』の原題は、「アーランブ(始まり):カハーニー(物語)・デヴセナ・キー(デヴセナの)」で、少し意訳すると、『国の始まり:デヴセナの物語』となる。ここにある「始まり」という言葉が示すとおり、インドという国の礎ができる頃が舞台となっており、アーリア人とドラヴィダ人の出会いが描かれる。

モヘンジョダロやハラッパといった都市が建設され、インダス文明が栄えたのは紀元前2000年前後。今から4,500年前で、日本ではまだ縄文時代だが、この文明は現在のパキスタンからアフガニスタン、そしてインドのグジャラート州、パンジャーブ州あたりまでを含む広大な地域に広がった。

だが西からは、中央アジアから南下してきたアーリア人が押し寄せ、やがてインダス文明を築いた人々はアーリア人に追われて東へ、さらには南へと移動し、現在の南インドに達する。これがドラヴィダ人である、という有力な説があり、原作ならびに脚本のヴィジャエーンドラ・プラサードは、そこから着想を得たようだ。

敵対するドラヴィダ人とアーリア人が恋したらどうなる?

本作は、当時北インドに王国を形成していたドラヴィダ人と、西から攻め入ってきたアーリア人とが出会ったら――という発想のもと、物語が展開していく。筆者はまだ最初の2話を見ただけだが、アーリア人側の物語とドラヴィダ人側の物語が交互に展開し、それぞれに複雑な事情が次々と語られていく。アーリア人の中心人物は勇者ヴァルンデヴ(ラジニーシュ・ドゥッガル)で、他の戦士と共にカヤスト将軍に従い、司祭アグニミトラの導きを受けながら、雪山を越え、東へと歩を進める。隊の中にはヴァルンデヴの父や親友もいれば、彼をうとましく思う者もおり、前途は多難だ。

一方、ドラヴィダ人の主人公は王女デヴセナ(カールティカ・ナーイル)で、女王としてこの国を治めていた母親チャームンディが亡くなり、父親に育てられたデヴセナは、王座の後継者と目されていた。ところが、叔母ダヤリニが王座を狙っており、さらにこの国には、ハフマ(タヌージャー)という占い師で王座を守護する老女がいて、国事のすべてはハフマの指示によって決められる。ハフマの年は何と400歳を超えており、身には数匹のコブラをまとうという恐ろしい姿で、凶兆を見極め、命令を降す。

このあと、デヴセナ王女とアーリア人の将軍となったヴァルンデヴが出会い、恋に落ちる物語なのだが、二人とも誇り高き戦士であり、敵対する立場とあっては、単なる甘い恋には終わりそうにない。北インドにはアーリア人、南インドにはドラヴィダ人が住む現在のインドが、どのように成立に至ったかが語られていくのである。

ラージャマウリ父が「分からない時代」の描写に挑戦! 日本発バラエティの影響も!?

原案者のV.ヴィジャエーンドラ・プラサードは、ご存じのように『バーフバリ』二部作(2015年/2017年)や『RRR』(2021年)の監督S.S.ラージャマウリの父親であり、『バーフバリ』と『RRR』のほか、『マニカルニカ ジャーンシーの女王』(2019年)などの原作も手がけているベテランの作者兼脚本家である。

史実を押さえながら神話的世界もからめて描き、作品のスケールを広げて、見る人を魅了してしまう手腕の持ち主だ。『戦神デヴセナ』も、歴史書や碑文などが残っていない時代の物語を大胆な発想で描いていて、そんなことが実際に? と思いつつも、引き込まれてしまう。

大胆な発想の最たるものが占い師ハフマの存在で、体にまとうコブラ数匹はCGだとは思いつつも、まるで生きているように鎌首をもたげるため、この女優が本当に身に帯びているのでは、と疑いたくなる。実はハフマを演じているのは、1960~1970年代に人気女優だったタヌージャーで、大ヒット作『Haathi Mere Saathi(象は僕の友達)』(1971年)に主演した彼女を知らないインド人はいない。

それだけでなく、彼女はシャー・ルク・カーンとの名コンビで知られる女優カージョルの母親でもあり、カージョルはまた、『RRR』でラーマの父親を演じたアジャイ・デーヴガンの妻でもある。母親も姉も著名な女優だったタヌージャーは、御年73歳でこの作品に出演したのだが、さすがの貫禄である。

一方、アーリア人を演じるラジニーシュ・ドゥッガルらは、上半身に何もまとわないシーンが多く、その肉体美が強調される。ヒンドゥー教の前身となるバラモン教もまだ成立していない時代なので、宗教の約束事に縛られない反面、すべて考え出さないといけないため、そのあたりの描写も興味深い。現在、高位のカーストのみが着けられる聖紐(ジャネーウとかウパナヤナムと呼ばれる)も、ここでは銀色の紐として登場し、少し違う意味を持つ。

興味深いといえば、インドのテレビドラマ制作者が、日本のテレビ番組などもよく見て研究していることがわかるシーンがあった。アーリア人の兵士たちが将軍にふさわしいかどうかのテストとして、危険が潜む通路を通り抜ける試練を課される、というシーンがあるのだが、そこに仕掛けられた罠の数々が、スポーツ・エンタメ番組『SASUKE』の装置とすごく似通っているのである。そんなお楽しみシーンもある『戦神デヴセナ』、情報皆無の描きにくい時代を取り上げた実にユニークな作品なのだ。

ドラマが多様化し、クオリティが上がるインド・テレビ界

20年ほど前、2000年前後はファミリードラマ全盛だったインドのテレビドラマは、嫁姑の確執からやっと解放され、ここ10年ほどはNetflixやAmazon Prime Videoなど配信サービスの参戦もあって、様々なジャンルのものが作られるようになった。現代劇のサスペンスものがやはり人気が高いが、製作資金が豊富になったのか、時代劇も様々な時代のものが登場している。定番はやはり、中世のイスラーム王朝ものや、1857年のインド大反乱などを描く反イギリス闘争ものだが、『戦神デヴセナ』のように、古代を描く作品も登場するようになった。

古代ドラマ人気は、映画『バーフバリ』二部作や、日本でも放送された『ポロス~古代インド英雄伝~』(2017~2018年)の成功が影響を与えたようだが、『戦神デヴセナ』は『ポロス』に少し先立って放送されており、似たようなシーンが散見できるのは『ポロス』が参考にしたのかも知れない。

映画と比べるとエンターテインメントとしての人気はまだまだという感じのテレビドラマだが、今後、映画の強敵となる可能性もある。『戦神デヴセナ』にも、主役2人のほか、将来性のありそうな顔がのぞく。そんな楽しみもみつけながら、はるかな昔のインド世界に浸ってみたい。

文:松岡 環

『戦神デヴセナ -愛と宿命の2人‐』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2023年10月23日(月)19:00より第1~2話 先行放送(スカパー!無料放送)、11月6日(月)より本放送開始【(月)~(木)20:00 毎日1話放送/(日)深夜 連続4話 再放送】

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