浦和レッズはなぜ『逆転の浦和』に? 昨季逆転ゼロ試合が一転「1失点でいければ、追われているのは相手」の境地

2023シーズンのJ1リーグは残すところあと5試合。現在、勝点50の3位・浦和レッズは、首位ヴィッセル神戸を勝点差8で追う。直接対決も残しており、優勝のゆくえはまだまだわからない。今年5月にAFCチャンピオンズリーグを制覇し、JリーグYBCルヴァンカップでも決勝進出を決めるなど、今季ここまで好調を維持する浦和の背景には「逆転試合の多さ」がある。昨季は逆転が0試合だったチームに今季何が起こっているのか?

(文=佐藤亮太、写真=西村尚己/アフロスポーツ)

最初に目を引くのは、ホームゲームが多いこと

「どうしてなんですかね……」
「たしかにそうですね」
「知らない、俺は」
「なんでですかね……」
「メンタル?……どうなんすかね」
「でも、本当はあんまりよいことではないんですけどね」

同じ質問を投げかけた際の浦和レッズの選手たちの第一声だ。反応はそれぞれ。質問した内容は「なぜ今季、浦和は逆転試合が多いのか?」。

逆転で勝ち点3を手にした試合は以下の通り。

・J1リーグ 第3節(3月4日):セレッソ大阪戦(ホーム)2-1
・J1リーグ 第5節(3月18日):アルビレックス新潟戦(ホーム)2-1
・J1リーグ 第13節(5月14日):ガンバ大阪戦(ホーム)3-1
・ルヴァンカップ・グループリーグ 第5節(5月24日):川崎フロンターレ戦(ホーム)2-1
・J1リーグ 第11節(5月31日):サンフレッチェ広島戦(ホーム)2-1
・J1リーグ 第19節(7月1日):サガン鳥栖(アウェイ)2-1
・J1リーグ 第28節(9月24日):ガンバ大阪戦(アウェイ)3-1

リーグ戦で6試合。JリーグYBCルヴァンカップで1試合。合わせて7試合。

そして直近のルヴァンカップ、横浜F・マリノスと準決勝・2試合合計で争われた試合でも、浦和は第1戦のアウェイを0-1で折り返し、ホーム・埼玉スタジアムでの第2戦に2-0で逆転勝利。この準決勝2試合を便宜上1試合とみなせば、8試合の逆転勝利となる。

最初に目を引くのは、ホームゲームが多いこと。これには何より今季3万人近い平均入場者数を誇るファン・サポーターの後押しの強さを感じる。

加えて、シーズン序盤に逆転が多かったことも目を引く。3月に2回、5月に3回逆転劇を演じている。 得点者を見ると、反撃の口火となる同点弾はホセ・カンテが3回。ルヴァンカップ準決勝を含めるとアレクサンダー・ショルツも同じく3回(計4得点)。アディショナルタイムでの得点は前半に2回。後半に2回、あわせて4回記録している。

「0-1から0-2にならない安心感」選手それぞれの証言

今季、「逆転の浦和」とささやかれるようになった浦和レッズ。では、なぜ逆転勝利が多いのか。

「やはり守備。守備じゃないですかね」と岩尾憲。

「ショルツ、マリウス(・ホイブラーテン)の2人のセンターバックにGK西川(周作)選手。またウィング、ワントップ、トップ下、ボランチの守備での貢献度が高い。たしかに先に取られることは良くないですが、結局のところ2点取られないことが大事。ましてや3点取られると試合は終わってしまいます。ちゃんと地に足つけたプレーができれば、1点取られても、2点、3点取られることはそうそうない」

そして興梠慎三。

「諦めないことは大事なことですし、1点取られても2、3点取られることがあまりないから。それが逆転できる要因。もちろんリスクを負って点を取りに行かなければならないですが、どちらかといえば2点目を取られないような考え方が強い」

さらに髙橋利樹。

「0-1から0-2にならない、その安心感はあります。逆転の回数が増えることで1失点しても2点取ればいいというメンタリティー、自信がついてきました」

単なる守備の堅さではなく、たとえ失点しても、立て続けの失点をしない、チーム全体としてそうさせない。これを裏づけるのが酒井宏樹。

「シンプルに今年大きく変わったのは失点したときにすぐにみんなで話し合えていること。0-1でハーフタイムを迎えて、0-1で60分以降なら、何かが起きると。試合には流れがあります。その波をキャッチすれば追いつけます。さすがに0-2になると相手に試合をコントロールされてしまうので難しくなります。でも0-1だとコントロールできない状況なのでチームとしてバラけることがない。そのことがいい要因ですね」

ここで加えたいのは岩尾のこの指摘。

「セットプレーで点を取られないことが大きいですね。セットプレーでの得点は流れに関係なく得点できるので」 たしかにセットプレーの失点は少ない印象。岩尾が示したように一つのセットプレーで試合の流れを一気に変えられてしまう恐れがある。長身センターバックコンビを中心とした高さに加え、不用意な自陣ゴール前でのファウルを極力避けるなど、そうしたリスクを未然に防いでいる。

「1失点でいければ、追われているのは相手」

では、堅守を最後尾で支える守護神・西川周作はどう考えているのか。

「みんなのなかでしっかり守れている意識があります。1失点でいければ、追われているのは相手。そのメンタリティーを利用しながら、自分たちがホームでビハインドの展開になったとしても動じないというメンタルでやっています。点が入れば、勝てる自信がついてきますし、昨年からの積み上がりはあります」

「1失点でいければ、追われているのは相手」――。普通なら「自分たちが追いつく」という表現となるが、相手を主語としている点が興味深い。考えるに、ホームのファン・サポーターの後押しとともに、堅守を実質的かつ心理的に大きな担保とした攻撃が機能するようになったことを示しているのではないか。

振り返れば、浦和は慢性的に得点力不足に悩まされている。その肝になるのが基本陣形4-2-3-1の「3」の部分。ここは決まり事が比較的少なく、互いの特長をうまく引き出し、相乗効果を生む関係性で攻撃が成り立っている。だからこそ難しく、一朝一夕にはいかない。そこでクラブは今夏、中島翔哉、安部裕葵を補強したものの、ケガやコンディション不良もあり、期待通りの効果にはいまのところ至っていない。

しかし、堅守で得た、特に序盤の成功体験がこのリーグ終盤にかけて生かされているのではないか。

「負けているときに、リスクを負って前に出ていけるようになりました。後ろ(DF)がマンツーマンになっても基本的にゾーンで守るので相手が何枚だろうと4-4-2で守ることが多いです。負けているときはリスクを負って、その4-4-2のゾーンを崩して前にずらしていけるようになりました。それが多分、相手を押し込めて、セカンドボールを拾えて、攻め続けられるようになった要因かなと」(小泉佳穂) 「攻撃のチャンスは作れています。点が入るか入らないかはありますが、1点取れる感覚は全然ありますね。2点、3点取れるかは別の問題ですが、チャンスの回数を含めて1点は入る感覚はあります」(岩尾)

スコルジャ監督は「控え組」にも常に熱い視線を注いでいる

大久保智明の指摘・分析は実に冷静かつ自信家の大久保らしい。

「逆転している試合で一つあるのは、自分が途中から出た試合が多いかなと。川崎戦、広島戦、この前のルヴァンカップ準決勝の第2戦とか……自分が途中から出て逆転した試合が多いのが事実ですし、途中から勢いに乗せることができます」

こういった点は、スコルジャ監督の的確な采配と選手起用が大きい。

J1リーグ・第28節のアウェイ・ガンバ大阪戦はケガの影響で出場機会が少なかったブライアン・リンセンや髙橋利樹らが途中出場でゴールを決めたことがチームに勢いをもたらした。ここ最近では浦和レッズユース所属の17歳・早川隼平を積極的に起用している。

スコルジャ監督はいわゆるスタメン組だけに心を砕くのではなく、控え組にも常に熱い視線を注いでいる。聞けば、監督は控え組の練習をその目で確認するとともに遠征で離れているときも、彼ら控え組のトレーニングを映像でチェックしているという。

大久保はスコルジャ監督をこう評価する。

「スコルジャ監督はモチベーターの部分もありますし、常にロッカールームでは『気持ちが大事』と話しています。ACL(AFCチャンピオンズリーグ)決勝のときもそうでしたし……この1年間、ずっと言い続けていますし、自分たちに根づいてきています」 最後は精神論に行きつくのかもしれないが、選手に寄り添いながら指揮官を支える池田伸康コーチの存在も含めて、選手が戦える環境をつくる監督・コーチのチームマネジメントが逆転試合に大きく関わっているのは間違いない。

「進むべき方向はただ一つ」と力をこめたスコルジャ監督

「逆転の浦和」の印象も、優勝を狙うためにはこれではまだ足りない。

リーグは残すところ5試合。

現在3位の浦和は勝点「50」。首位のヴィッセル神戸とは勝点「8」差。残り5試合の対戦相手は柏レイソル(16位)、鹿島アントラーズ(4位)、ヴィッセル神戸(1位)、アビスパ福岡(8位)、北海道コンサドーレ札幌(14位)。柏戦、鹿島戦の連勝が条件ではあるが、その先の神戸との直接対決を制すれば、優勝のゆくえはまだまだわからない。

浦和はケガ人が続々と復帰し、頼れるメンバーがそろいつつある一方、ACLグループステージ、そして福岡とのルヴァンカップ決勝の大一番と大事な連戦が重なる日程。

さらに過去5年のリーグ残り5試合の戦績と見ると、

2018年 3勝0分2敗
2019年 0勝2分3敗
2020年 0勝1分4敗
2021年 1勝2分2敗
2022年 1勝2分2敗

5勝7分13敗。勝率25%と散々な結果だ。

ただ、4勝1分だった2016年はルヴァンカップ決勝に進出して優勝をおさめており、その勢いに乗ったまま残りのリーグを戦った。そのまま照らし合わせるのは安易ではあるが、吉兆のデータではある。

「進むべき方向はただ一つ」と力をこめたスコルジャ監督。

果たして『逆転“優勝”の浦和』としてリーグを締めくくれるか。

<了>

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