【角田裕毅を海外F1ライターが斬る】リカルドがいよいよ復帰。さあ、ハンマータイムだ!

 F1での3年目を迎えた角田裕毅がどう成長し、あるいはどこに課題があるのかを、F1ライター、エディ・エディントン氏が忌憚なく指摘していく。今回は、第18戦カタールGPに焦点を当てた。

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「It’s Hammer Time!」 もちろんこれは、サー・ルイス・ハミルトンとレースエンジニアの間で使われている有名なフレーズで、「さあ、これからプッシュしていこうぜ!」という意味合いを持つ。今の角田裕毅にかける言葉として、これ以上ふさわしい表現はないと、私は思っている。

 ダニエル・リカルドの代役として突然F1デビューをしたリアム・ローソンが、この5戦、堅実な仕事をし続けたことは、角田の将来にとって良い要素だったとはいえないが、角田自身もしっかり自分がやるべきことをこなした。

 カタールで、アルファタウリのどちらのドライバーが速かったかは、明らかだった。角田はスプリント・シュートアウトで失敗したものの、スプリントでポイント圏内近くまで浮上した。残念ながらカタールでのAT04は、全チーム中、2番目に遅いマシンだったため、日曜決勝で入賞争いをすることはできなかったが、少なくともチームメイトより18秒速くフィニッシュすることはできた。

2023年F1第18戦カタールGP 角田裕毅(アルファタウリ)

 だが、肝心なのはこれからだ。今週末のアメリカGPではリカルドが戻ってくる。リカルドと角田裕毅は、2025年のレッドブルのシートをめぐって戦うことになるだろう。角田は今シーズンのうちから優位に立って、アルファタウリのナンバーワンとしての地位を確立していく必要がある。今年それができれば、来季マシンの開発の方向性について意見を強く言える立場になる。リカルドの方がF1での経験は豊富だが、角田の方が今のアルファタウリチームのことはよく知っているため、自分が有利になるよう、チームのいくつかの部門を動かすことも可能なはずだ。

2023年F1第19戦アメリカGP 復帰第1戦への準備を進めるダニエル・リカルド(アルファタウリ)

 2024年には、ローレン・メキースがチーム代表に就任する。角田としては、その前に自分の存在感を示しておくことが重要だ。メキースはかつてリカルドと一緒に働いた経験を持ち、ふたりは非常に親しい関係を結んでいる。それでも、技術チームがリカルドより角田の意見に耳を傾けるような状況ができていれば、メキースもそれに従うことだろう。

 ここまでの話は、セルジオ・ペレスが2024年末で契約を終えて、レッドブルから出て行き、そこに空きシートが生まれることを前提にしている。だが、2024年初めからシートに空きが出る可能性もありそうだ。マルコが、今のペレスほど苦しんでいないドライバーをクビにした例は過去にいくらでもある。

 フェルスタッペンがほぼ毎戦ポールポジションを獲得している同じマシンで、ペレスは大差をつけられ、Q3に進出することすら苦労している。ペレスはカタール決勝で10位どまり、チームメイトからは75秒遅れでフィニッシュした。さらに、私にはとても数えきれないほど多くのトラックリミット違反を犯したことも問題だ。これは笑いごとではない。全チームのなかで最も速いマシンに乗っているドライバーがすることではないからだ。つまり、ペレスがすぐさまスランプから抜け出すことができなければ、リカルドと角田のどちらかが、来年からフェルスタッペンのチームメイトになることもあり得ると、私は思っている。

2023年F1第18戦カタールGP セルジオ・ペレス(レッドブル)

 角田がレッドブルで走るところを見たいと思っている人は多いはずだ。もちろんマックスがリードドライバーであることに変わりはないが、レッドブルのマシンに乗れば、角田には表彰台争いをするチャンスが訪れる。彼がルイス・ハミルトン、シャルル・ルクレール、オスカー・ピアストリとホイール・トゥ・ホイールのバトルをするところを見られるかもしれない。考えただけでわくわくするではないか。

 だからこそ、私は残りの5戦は、角田のキャリアにとって非常に重要になると考えている。リカルドに圧勝すれば、道は開ける。しかし負けた場合には、2024年末で新しいシートを探さなければならなくなるかもしれない。そう考えると、私が「ハンマータイムだ!」と声をかけたくなる気持ちを分かってもらえるはずだ。

2023年F1第19戦アメリカGP 角田裕毅(アルファタウリ)とピエール・ガスリー(アルピーヌ)

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筆者エディ・エディントンについて

 エディ・エディントン(仮名)は、ドライバーからチームオーナーに転向、その後、ドライバーマネージメント業務(他チームに押し込んでライバルからも手数料を取ることもしばしばあり)、テレビコメンテーター、スポンサーシップ業務、講演活動など、ありとあらゆる仕事に携わった。そのため彼はパドックにいる全員を知っており、パドックで働く人々もエディのことを知っている。

 ただ、互いの認識は大きく異なっている。エディは、過去に会ったことがある誰かが成功を収めれば、それがすれ違った程度の人間であっても、その成功は自分のおかげであると思っている。皆が自分に大きな恩義があるというわけだ。だが人々はそんな風には考えてはいない。彼らのなかでエディは、昔貸した金をいまだに返さない男として記憶されているのだ。

 しかしどういうわけか、エディを心から憎んでいる者はいない。態度が大きく、何か言った次の瞬間には反対のことを言う。とんでもない噂を広めたと思えば、自分が発信源であることを忘れて、すぐさまそれを全否定するような人間なのだが。

 ある意味、彼は現代F1に向けて過去から放たれた爆風であり、1980年代、1990年代に引き戻すような存在だ。借金で借金を返し、契約はそれが書かれた紙ほどの価値もなく、値打ちがあるのはバーニーの握手だけ、そういう時代を生きた男なのである。

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