20人ほどの男性と避妊せず妊娠…「浮気がばれることを恐れ」とった行動は…【前編】

その女は、過去にも赤ちゃんを産み“殺し”ていた。

「産んだ子どもはどうなりましたか?」
「…分かりません」
「調書には『汲み取り式のトイレに落ちていきました』とあるが、どちらが正しいですか?」

※当時のニュース、

松山地裁41号法廷。弁護士から投げ掛けられる質問に、被告の女は言葉少なに答える。(前編・・のうち前編)

「調書の方です」
「分からないと言ったのはなぜ?」
「…思い出せなかった」
「赤ちゃんを助けようとは思わなかった?」

女はうつむき、黙り込んだ…。

竹やぶに「赤ちゃんが捨てられている」へその緒も付いた遺体

「赤ちゃんが捨てられている」

2022年4月13日。愛媛県新居浜市で事件は発覚した。

昼間でも薄暗い竹林の中を走る、幅40センチ、深さ30センチの小さな水路。そこに置かれていたのは、バスタオルに包まれた、生まれて間もない、へその緒も付いた男児の遺体だった。

警察は延べ2400人の捜査員を投入、聞き込みや防犯カメラ映像の解析などを進めた。

1か月後。現場近くに住む、当時32歳の母親が殺人容疑で逮捕された。

それから1年半を経た2023年9月。松山地裁で裁判員裁判が行われ、女が犯行に至った経緯や背景などが明らかになった。

裁判の中で認定された事実や、これまでの取材資料などから、事件を振り返る。

交際相手とは別の男性との間に妊娠「浮気がばれることを恐れて…」

「被告人は、2022年4月10日午後7時半ごろ、愛媛県新居浜市内の竹林で、直前に出産した男児に対して、殺意をもって全身をバスタオルで覆い、竹林の水路内に置いて隠した上、その場から立ち去って放置し、翌11日ごろ死亡させて殺害した」

2023年9月19日。殺人罪の被告人として法廷に現れたのは、立野由香(たちの・ゆいか)被告。上下とも黒い服装で、少しくせのかかったショートヘア。

検察官が読み上げる起訴状を、正面を見つめたまま聞き入る立野被告。時折、目元を手で覆うようなしぐさを見せるが、傍聴席からは表情を伺い知ることはできない。

「先ほど検察官の読み上げた起訴内容に間違いはありませんか?」
「間違いありません」

弁護士も、公訴事実に争いはないと同意。裁判では「刑の重さ」が争点となった。

続いて、冒頭陳述が行われる。

「交際相手とは別の男性との間に妊娠が発覚したことから、交際相手や同居する家族に浮気がばれることを恐れて犯行に及んだ」

立野被告には、約10年前に知り合った森さん(仮名)という交際相手がいる。

また、8人きょうだいの末っ子として生まれ育った立野被告は、2017年に両親と死別して以降、平屋の一軒家に、50代と40代の兄2人と甥の、合わせて4人で同居していた。家事のほとんどをこなす傍ら、生活費を得るために飲食店でアルバイトもしていた。

妊娠分かり「アリバイ工作」も

「2012年に森さんと交際を始め、その翌年、森さんとの間に子どもができたが、流産した」
「2017年、母親と死別して以降、森さんとセックスすることは無くなった」

続く証拠調べの中で、立野被告が今回の事件前にも、赤ちゃんを自宅トイレに産み落としていたことが明かされた。

「2018年までの間に、マッチングアプリで知り合った男性との子どもを妊娠。3月下旬ごろに自宅の汲み取り式トイレで出産し、放置した」

検察官の示すスライド資料が、法廷のモニターに映し出される。そこには、一見して20人くらいの男性が、名前の伏せられた状態で並んでいる。

避妊することなく、知り合った男性と性交渉を重ねていたという立野被告。その結果、2021年7月ごろ再び妊娠し、焦りを募らせる。

そこで、交際相手の森さんに性交渉を持ち掛けた。2人の子どもとして産み、育てようと企てたのだ。

「数年間『セックスレス』だったのに、突然『妊活しよう』と誘われて驚いたが、受け入れた」

森さんは供述調書で、当時の状況をこう振り返る。

自分の子どもだと思っていた交際相手の男性

「生理が来る気配がない」

一方の立野被告は、森さんにアリバイ工作ともとれるLINEを送信している。

自分の子どもだと思っていたという森さんだが、事件が発覚する直前まで、立野被告とそのことについて話し合うことはなかった。

「診察費がもったいないという思いがあった」

飼いネコのエサ代や生活費、またカードローンの返済などで金銭的余裕はなかったという。

「今思うと、由香の妊娠に興味がなかったのかも」

医師「お腹の中に赤ちゃんはいない」

2022年4月10日、事件当日。仕事が休みだった森さんは、朝、立野被告をアルバイト先の飲食店まで送り届け、午後3時ごろ、迎えに行っている。

午後8時ごろ。立野被告から「体調が悪い」「大量に出血した」との連絡を受けた森さんは、再び立野被告の自宅に向かい、病院まで付き添った。

「立野被告は魂が抜けたようになっていた」

その後、森さんは、医師から驚きの事実を告げられる。

「お腹の中に赤ちゃんはいない」

翌朝、立野被告の自宅近くの竹やぶから、男児の遺体が見つかった。

荒れ気味だった家庭環境、両親のけんかが絶えず…

証拠調べの後の証人尋問には、立野被告の姉が証人として出廷した。

「妹が相談できる相手は、同居する家族には誰も居なかったと思う」

立野被告が同居していた2人の兄のうち、特に上の方は「気難しく、機嫌が悪くなると物を壊すなどヒステリックだった」と述べた。

家庭環境も荒れ気味だったという。

「小さい時から両親のけんかが絶えなった」
「父は物静かで、子育てに協力的では無かった…。母は、すごく、すごく、お金に対して執着心があり、すごく浮き沈みが激しくて…」
「母は、由香とよく買い物に…、由香のカードでよく買い物をしていて…」

それまで気丈に話していた姉の言葉が途絶えた。声を押し殺して泣いている。しばし続いた沈黙のあと、言葉を続けた。

「母は機嫌が悪くなると…手を出してきたり…。『殺す』『死ね』といった言葉が日常的にあった」

立野被告は「友達がいる感じは無かった」高校も中退

一方、立野被告は物静かな性格で、他人とのコミュニケーションが苦手だったという。

「おとなしく、駄々をこねたり、あれが欲しいとか言ったりすることはなかった」
「友達が遊んでいる時、輪の中に入りにくくて、ひとりぼっちだった」
「小学校に進学したあとも、友達がいる感じは無かった」

学校での成績が振るわなかった立野被告。地元の高校に進学するも、中退。その後、飲食店などで働き、家計を支えていたという。

「後悔していることはありますか?」

弁護士から事件のことを問われた姉は沈黙。そして、涙をぬぐう。

姉「気付いてあげられず、ごめん」そして、被告が殺した子につけた名前は

「話をしてあげたり、聞いたりしてあげるべきだったと思う」
「小さい時から物静かだったのに、なんでこんなこと…という気持ち。気付いてあげられず、ごめんと話した」

その上で姉は、殺された子どもに立野被告が「優希(ゆうき)」と名付けて戸籍を届け出たこと、納骨をすませたこと、また、自身も保釈中の立野被告の面倒を見ていたこと、精神科への通院に付き添っていることなどを明かした。

そして、今後について問われると
「交際相手の森さんは、由香が出てくるまで待つと言っていた」
「もし、森さんが待てなかったとしても、私が由香を支えます」

【中編】では、証言台に立った立野被告は何を語ったかについて振り返る。

裁判所の判決は、【後編】をご覧ください。

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