以前にも“マッチングアプリ”で知り合った別人と避妊せず妊娠…中絶のお金なく、誰にも相談せず…【中編】

2022年4月、竹林で赤ちゃんを出産し殺害したとして、殺人の罪に問われた立野由香(たちの・ゆいか)被告。翌2023年9月の裁判員裁判で、過去にも自宅の汲み取り式トイレで赤ちゃんを産み落としていたことが明らかとなった。法廷で被告が語ったこととは-。(・中編・のうち中編)

※当時のニュース、母親の人物像などを写真で掲載しています

マッチングアプリで出会った男性の子を妊娠

「交際相手の森さんとセックスしなくなった理由は?」
「わからないです」

裁判は、立野被告への質問に移った。

弁護士は、交際相手の森さん(仮名)との関係に触れたあと、4年前、自宅のトイレに子どもを産み落とした件を質問する。

「今回の事件までにあった、2018年の妊娠、相手は誰ですか?どこで知り合いましたか?」
「マッチングアプリで」
「出会い系ですね?」
「(うなずく)」
「なぜ森さんがいるのに、他の男性と?」
「(首をかしげる)」

「質問を変えますね」

「避妊はしていなかった?」
「はい」
「なぜ?」

弁護士の問いかけに、ほとんど聞こえないくらいの小さな声で答える立野被告。

「言ったけれども、してくれなかった」
「避妊してくれないならば、できないと拒否できなかったの?」
「(沈黙)」

「どうしようと考えているうちに産まれた」

「質問を変えますね。妊娠したと気付きましたよね。なぜ森さんに相談できなかったのか、説明できますか?」
「……言葉が出てこない」
「きょうだいに相談できなかったの?」
「普段から話すことがなく、相談できなかった」

「中絶は考えなかったの?」
「お金がなかった」
「消費者金融から借りるとか、用意はできなかったの?」
「(沈黙)」
「言葉にならない?」
「はい」

弁護士は、少し考えるそぶりを見せたあと、質問を続けた。

「お腹がだんだん大きくなってくる。どうしようと思った?」
「どうしよう、どうしようと考えているうちに産まれた」
「どこで産まれましたか?」
「トイレで…」
「どこの?」
「自宅の…」
「なぜ、トイレで出産したの?」
「(沈黙)」

うまく答えられない立野被告。弁護士は質問を変える。

「『産まれそう』となりますよね?頷いているけど、それは『はい』ってことでいいですか?」
「その時はどこにいましたか」
「自分の部屋」
「調書には『アルバイト先の飲食店でお腹が痛くなり』とありますが」
「本当に産まれそうになったのは家」
「なぜトイレで?自分の部屋ではだめだったんですか?」
「(沈黙)」

汲み取り式トイレで出産したわが子

「深呼吸してもらっていいですよ、大丈夫ですか?質問を変えますね。トイレで実際に子どもを出産しましたか」
「2018年の時はしました」
「産んだ子どもはどうなりましたか?」
「…分かりません」
「調書には『汲み取り式のトイレに落ちていきました』とあるが、どちらが正しいですか?」
「調書の方です」
「分からないと言ったのはなぜ?」
「…思い出せなかった」
「赤ちゃんを助けようとは思わなかった?」
「(沈黙)」

質問は、今回の事件へと移る。

「今回の事件についてね。赤ちゃんの父親は誰?」
「マッチングアプリで知り合った、前の人とは別の人…」
「避妊せずセックスを?」
「はい」
「なぜ?」
「相手がしてくれなかった」
「拒否できなかったの?」
「(沈黙)」

質問に対する端的な返答が苦手なのだろうか。立野被告はたびたび沈黙する。

「ちょっとキツい質問になるけど、2018年の時の赤ちゃんのことは、頭に無かったの?また同じようなことになったら大変だと思わなかった?」
「思った」
「なぜ交際相手がいるのにマッチングアプリを?」
「(沈黙)」

「調書には『森さんとは関係良好だったが、何年もセックスしておらず、他の人と遊びたいという気持ちから、マッチングアプリを使った』とあるが」
「(沈黙)」

「アリバイ工作的に『妊活』なんのため?」質問に…

「言葉にできないですか?」
「はい」
「妊娠が発覚した時どう思ったの?」
「(沈黙)」

「このままこの子を出産したら、まずいと思わなかった?」
「思いました」

「アリバイ工作的に『妊活』をして、森さんとセックスしているが、何のため?」
「…その時は、森さんの子どもとして育てようと思った」
「けど止めたんだよね。その子を育てるのをなぜ止めたの?」
「いつか自分の子ではないとばれてしまうと思ったから」

「中絶しようとは考えなかった?」
「やっぱりお金がなかった」
「貯金はどのくらいあったの?」
「ほぼ無かった」
「月にどれくらい稼いでいたの?」
「6~7万円くらい」
「何に使っていたの?」
「携帯電話代や食費に」
「同居していたお兄さん2人は出してくれなかったの?」
「出していた。それでも足りたり足らなかったり…」
「中絶費用を借りることは思い付かなかった?」
「(沈黙)」

竹林で出産したわが子を見た被告は…

「今回の事件の妊娠、誰にも相談していないのはなぜ?」
「(沈黙)」
「相談せず、お腹は大きくなっていく。どういうことを考えていた?」
「(首をかしげる)」

手元の資料をめくる弁護士。

「どこかで子どもを産んで、放置することを考え始めたのはいつ?」
「産まれる数日前に」
「子どもを放置して死なせてしまってもいいと思ったのはいつ?」
「(沈黙)」

質問は、いよいよ事件の当日に及ぶ。

「竹林で産もうと思ったのはいつ?」
「当日」
「子どもを包んだバスタオルはいつ手に取ったの?」
「竹林に行くときに」

「子どもを置いて立ち去るということは決めていた?」
「そこまでは決めていない」
「結局、放置しているのはなぜ?『溝の中は竹林の外から見えないと思い、放置して立ち去りました』と調書にはあるが」
「気付いたら立ち去っていました…」

そして「殺意」についての質問を重ねる。

「殺すつもりは無かったということ?」
「(沈黙)」
「竹やぶに行って出産したあと、立ち去っているよね。死んでしまうということが分からなかった?」
「(沈黙)」

立野被告から「殺意」を明確に否定する言葉が出ることは無かった。

「産み落とした赤ちゃんは、動いていましたか?」
「手足は動いていた」
「見てどう思った?」
「(沈黙)」
「…赤ちゃんの顔は見ましたか?」
「ちょっとだけ」
「どう思いましたか?」
「…可愛いなと思いました」

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第3回(前編・中編・後編のうち後編)は、法廷に立った精神科医と「赤ちゃんポスト」を運営する産婦人科医が語ったことを振り返る。そして、裁判の結末は-

【後編の記事はこちら】

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