エレベーターの耳ツン現象、新幹線の高速移動でとんでもないことに?日常にもあった低気圧不調の意外な要因

順天堂大学医学部教授・小林弘幸先生

「頭が痛くなるのは、決まって低気圧の日ばかり」

気象病や天気痛が一般的になってきた今、低気圧不調に関するこんな会話もよく聞かれるように。一方で、私たちが悩まされる気圧の変化は、「天気」だけではない。自律神経の名医と気象予報士が天気を味方につける方法を探った『天気に負けないカラダ大全』から一部抜粋、再構成してお届けする。

■現代人は、天気だけでなく移動中の気圧変化でも体がボロボロに

低気圧がくるのと同じくらい、気圧変化が起きるものがあります。

特に、勤務先のオフィスや自宅がビルの高層階にある人や、各地を飛び回っている出張が多い人は要注意。

気圧が低くなる分かりやすい例として、山頂でパンパンに膨らむお菓子の袋の話がよく持ち出されます。

でも、現代社会では山登りをせずとも、これと同じ現象が日常的に起こっているのです。

その代表的なものが「高層ビル」。

自宅や会社が高層階にある人は、毎日、エレベーターの昇降による気圧変化にさらされており、一日に何度も行ったり来たりを繰り返していると、じわじわと自律神経を乱す要因になります。

高層ビルやタワーマンションに設置された高速エレベーターに乗ると、耳にツンとした痛みを感じる「耳ツン現象」に見舞われたり、耳が詰まったりしますよね。

これこそが気圧の変化によるもので、鼓膜の内側と外側の圧力差によって生じます。

フロア1階分の高さは、一般的に4メートル程度。

気圧は、地上からの高さが10メートル上がるごとに1ヘクトパスカル下降します。

単純計算ですが、10階の高さは約40メートルで気圧は4ヘクトパスカル低下します。

フロアが10階上がるごとに気圧低下は倍になるので、20階なら8ヘクトパスカル、30階なら12ヘクトパスカルも気圧が低下する計算になります。

1ヘクトパスカルの気圧低下で不調を訴える人もいるのに、わずか数秒の間にこれだけ急激に気圧が変化すれば、体調によっては片頭痛が起こる日もあるでしょうし、気圧の低下によって副交感神経が働き、だるさを覚えたり、やる気を奪われたりすることも十分考えられます。

エレベーターだけではありません。

上下に移動するエレベーターは気圧の変化がイメージしやすかったと思いますが、高速で移動する新幹線などの横移動や縦と横が組み合わさった飛行機、高低差の大きい地下鉄での移動でも気圧の変化を受けることになります。

出張などで各地を飛び回っている人もまた、現代ならではの気圧変化にさらされているといえるでしょう。

エレベーターと同様に、飛行機の上昇中や下降中、新幹線がトンネルを出入りするときなどに、耳の圧力調整がうまくいかず、耳ツン現象を起こすことがありますよね。

乗り物の速度、トンネルの幅なども関係するため気圧変化を数値で示すのは難しいですが、わずか数秒でビルの高層階へ瞬間移動するくらいの負担が体にかかっている、とイメージしてください。

乗り物での高速移動は、気圧変化をキャッチするセンサーの役割を持つ内耳を酷使します。

このため自律神経の乱れが生じることもありますし、ずっと座ったままの姿勢が血行不良の原因となり、自律神経のバランスを崩してしまうこともあります。

また、出張の多い方は、出発地と目的地の天候の違いによる気圧変化や寒暖差に直面することがよくあると思います。

移動の車内で気圧変化を調整してきた自律神経は、すでに働きすぎの状態なのに、晴れたエリアから雨のエリアに移動という悪条件が重なれば、自律神経の疲労度はとんでもないことに!

移動前と移動後の気温差も自律神経にダメージを与えます。

旅行などで移動するのは楽しいものだけれど、半面、自律神経には負担がかかるということを知っておき、自律神経のアンバランスをリセットする行動を心がけることが不調を寄せつけないための心構えになります。

【PROFILE】

小林 弘幸(こばやし ひろゆき/Hiroyuki Kobayashi)

順天堂大学医学部教授
1960年、埼玉県生まれ。87年、順天堂大学医学部卒業。92年、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属医学研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学小児科講師・助教授を歴任、現職に至る。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートや文化人へのコンディショニング、パフォーマンス向上指導に関わる。また、日本ではじめて便秘外来を開設した「腸のスペシャリスト」でもある。『聞くだけで自律神経が整うCDブック』(アスコム刊)などベストセラー多数。

小越 久美(おこし くみ/Kumi Okoshi)

気象予報士、健康気象アドバイザー
1978年、岐阜県下呂市生まれ。筑波大学第一学群自然学類地球科学専攻(気候学・気象学分野)卒業。2004年から2013年まで日本テレビ「日テレNEWS24」にて気象キャスターを務める。その傍ら、民間の気象予報会社(株)ライフビジネスウェザーに所属し、健康気象アドバイザー・データ解析士の資格を取得。スーパーマーケットの売上予測の開発にも携わる。現在は(一財)日本気象協会に所属し、気象データとAIを活用した商品の需要予測事業に携わり、アパレルや飲料メーカーなどへのコンサルティングを行う。著書『かき氷前線予報します~お天気お姉さんのマーケティング~』(経済法令研究会)。

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