恒星「ASASSN-21qj」で2つの巨大氷惑星が衝突した瞬間を観測?

惑星に別の巨大な天体が衝突する出来事は、惑星の誕生直後には頻繁に起きていたと考えられています。しかし、その直接の観測事例はこれまでありませんでした。

ライデン大学のMatthew Kenworthy氏などの研究チームは、恒星「ASASSN-21qj」の明るさの長期的な変化を観察し、ASASSN-21qjの周りで惑星同士の衝突が発生したと主張しました。この主張が正しい場合、地球の数倍~数十倍の重さを持つ2つの惑星が衝突した様子を観測によって捉えたと考えられます。

【▲ 図1: 2つの巨大氷惑星が衝突したASASSN-21qjの想像図(Credit: Mark Garlick)】

■惑星は頻繁に巨大衝突をしている?

恒星が新しく誕生する現場では、恒星の周囲に塵とガスでできた「原始惑星系円盤」が存在します。原始惑星系円盤の内部では塵が集まって惑星が誕生すると考えられています。

塵の円盤は、やがて恒星の放射によって少しずつ消えていくとされています。この段階になると、惑星の公転軌道が変化し、時にはお互いが衝突することもあると考えられています。例えば地球の場合、誕生直後に火星程度の大きさの天体が衝突したと考えられています。この時に生じた破片はやがて集まって月が形成されたと考えられており、これは「ジャイアントインパクト仮説」と呼ばれています。同じような大衝突は珍しくなく、太陽系内では他にも冥王星の衛星のカロンを形成したり、天王星を横倒しにしたりと、地球以外の天体でも発生したと考えられています。しかし、いずれも太古の大衝突のため証拠がほとんど残されておらず、今のところ仮説の域を出ません。

太陽以外の恒星を観察すると、誕生直後の惑星系が見つかることがあります。他の惑星系を観察することは、過去の太陽系をタイムマシンで見に行くのと同じような状況であると言えるため、年代の若い惑星系の様子はしばしば興味深い観測対象となっています。もし惑星同士の衝突のような激しい現象があった場合、衝突に由来する塵の変化を赤外線望遠鏡で観測できると考えられます。

例えばNASA(アメリカ航空宇宙局)の赤外線望遠鏡「スピッツァー」は、NGC 2354–ID8、HD 166191、ペルセウス座V488星で、顕著な塵の変化を観測しています。しかし、これらの観測結果が惑星同士の衝突によるものかどうかは決定的ではありませんでした。

■「ASASSN-21qj」で巨大惑星同士の衝突を捉える!

Kenworthy氏らの研究チームは、地球から「とも座」の方向に約1800光年離れた位置にある恒星「2MASS J08152329-3859234」に関するソーシャルメディア上の投稿をきっかけに、この恒星に注目しました。この恒星の明るさは2021年12月から約500日に渡って暗くなりましたが、それ以前の約1000日間は赤外線で2倍も明るくなっていました。

この明るさの変化は、超新星の検索を行う「超新星全天自動調査(ASASSN; All Sky Automated Survey for SuperNovae)」によって検出されたため、2MASS J08152329-3859234は「ASASSN-21qj」と再命名され、論文でもこちらの名が採用されています。

ASASSN-21qjの明るさの変化について、過去の観測データや暗くなった後に実施された追加の観測データを使用し分析を行ったところ、意外なことが判明しました。

まず、約500日もの間暗くなった理由は、巨大な塵の雲が恒星の光を遮ることによって発生したと考えられます。一方で、暗くなる前の約1000日間の明るい期間については、すぐに理由が判明しませんでした。しかし、観測データの分析から温度が1000K (約700℃) 程度であること、恒星の放射全体に対してかなりの割合(約4%)を占める光の量であることから、かなりの高エネルギー現象であることが徐々に明らかとなってきました。

【▲ 図2: 今回の研究により、ASASSN-21qjでは2つの巨大氷惑星が衝突し、大量の熱と塵の雲が発生するシナリオが起きた可能性が高いと突き止められました(Credit: Kenworthy, et al.)】

Kenworthy氏らはシミュレーション結果も組み合わせて分析を行った結果、約1000日間の赤外線放射は、惑星同士の衝突で発生した膨大な熱に由来すると結論付けました。観測結果をよく説明するのは、恒星から2~16天文単位(3億~24億km)の距離で地球の数倍~数十倍の2つの巨大氷惑星(天王星や海王星のような惑星)が衝突したというシナリオです。衝突によって膨大な熱が発生するだけでなく、衝突で生じた塵の雲は公転運動によって長く引き伸ばされるため、約1000日間の明るい期間と、その後に発生する約500日の暗い期間の両方をうまく説明することができます。特に約500日の暗い期間は明るさの変化が複雑であり、これは公転運動によって塵の雲が分断された結果として説明することができます。

■他の恒星での観測も注目

今回Kenworthy氏らが結論付けたシナリオが正しい場合、ASASSN-21qjでは誕生から3億年後に2つの巨大氷惑星が衝突したということになります。これは恒星の放射によって原始惑星系円盤の塵が消滅し、惑星同士が衝突しやすくなるという従来の予測と一致します。

ASASSN-21qjは、惑星同士が衝突するという惑星形成論で予測されていたできごとについて、初の詳細な観測事例となるかもしれません。衝突したASASSN-21qjの惑星の残骸の運命はよくわかっていませんが、おそらく塵の一部が再度集合し、小さな惑星やその周りを公転する衛星となるかもしれません。この段階の進行はかなり遅いため、ずっと観測し続けることはできないと思われます。しかし、他の恒星で同様の現象を観測すれば、別の段階のスナップショットを見ることができるでしょう。

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文/彩恵りり

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