プラバースを「スターにする」ためにラージャマウリ監督が描いた“神のごとき”主人公が躍動する『チャトラパティ』テレビ初放送

『チャトラパティ』

CS映画専門チャンネル ムービープラスで間もなく放映されるテルグ語映画『チャトラパティ』についてご紹介します。『バーフバリ』シリーズでコンビを組んだS.S.ラージャマウリ監督と主演のプラバースの初コラボレーションで、2005年公開の作品です。

※物語の内容に一部触れています。ご注意ください。

スリランカ引き揚げの不法移民の物語

スリランカ沿岸部にあるテルグ人漁民の集落に、母と二人の少年たちが暮らしていました。母は、長男のシヴァ(シヴァージー)が亡夫の先妻の息子であるにもかかわらず慈しみます。一方、血がつながっているのに自分は母から愛されていないと感じている弟のアショークは、彼を敵視しています。母はある時シヴァに、彼の名前の由来を説いて聞かせます。それは17世紀後半にマラーター王国を打ち立てたチャトラパティ・シヴァージーにちなんでおり、王の称号「チャトラパティ」とは「我が身を顧みずに民のために尽くす王」を意味するもので、彼もいつの日かチャトラパティになってほしいと。

その頃スリランカは内戦状態に陥り、シヴァの住む村は敵対的な勢力により他所者の烙印を押され、立ち退きを強いられます。身一つでボートで脱出する際の混乱の中で、シヴァは母と弟と生き別れになってしまいます。彼を憎むアショークは、シヴァが別のボートに乗ったことを知りながら、母に対しては彼が放火された家の中で焼け死んだと嘘をついて、彼女を悲嘆にくれさせます。

ボートでインドに向かい、アーンドラ・プラデーシュ州一番の港町であるヴァイザーグ(ヴィシャーカパトナム)に辿り着いたシヴァは、港湾を牛耳るマフィアのバージーラーオのもとで、他の少年たちと共に密輸の下働きなどをするようになります。

12年の歳月が流れ、青年となったシヴァは、やはりヴァイザーグに定住していたアショークと偶然に邂逅しますが、彼はアショークが分からず、アショークの方はシヴァが持っていた母の写真から、彼が異母兄であると知ります。アショークの彼への偏執的な憎しみは消えておらず、彼はシヴァと母が再会することがないようにと、あらゆる手段を講じます。

シヴァと共にスリランカから引き上げてきた人々は、パスポートを持たない不法移民であるため、バージーラーオとその手下たちから搾取され、我慢に我慢を重ねてきました。しかし、手下のひとりカトラージの専横を見かねたシヴァは立ち上がって彼を倒し、その報復にやって来たバージーラーオもまた凄絶な死闘の末に殺害します。こうして港湾の人々の救世主となったシヴァは、チャトラパティの名前で呼ばれることになり、さらなる試練に立ち向かっていきます。

ただプラバースをマス・ヒーローとするために

本作は、ラージャマウリ監督にとってはデビューから4作目、プラバースにとってはデビューから6作目の作品となります。ラージャマウリはまだ今日のようなカリスマではなかったものの、それまでの3作すべてがヒットしており、気鋭の若手でした。プラバースの方は、『Varsham』(2004年、日本未公開)がヒットを記録したものの、それ以外は今一つで、突破口を求めている状態でした。

ラージャマウリは後から振り返り、「プラバースのもつマス・ヒーローとしてのポテンシャルはまだ充分に生かされていなかったので、それを確立させることを第一に考えた」と述べています。つまり、これはマッチョなアクションを最大の見せ場として、民衆からの支持を背に屹立する神のごとき主人公像を打ち立てるということと解釈できます。

こうした意図から、本作はラージャマウリ作品にしては珍しい、マス映画の定式に則った作り方がされています。成長した主人公が画面に登場してすぐに、敵対する密輸業者の小ボスに「こいつが死ぬはずがない。なんたってヒーローだからな」と言わせて、フレームをしっかりと組みます。そしてこの小ボスを皮切りに、グレードアップして登場する敵たちを次々と倒しながら、ラスボスと対決するクライマックスへと物語は進みます。

歌は7曲もあり、そのうち2曲にはアイテムダンサーが登場してセクシーな魅力を振り撒きます。ヴェーヌ・マーダヴによるコメディー・トラックは本筋とは無関係に弾け、お間抜けな馴れ初めで登場するヒロインですら、コメディアンに数えてもいいくらいです。そしてガンジス川の聖水を入れた壺やシヴァ神の法螺貝をかたどったペンダントなど、宗教的なニュアンスを持つ小道具が、「運命に選ばれたヒーロー」をドラマチックに盛り立てます。

荘重なテーマ曲はゲームから?

こうした宗教的な箔付けは、オープニングロールからクライマックスまで繰り返され、主人公を叙事詩<マハーバーラタ>のアルジュナとビーマにたとえるテーマソングにも見て取れます。

この「Agni Skalan」という曲は、前年に発売されて世界的に流通した「ミストIV:リヴェレーション」というゲームのメインテーマ曲に重度に影響されていることが話題になりました。

この頃はこうした“インスパイア”はごく普通のことで、これに酷似した旋律は、7年後に公開のラーナー・ダッグバーティ主演『Krishnam Vande Jagadgurum』(2012年、日本未公開)の「Jaruguthunnadi」という楽曲にも見られます。いずれもヒンドゥー教の世界観を色濃く映すこの2曲、聞き比べてみるのも面白いです。

文:安宅直子

『チャトラパティ』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「ハマる!インド映画」で2023年10月放送

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