身の丈超えた受注、背景か 3連休向け、平日の3倍製造 吉田屋駅弁食中毒/青森・八戸

八戸駅近くにある吉田屋本社=八戸市一番町

 「多くの注文をいただき、それに対するリスクを深く考えず、マニュアルもなかった」-。全国に被害が及んだ駅弁による集団食中毒で、青森県八戸市の駅弁製造・販売業「吉田屋」の吉田広城社長(55)は21日の記者会見で、自身の認識不足を反省した。繁忙期に同社こだわりの米飯を外部業者に委託してまで大量の駅弁を製造したことが被害拡大につながったとみられ、関係者は「身の丈に合った経営をせず無理したことが原因では」と指摘している。

 同社は1892年創業の老舗。1961年に本格販売を始めた「八戸小唄寿司」が関東の百貨店で開かれた全国駅弁大会で人気を博し、知名度を高めた。吉田氏は約25年前に6代目社長に就任し、商品開発と販路拡大を積極的に進めて事業を拡大していった。

 同社は3連休に向けた9月15、16日、平日の3倍の1日約1万8千個の駅弁を製造。複数の商社を通じ全国のスーパーの催事やイベントで販売され、その駅弁を食べた521人が体調不良を訴えた。

 吉田社長などの説明によると、同社は1日最大2万5千個の駅弁を製造する能力があるが、酢飯やしょうゆベースの「茶飯」など多様なご飯の商品を作る場合は機械の洗浄など手間と時間が発生。製造時間全体の短縮や、従業員の残業時間も考慮し、今回は2022年から十数回委託している岩手県の外部業者に米飯の製造を頼んだという。

 21日の会見で吉田社長は「1万8千個製造するリスクを理解せず、売り上げの方を重視したことは私の甘さ。従業員にも無理をさせすぎた」と悔やんだ。

 駅弁愛好家の堀田勝彦さん(埼玉県所沢市)によると、鉄道車両の窓が開かなくなり、新幹線に代表される乗車時間の短縮で、車内で駅弁を食べる習慣が減少。駅弁業者がそれをカバーするのが、全国の百貨店やスーパーで開かれる催事での販売だという。

 その代表業者が吉田屋。「催事での欠品は自社の売り上げ減少や信用問題にもかかわり、駅弁業者にとっては絶対に避けなければならない。今回の食中毒はメインの米飯を外部に作らせるなど、自社の能力を超えて受注し、『突貫工事』で回そうとしたのが遠因では」と指摘する。

 青森市のある食品加工会社幹部は「人ごとではない。当社も過去に多くの注文を受け何とか応えたいと思ったこともあったが、自社の能力を超えると品質管理の手抜きなどどうしても問題が出る。身の丈に合った経営が大事だ」と強調。「吉田屋は今回を教訓に二度と同様の事態を起こさないよう努力してほしい」と語った。

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