<レスリング>【2023年全日本大学グレコローマン選手権・特集】「花咲」の“初代インターハイ王者”が開花、飛躍の転機につなげられるか…63kg級・萩原大和(拓大)

 

  2023年全日本大学グレコローマン選手権の63kg級は、8月の全日本学生選手権2位の萩原大和(拓大)が優勝。リベンジすべき相手(丸山千恵蔵=日体大)はU23世界選手権とのからみで出場していなかったが、最終学年で大学王者のタイトルを手にし、次のステップ(全日本選手権)に挑むことになった。

 決勝の吉永光輝(近大)戦は、第2ピリオド、ローリングやそり投げを一気に仕掛けて鮮やかなテクニカルスペリオリティ勝ち。「パッシブを先に取って、グラウンドで極め切ることを練習してきました。チャンスをものにできて、ホッとしています」と、学生タイトル初戴冠の感想。

▲大学王者に輝いた萩原大和、全日本選手権での優勝を目指す=撮影・矢吹建夫

 宿敵がいなかったことで物足りなさはあるかもしれないが、どこに急成長の強敵がいるか分からないのが勝負の世界。事実、準決勝は昨年秋季の新人戦王者の三谷剛大(育英大)に手こずり、7-7での辛勝で、簡単に手にできた優勝ではなかった。ライバル不在だからといって、価値が落ちるものではない。

 萩原は「やってきたことを信じて臨みました。グラウンドに自信があります。グラウンド技でポイントを取れたことが優勝につながりました」と、培ってきたことを出し切っての優勝だったことを強調。強化の方向性が正しいことを感じている様子だ。

 自分の実力を発揮する本番は全日本選手権との思いがあり、「そこへ向けて頑張りたいと思います」と、2021年の秋季新人戦から5連敗中の丸山へのリベンジを含め、気持ちを新たにした。

▲決勝は投げ技がさえて圧勝=撮影・矢吹建夫

同期が1年生のときから活躍し、「焦りも悔しさもあった」

 高校レスリング界の雄に成長している埼玉・花咲徳栄高校の出身。2019年にインターハイ国体(フリースタイル)で優勝し、全国高校生グレコローマン選手権でも2位という好成績を残した。特筆すべきは、同部が手がけているキッズクラブ「花咲Jr.クラブ」出身選手でインターハイ王者に輝いた最初の選手ということ。

▲2019年インターハイで“純花咲選手”として初めて優勝した萩原大和。対戦相手は今大会の72kg級を制した矢部晴翔(日体大=当時山梨・韮崎工高)=撮影・矢吹建夫

 “チーム花咲”の秘蔵っ子であり、同チームの一貫強化を実らせた選手。大きな期待をもって拓大に進んだ。しかし、だれもが同じ条件と言えばそれまでだが、コロナ禍で勢いがストップ。塩谷優竹下航生の同期生が1年生大学王者に輝き、世界に飛躍するのとは裏腹に、チャンピオンに名を連ねることができなかった。

 「同期が1年生のときから活躍して、自分はタイトルに恵まれない…。焦りもありましたし、悔しい、という気持ちもありました」

 そんな思いをすべてぶつけ、払拭した戴冠。2ヶ月後の全日本選手権へ向けての大きな起爆剤になることだろう。

2028年ロサンゼルス・オリンピックを目指すが、今年は63kg級での日本一が目標

 卒業後はレスリングに専念できる環境に進むことがほぼ決まっており、オリンピック階級へ移って2028年ロサンゼルス・オリンピック出場という目標を視野に入れている。「スタンド戦での得点能力が欠けているので、しっかり補いたい」と話し、来年以降の思いを口にする。まずは全日本選手権に全力で挑む。

▲8月の全日本学生選手権決勝、丸山千恵蔵(日体大=赤)とは互角の闘いを展開。12月、大学王者としてリベンジに挑む=撮影・保高幸子

 高谷惣亮監督は「今の4年生は、コロナの影響を一番受けた世代です。1年生、2年生のときに数多くの試合を経験できなかったのは痛かった」と不遇を残念がる。萩原はそんな中でも「まじめに練習していました。自分が指示を出した以外の練習もしっかりこなしていた。結果が出ないのがもどかしかったです」と振り返る。

 「これをきっかけにして、続く大会の勝利につながっていくものです」と、優勝が大きな転機になることも口にし、「まず全日本選手権。優勝を期待しています」と話した。

 学生王者の丸山に分が悪かったことについては、「この前(8月末)のインカレ決勝では、負けましたが五分の内容。どっちが勝ってもおかしくなかった。初対戦のときから実力差は縮まっています」と話し、一気に全日本王者に駆け上がることを期待した。

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