平成芭蕉の「令和の旅指南」⑤ 悠久の時が流れる石の島「小豆島」

日本遺産に認定された石の島「小豆島」

小豆島の「エンジェルロード」

私が学生時代に海水浴でしばしば訪れていた小豆島(香川県土庄町・小豆島町)は、香川県丸亀市と岡山県笠岡市の2市2町による『知ってる!?悠久の時が流れる石の島~海を越え、日本の礎を築いた せとうち備讃諸島~』と題した「石」の物語で、令和時代の日本遺産第1号に認定されました。

皇居正門の石橋や大坂城の石垣など日本を代表する歴史建造物は、小豆島をはじめとする備讃諸島の石なくして語ることはできません。古代より西日本における海上交通の大動脈であった瀬戸内海の備讃諸島は、大小無数の島々が典型的な多島海を形成し、島には平地が少なく、山肌には大小の石が顔を出し、小豆島の「寒霞渓」のように花崗岩の巨石がむき出しとなっており、独特の景観を見せています。

かつては、小豆島の港に着くと二葉あき子さんの「夢も楽しいそよ風に みどり明るいオリーブの」で始まる『オリーブの歌』が流れ、小豆島観光は土庄港に立つ郷土出身の壷井栄原作『二十四の瞳』のブロンズ像(平和の群像)の話から始まりましたが、今は「縁結び、幸せのスポット」として天使の散歩道(エンジェルロード)が人気を呼んでいるようです。

応神天皇ゆかりの富丘八幡神社と「宝生院のシンパク」

富岡八幡神社の「石の桟敷」

私は、小豆島の日本遺産ストーリーを正しく理解するには、応神天皇に関する歴史も知っておいた方が良いと考え、まずは富丘八幡神社に参拝し、応神天皇お手植えの「宝生院のシンパク」も見学しました。応神天皇は日本書紀によると、淡路島に狩りに出られ、ついで吉備の国、さらに小豆島に遊び給い、吉備の葦守(あしもり)八幡宮に入られたと言われており、島内のあちこちに応神天皇に関する伝説が残されています。

「石の桟敷」で有名な塩土山(富丘)の富丘八幡神社は、応神天皇巡幸の跡地と言われていますが、応神天皇は、神功皇后が難船して漂着した小豆島に、後年母を偲んで行幸されているのです。応神天皇は、八幡神として信仰の対象とされ、宇佐八幡宮(大分県)を発祥として全国各地に広まり、小豆島の富丘八幡神社のように「八幡様」として親しまれています。

また、宝生院のシンパク(真柏)は、応神天皇お手植えのイブキの木と言われ、国の特別天然記念物に指定されており、樹齢は1600年以上と推定される由緒ある木です。通常は大木の付近には泉や川といった水源があるのですが、このシンパクは境内の高台にあり、どこから水分を得ているのか不思議な霊験を感じる場所です。

天空のパワースポット「重ね岩」と丁場

小豆島の石の歴史については、道の駅「大坂城残石記念公園」の展示資料から知ることができますが、この公園は島に残された巨石の保存と活用を図るために整備されました。小豆島では、大阪城の石垣用に切り出されながら、使用されなかった石を「残念石」と呼んでおり、その「残念石」の約400年の歴史が凝縮されているのが丁場と呼ばれる石切場です。

私はその丁場の中でも、迫力のある「重ね岩(かさねいわ)」と「天狗岩丁場」を訪ねましたが、特に今にも落ちそうな「重ね岩」は、小豆島のランドマークの1つで「小瀬の大黒岩」とも呼ばれており、まさしく天空のパワースポットです。

また、「岩ケ谷の天狗岩」は巨大な花崗岩の未風化核石(コアストーン)からなる種石(17m×4.7m×10m)で、その周辺の残石には矢穴と黒田藩を示す刻印が残っています。これらの石を眺めていると、石が語りかけてくるようで、表面に刻まれた溝と微妙な石の表情が私のあらゆる想いを受け止めてくれるかのように感じます。

小豆島における日本遺産の旅では、島民は今も石と共に生活しているように感じました。

最盛期には、石切から加工、商い、出荷、海運までの石材産業が島内で完結し、地方からも多くの職人が来島し、一大文化拠点になっていたと推察できます。

石と人との交わりを感じる「石の島」

私は今、縄文時代について研究していますが、石と人との交わりは、広く深いものがあります。矢じりや石斧の石器時代から、今現在に至るまで、石は人の暮らしに直接的な有用性をもたらす資材として、人に動かされてきました。

その代表的な石としては黒曜石やサヌカイトを連想しますが、小豆島の各地に見られる巨石の表情は島民の精神文化と結びつき、「西ノ滝」などの岩肌をくり抜いた山岳霊場では、そのおかげにあやかろうと今日も多くの人が参拝に訪れています。

私は、小豆島をはじめとする備讃諸島が「石の島」として日本遺産認定を受けた今、2市2町の関係各位の連携によって、石の文化を通じたにぎわいを再度取り戻してほしいと思っています。この「石の島」に関するストーリーは、自然界の石・庭石・石の建造物・石碑など、旅を促すと同時に旅の想い出も提供してくれる「石」を見つめ直し、「人と石との出会い」について再考する機会を与えてくれる日本遺産なのです。

寄稿者 平成芭蕉こと黒田尚嗣(くろだ・なおつぐ)クラブツーリズム㈱テーマ旅行部顧問/(一社)日本遺産普及協会代表監事

悠久の時が流れる石の島「小豆島重岩」

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