トヨタの地元で勝利を! オジエがラリージャパン出場を示唆「日本のファンとの再会を楽しみにしている」

 10月26~29日にドイツ、オーストリア、チェコの三カ国を跨いで開催される初めての試みとなるセントラル・ヨーロピアン・ラリー(CER)。2023年のWRC世界ラリー選手権において、4月に行われた第4戦クロアチア以来、8戦ぶりに行われるターマック(舗装路)イベントは、ドイツにWRCが3年ぶりにカムバックするとともに隣国オーストリアでは実に50年ぶり、そしてチェコで初開催となることから高い注目を集めている新ラウンドだ。

 このCERの開催を目前に控え、ADACドイツ自動車連盟の所在するミュンヘン市内の総合自動車施設、モーターワールド・ミュンヘンにてTOYOTA GAZOO Racingワールドラリーチーム(TGR-WRT)に所属するセバスチャン・オジエを迎えての記者会見が開催された。会見後、通算8度のワールドチャンピオンであるオジエに近況などを聞いた。

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――2021年限りでWRCの“フル参戦ドライバー”からは引退。昨年に引き続き今季2023年もTGR-WRTに所属し、スポット参戦ながらモンテカルロ、メキシコ、ケニアで優勝するなど、8度のチャンピオンの貫禄でチームに非常に貢献されていますね。
セバスチャン・オジエ(SO):「長年ラリーで世界を飛び回り、いざ引退が目の前に迫っているとしても、じっと家にいることはできなかった(笑)」

SO:「いままでさまざまなカテゴリのレースにもチャレンジしたけれど、ラリーほど素晴らしいものは他にないと実感している。9度目のチャンピオンになることはないけれど、TGR-WRTのタイトル獲得のために少しでもポイントを多く重ねてサポートしたいと願っている」

――いまも変わらず大人気で強いオジエ選手ですが、あなたがフルタイムドライバーでなくなったことは、ファンにとっては少し残念でもありますね。
SO:「ラリードライバーとして、まだまだやっていけるのかもしれないが、僕自身の決断でこの道を選んだ。世界中を旅し、数多くの仲間たちと素晴らしい経験をさせて貰ったし、幸運なことに数多くのタイトルを獲得することができた。その一方で家族との時間を大切にしたい、という強い気持ちが高まった。ひとり息子はまだ幼く、彼の成長を妻と一緒に見守りたいんだ」

SO:「2年前に妻の故郷であるドイツのミュンヘンへ引っ越し、和やかな日々を送っている。だから、トヨタから与えて貰っている数ラウンドの出場の機会には、チームの勝利のために貢献したいと強く願いながらステアリングを担っているし、それが僕の歓びでもあり、幸せでもある。とてもエンジョイしながら走らせて貰っているよ」

――シトロエンやフォルクスワーゲン、Mスポーツ・フォードとさまざまなチームを経験されていますが、日本のメーカーのチームであるTGR-WRTの雰囲気はいかがですか?
SO:「とても素晴らしい! 彼らとの仕事はとても楽しいし、なんと言っても僕のために用意してくれるマシンのパフォーマンスは完璧だ。もちろん、世界選手権のトップチームに所属するということは、ものすごいプレッシャーでもあるし、僕個人だけではなく、僕の後ろにはレースを迎えるにあたり、とんでもない数のスタッフが従ことしてくれていることを考えなければならない」

SO:「チーム全員の努力や期待を決して裏切ってはいけないんだ。しかし、トヨタの素晴らしいところは、それらを感じさせない気遣いがある雰囲気だと思っている。ドライバーとスタッフの距離が近く、お互いにリラックスして接することのできる雰囲気がとくに気に入っているよ。もちろん、全戦に参戦し、チャンピオンタイトルを争う立場でなくなったというのもあるかと思うが、それを抜きにしてもとても良いチームだと実感している」

セントラル・ヨーロピアン・ラリーの開催を前に、8度のWRCワールドチャンピオンであるセバスチャン・オジエ(中央)を招いた記者会見がドイツ、ミュンヘンの総合自動車施設『モーターワールド』で行われた。
セバスチャン・オジエ/ヴァンサン・ランデ組(トヨタGRヤリス・ラリー1)  2023年WRC第4戦クロアチア・ラリー

■WRC初開催イベントとなるCERへの意気込み

――セントラル・ヨーロピアン・ラリーは初の試みとなります。
SO:「全ドライバーにとって初めてのコースとなるので、全員が条件は同じだが、なにが待ち構えているのかワクワクしている。ドライバーは事前に自身がコースの下見をすることは禁止されているが、トヨタからコースを撮影したビデオを用意して貰っており、それを何度も見てイメージトレーニングと確認をして準備を重ねている。部分的に非常に狭いストレートや短くタイトなカーブが多々あり、とてもやりがいを感じるコースだと思った」

SO:「ラリーは僕ひとりの力で勝つことはできない。コドライバー(ヴァンサン・ランデ)と協力しながら、より速く正確にドライブし、誰よりも早くゴールをしなければならないのでしっかり準備を重ねて、初めてのラリーに挑みたい」

――チェコでテストがあったそうですが、どんな印象でしたか?
SO:「ちょうど先週にチェコでテストが行われたのだが、テストデーにもかかわらず非常に多くのファンが観にきていて驚いた。実際のラリーを初めて観る人々も多かったようで、その迫力を楽しんでもらえたようだ」

SO:「本戦もドイツ、オーストリア、チェコの地元の皆に素晴らしい走りとWRCの魅力を伝えることができるよう、優勝を狙って頑張りたい。ラリーの週末をいまからとても楽しみにしている」

今季2023年は日本人ラリードライバーの勝田貴元とともに3台目のワークスカー(トヨタGRヤリス・ラリー1)をシェアして、複数のラウンドにスポット参戦しているセバスチャン・オジエ

■3台目のGRヤリス・ラリー1をシェアする勝田貴元をどう見ている?

――CERの後は、日本ラウンドで最終戦を迎えます。
SO:「TGR-WRTにとっても、僕にとっても非常に重要なラウンドだ。去年僕は実際に走ったが、熱狂的なファンや地元の方の雰囲気がとにかく非常に素晴らしくて感動した。残念ながら勝つことはできなかったが、それでも皆さんの歓迎や応援は僕たちに大きな感動と勇気、そして熱い思いを残してくれた。だから、今年はトヨタの地元となるレースでは、日本の皆さんのために何としてでも全力で勝利を掴みにいかなければならないとチーム一同意気込んでいる」

――日本のファンは世界中で一番熱狂的で有名ですよね。
SO:「日本のファンのすごいところは、選手をとても尊重し、本当に心から応援し、サポートしてくれるところなんだ。なんと僕が若手のころから今も変わらず、キャリアのすべてにわたって、ずっと同じファンの方たちが僕を応援してくれていることなんだ。これには本当に感動している。また日本のファンと再会できる日を心から楽しみにしているよ」

――ところで、TGR-WRTでめきめきと頭角を現している日本人ドライバーの勝田貴元選手ですが、大ベテランのあなたから見てどう思いますか?
SO:「WRCラウンドには日本が復帰したこともあり、母国の選手の活躍はファンにとってもチームにとっても大切なことだと感じている。TGRラリーチャレンジプログラム(現TGR WRCチャレンジプログラム)の育成ドライバーからレギュラードライバーのシートを自身で勝ち取った、ポテンシャルを大きく秘めた期待の選手だ」

SO:「モータースポーツに限らず、どんな種目のスポーツでも勝つということがどれだけ厳しく難しいことか……僕たち選手全員が毎日のように痛感していることでもあり、まだ若い彼にとっては思いどおりにいかないことも多く、悔しい思いも多々あるだろう。だけど、彼は素晴らしい人間性を持ち、同じTGR-WRTのチームメイト、そして友人として彼の性格を僕はとても気に入っているし、僕たちの関係はとても良好だ。それだけに、彼の今後の活躍と成功を心より願ってやまない」

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 DTMドイツ・ツーリングカー選手権やサッカーのUEFAチャンピオンズリーグをはじめ、さまざまなスポーツのレポータを務める夫人のアンドレア・カイザーも愛犬を連れて記者会見場立ち寄った。この日の会見には2021年にモンツァで優勝した際の実車とトロフィー等が展示されたとあり、会見後には夫人に車内の設備について説明するなど、仲睦まじい様子が見られた。

会見後には妻アンドレア・カイザーとの仲睦まじい様子も見られた
自身8度目のタイトルを獲得した際のマシン、トヨタ・ヤリスWRC(2021)の車内について夫人に説明するセバスチャン・オジエ

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