豪雨対策に農業ダム 事前放流、2年間で延べ35基台 「八ツ場」1基分の効果

全国各地で豪雨災害が相次ぐ中、農業用ダムを河川の氾濫対策に活用する動きが広がっている。農水省によると、大雨が想定される際に増水した川の水をため込むために、事前放流をした農業用ダムは2021、22年度の2年間で延べ35基に上った。22年9月の台風14号の際には、全国の農業用ダムで八ツ場ダム(群馬県長野原町)1基分を超える効果を上げるなど、脅威を増す豪雨の対策に一役買っている。

ダムは①増水時に水を蓄えて河川の氾濫を防ぐ「治水ダム」②ためた水を農業や発電向けに供給する「利水ダム」③両方の機能を持つ「多目的ダム」──に分かれる。全国の1、2級水系には利水ダムが907基あり、うち農業用ダムは46%(413基)を占める。

ダムに治水機能を持たせるには、増水時に水をため込む空き容量を確保する必要がある。ただ、利水ダムに空きを設けると、本来の目的である水の供給に支障が出かねない。そのため、利水ダムが治水目的で使われることはほとんどなかった。

だが、豪雨災害が相次ぐ中、政府は19年、利水ダムを治水目的で使う方針を決定。大雨が想定される原則3日前から事前放流を行うことを決めた。1級水系では20年度から、2級水系では21年度から基本的に全ての利水ダムで運用が始まった。

同省によると21、22年度、事前放流をした農業用ダムは延べ35基に上った。大雨が想定されたが、夏場などで既に水位が下がっていて、事前放流が必要なかった農業用ダムは延べ100基となった。他にも、水の低需要期に事前に水位を下げておき、豪雨対策につながった農業用ダムが延べ39基あった。

特に22年の台風14号では、全国62基の農業用ダムでこれらの対策を実施。増水した川の水を蓄える能力(洪水調節容量)を約7000万立方メートル確保した。全国の1、2級水系にある治水機能を持つダムの洪水調節容量の合計の1・3%、総事業費5000億円超だった八ツ場ダムの洪水調節容量の1・1倍に当たる。

同省は「農業用水の供給に影響が出ないように細心の注意を払いながら、農業用ダムを防災・減災に生かしていきたい」(水資源課)と展望する。 (北坂公紀)

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