【特別寄稿】パチンコ産業の歴史⑲ パチンコ新スペックと、禁断のゲーム性「AT」誕生前夜(WEB版)/鈴木政博

創刊60周年記念にあたり、業界の歴史を振り返る意味において「パチンコ産業の歴史シリーズ」を再掲載しています。※この原稿は2011年12月号に掲載していた「パチンコ産業の歴史⑲」を一部加筆・修正したものです。

1. パチンコ5回リミッター解除と同時に生まれた新スペックたち
1999年1月13日付の日工組内規変更で、ついに5回リミッターが解除されたパチンコ機。この時には、大当たり確率を320分の1より甘くする場合に限って賞球5&15を可能(それまでは6&15)とし、他に確変中確率の10倍アップOKなども合わせて実施。その後に発売された新内規対応機である三洋物産製「CR海物語3R」の空前の大ヒットにより、パチンコ機のスペックは「大当たり確率315.5分の1、確変50%、5&15、15R、リミッター無し」がメインスペックとなっていく。

また同年には、新たなスペックも発売されている。一つは前号でも紹介した藤商事製「CR妖怪演芸FN」。こちらは初の確変突入率3分の2の機種として登場したが、内規上出玉1,500個で8回リミッター搭載という点がファンに受け入れられず大ヒットには至らなかった。しかしながら、現在市場の確変高継続率機へと繋がるチャレンジ機であり、今改めて考えてみると注目すべき機種であるといえる。

もう一つは京楽産業製「CRジャングルパークXLTD」だ。この機種は「初の回数切り確変機」として登場したもので、現在「ST機」と呼ばれるジャンルのルーツと言える機械だ。大当たり確率を239.5分の1と大幅に甘くした上で、確率変動となっても「20回転で確変が終了する」という斬新なスペックだったが、当時の内規では確変率は50%が上限で「100%確変」ができなかったため、確変突入率が2分の1なのに回数切りという点がファンに支持されず、こちらもヒットには至らなかった。その後SANKYOからも「CRフィーバーゴーストGP」などのST機が発売されるものの、やはり確変突入率が2分の1でST機という点は変わらず、支持されたとは言い難い結果で終わっている。ちなみにどちらの機種も「次回まで確変」バージョンの機種については市場でヒットを記録しているが、これも正確には次回までではなく実際には「10,000回転まで確変」となっていた。これはスペック違いの機種として複数機種を型式試験に持ち込む際に「次回まで」と「回数切り」の2種類よりも、「20回転まで」と「10,000回転まで」とした方が効率が良いという理由だったが、当時はこのST機への模索がなされていた最中であったため、このような「確変10,000回転まで」という機種が各社から多数登場することとなる。

後に市場で大ヒットする「ST仕様」がこの時期に生まれ、どちらも内規上の理由で不遇となっているという事実が興味深い。

京楽産業製
「CRジャングルパークXLTD」

SANKYO製
「CRフィーバーゴーストGP」

2. パチンコ5回リミッター解除後も衰え知らずのパチスロ
しかし、5回リミッター解除でパチンコの人気低迷が底打ち感を見せる中においても、パチンコ市場が急速に拡大することはなかった。なぜなら、パチスロ人気がここからさらに伸び続けていくからだ。元々この時期までパチスロが飛躍的にジャンルを拡大してきた理由の一つとしては、1997年から導入された保通協のパチスロ機申請時においての「質問書方式」の開始が大きい。この質問書のやり取りの中で各社が試行錯誤し、多様なゲーム性の機械を開発し、さらにそれらが適合したことを受けて日電協の内規が改正される、という流れでCT機、大量獲得機、7ライン機などが生まれてきた。しかしここで、さらなる革新が起こる。その最大の要因はサブ基板搭載が可能になったことだ。これは先に液晶化が進んだパチンコにおいて、メイン基板だけではROM容量が限界になる中、液晶演出や音声、ランプなどの制御は別に設けた「サブ基板」で行い、大当たり抽選やアタッカー開放など出玉に関係する部分のみをメイン基板で行う、というもので、結果として演出面のクオリティ向上に大きく貢献した。同じことをパチスロでも行うことで、パチスロにも液晶搭載を可能とするだけでなく、サブ化により空いたメインの容量をリール制御などに割くことができるようになり、さらに制御や出目なども複雑に作り込むことができるようになる。

しかし、パチスロにおいては「演出面」だけでない要素が秘められていた。それは「メイン基板とサブ基板の双方向情報送信は禁止」とされているものの「メイン基板からサブ基板への一方向情報送信はOK」という部分であり、ここが大きなカギを握っていた。

サブ基板搭載の液晶搭載機が発売される半年前。1999年7月に発売された山佐製「シーマスターX」には、「テトラリール」と呼ばれる演出用の4つ目のリールが搭載された。また同年12月に発売されたアルゼ(現ユニバーサルエンターテインメント)製「大花火」にも、「鉢巻きリール」と呼ばれる演出リールが上部に搭載されていた。

ポイントは「レバーON時に成立している小役を告知する機能」があった点だ。例えばレバーを叩いた瞬間に「ベル」などの告知を行い、もしベルが揃わなければボーナス、といった法則崩れのゲーム性だ。もっとも当時は、ただ単に「小役orボーナス」という演出面で使用されているに過ぎなかった。しかしサブ基板搭載後、この「メイン基板からサブ基板への一方向情報送信OK」が可能とした「小役告知」という機能こそが、後に「AT(アシストタイム)機」というモンスターを生み出すこととなる。

山佐製
「シーマスターX」

アルゼ(現ユニバーサルエンターテインメント)製
「大花火」

(以下、次号)

■プロフィール
鈴木 政博
≪株式会社 遊技産業研究所 代表取締役≫立命館大学卒業後、ホール経営企業の管理部、コンサル会社へ経て2002年㈱遊技産業研究所に入社。遊技機の新機種情報収集及び分析、遊技機の開発コンサルの他、TV出演・雑誌連載など多数。

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