世間の風

 室町幕府を開いた足利尊氏は、なぜか担がれる人だったという。諫早市出身の垣根涼介さんは、直木賞作「極楽征夷大将軍」の中で、尊氏は人々の願望や期待などで形作られる「世間」そのものだったから支持されたと描いていた▲となると、この方はいまいち、世間となじめていないのだろうか。共同通信社が今月実施した世論調査で、岸田内閣の支持率は9月の調査時より7.5ポイント下げて32.3%と低迷した▲内閣支持率が30%を下回ると、政権維持に苦しむため危険水域とされているが、その境界近くにいるわけだ▲避けて通れない難題だった東京電力福島第1原発の処理水放出にこぎ着け、旧統一教会に対する解散命令請求を申し立てた。少子化対策、経済対策、防衛外交政策にも熱心。減税も検討中。首相としては「なんで」という気持ちなのかもしれない▲だが、数字は正直だ。マイナンバーカードを巡る問題が尾を引いているのか、実感できない物価高対策に不満が募っているのか。国民に何やら不信が積もりつつあるようだ▲その首相も応援に訪れた激戦の衆院長崎4区補選は22日投開票が行われ、自民新人の金子容三さんが当選を果たした。選挙戦では厳しい“世間”の風もたっぷり身に受けたはずだ。それをしっかりと国政の場に届けてほしい。(屋)

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