テデスキ・トラックス・バンドのスーザンが来日公演中に語ったバンドと自身のソロキャリア

Photo by Masanori Doi

2019年以来、4年ぶりの来日公演で4日間の東京公演を終えたテデスキ・トラックス・バンド(Tedeschi Trucks Band)。今回ヴォーカルのみならず、ギター・パフォーマンスにおいても観客を圧倒したスーザン・テデスキ(Susan Tedeschi)への佐藤英輔さんによるインタヴューが初日公演の翌日に実現した。

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セット・リストを決めるのはデレクの担当

全12人による、テデスキ・トラックス・バンドの来日公演は素晴らしかった。ブルースを根に置き、ジャズ、R&B、ロックへと伸縮自在に集団表現が瑞々しく流れる様はまさしく“夢のバンド”と言いたくなるもの。そして、そこには自然体と言うしかないユニティの感覚があったのだから、グっと来てしまう。

その東京公演初日の翌日に、夫のギタリストであるデレク・トラックスとともにフロントに立つシンガー/ギタリストであるスーザン・テデスキにインタヴューした。そうしたら、これがなんとも笑顔にあふれた、フランクな好人物。その様は皮膚感覚で、この人は幸せな人生を歩んでいると感じさせるものだった。

「やはり新鮮な気持ちでショウができるようにと、セット・リストを替えているわね。それを決めるのは、主人の担当なの。デレクがやりたいように決めているわ」

コロナ禍にじっくり録られた新作『I Am The Moon』のDisc1の曲を全部披露したり、デレク&ザ・ドミノスやドクター・ジョン曲のカヴァーをやったり、各人のソロがアピールされる場面もあったり。そうしたなか、面々が一番ブルージーにせまったのが、スーザン・テデスキの1998年作『Just Won’t Burn』に収録された彼女自作のタイトル・トラックだった。

「デレクもなるべく私の曲を入れてくれるようにはしてくれている。私の曲をもっと入れてと、言っているの(笑)」

なるほど、その『Just Won’t Burn』はちょうど発売25周年記念スペシャル・エディションが改め今年リリースされた。そこには新たに収録曲の別テイクや、同作に入っている「Looking for Answers」や件の「Just Won’t Burn」のテデスキ・トラックス・バンドによる2022年10月に録られたライヴ・ヴァージョンも収められている。

「ええ、その2曲はここのところのバンドのレパートリーになっていて結構やっているわね。あと(『Just Won’t Burn』に入っている)「It Hurt So Bad」と「Angel From Montgomery」もたまにバンドでやっているわ」

25周年となった『Just Won’t Burn』

そう、彼女の旧作『Just Won’t Burn』はスーザンの過去のリーダー作ではあるが、しっかりと今のテデスキ・トラックス・バンド表現にも受け継がれている。ゆえに、今回スペシャル・エディションが組まれることにも合点が行く。ちなみに、同作は当時のブルース系のアルバムとしては破格のセールス(50万枚とも言われる)を記録した。

「当然のことながら思い入れのある作品よね。『Just Won’t Burn』は私にとって2作目であり、ちゃんとしたレーベルから出された初のアルバムで、私のキャリアの転機になったすごく大事なもの。今聞いてもいい作品だと思えるし、現在でも通用する仕上がりだと思っているわ。そして、そんな作品を25年たった今でも楽しんでくれる人がいるというのはすごく幸せだと思う。また、このアルバムは若い女性アーティストたちに自分の殻を破り、ギターを手にして曲を作ろうと思わせるきっかけを与えるものになったということに誇りを持っているわ」

ところで、このジャケット・カヴァーに写っている緑色のギターだが、なんと今回のテデスキ・トラックス・バンドの東京公演でも彼女はこれを弾いていた。

「(ジャケットに写っている)シールのようなものは磁石でくっつくやつをボディに貼ったの。冷蔵庫に貼るようなやつね。そして、今はその後に私が共演した人たちのサインが書かれている。B.B.キング、バディ・ガイ、ジミー・ヴォーン、ハービー・ハンコック、リトル・ミルトン、クリス・クリストファーソン、ロン・ウッド……」

その後のソロ・キャリア

『Just Won’t Burn』をプロデュースしたは、シンガーソングラターでもあるトム・ハムブリッジ。彼はバディ・ガイやジョニーウィンターなどの大御所ブルース・マンのアルバムもプロデュースしている。

「このレコードを作った後に、トムはバディ・ガイのプロデュースをするようになったのよね。彼はドラマーでもあり、ジョン・リー・フッカーとかゲイトマウス・ブラウンとかともやっている」

彼女はヴァーヴ・フォアキャストから『Hope and Desire 』(2005年)や『Back to the River』(2008年)というリーダー作も出している。それらを聞くとブルースを根に置きつつ、R&Bやゴスペルやジャジーなものまでどんどん持ち味が広がっており、アーティストとしてスケールが拡大していると感心させられる。とともに、そこにはかつてバークリー音大で学んだ素養も生かされているのかとも思ってしまう。

「それは利点になってはいるわね。でも、もともと私はいろんなスタイルの音楽が好き。成長する過程でフォーク、カントリー、ロック、ブルースを聞き、くわえてバークリーではゴスペルを専攻したり、ジャズやミュージカルもやった。大学の先生がオペラ歌手だったので、クラシックの歌い方の知識もあるわよ。それらを抱えつつ、私は心を動かされるような何かを、直感的にやってきたの」

そうしてキャリアを重ねてきて、これは大きな節目であったと思えることはあるのだろうか。

「いくつかあるはね。さっき言ったように、この『Just Won’t Burn』を出したこと。それから、デレクと結婚して、子供を産んだこと。一方では、ちゃんとレコーディングもした。やはり子供を育てながら音楽もやっていく、その両立はやはり大変だった。だからこそ一生懸命頑張ったし、学びもした。それがなんとかできたということは、重要なこと。また、B.B.キングと一緒にツアーしたことも大きいし、なんと言ってもデレクと一緒にバンドを2010年に結成したのは転期よね」

音楽家として妻として母として

音楽家として妻として、そして母として。彼女は女性ミュージシャンとして最良のロールモデルにたりえると思わずにはいられない。

「ありがとう。簡単ではなかったけど、頑張った甲斐があったわよね。結果として、自分の夢が全部叶ったと思っている。子供のころは自分の音楽が出来て、一方で子供が産めたらという夢があった。そして、その両方とも叶えることができたのよね」

最後に、2人の子供たちのことを聞いてみた。やはり、音楽やってるのだろうか。

「いいえ。音楽を聞くことはしているけど、息子は金融の世界に進むの。普通だったら来年の5月に卒業するところ優秀なので、12月に卒業して社会人になる。娘は大学の2年生で、アニマル・トレイナーを目指しているわ。犬も猫も馬も全部好きで、動物好きなの」

両親とは別の道に進む子供たちのことを、微笑みながら語るスーザン。そのサバけた態度も、大好きなことに邪心なく体当たりしてきた彼女らしい心地のあり方だと了解する。そんな彼女、多忙ななかバンド作とは別にまたリーダー作も作りたいという希望ももちろん持っている。

Written By Eisuke Sato

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テデスキ・トラックス・バンド 2023来日公演

名古屋公演
日程:2023年10月24日(火)開場 18:15 /開演 19:00
会場:Zepp Nagoya

大阪公演
日程:2023年10月25日(水)開場 18:15/開演 19:00
会場:あましんアルカイックホール
企画・招聘・制作:ウドー音楽事務所

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