半導体規制を強化する米国、バイデン・習近平両氏の首脳会談に及ぼす影響は? 板挟みの米政府と経済低迷の中国…お家事情が関係悪化の緩衝材に【2023アメリカは今】

2022年11月14日、インドネシア・バリ島で会談した中国の習近平国家主席(左)とバイデン米大統領

 バイデン米政権は10月17日、国家安全保障上の懸念から、先端半導体を巡る中国への輸出規制を強化すると発表した。バイデン政権は昨年10月にも強力な輸出規制を導入したが、今回の措置はそれでも残ったグレーゾーンや抜け道への対応を狙ったものだ。
 米中両国は11月中旬に米サンフランシスコでバイデン大統領と習近平国家主席との首脳会談を模索する中、どのような影響が想定されるのか。米国の有識者らに話を聞いた。(共同通信ワシントン支局 金友久美子)

半導体と米中の国旗(ロイター=共同)

 ▽トランプ政権時代の手法広がり、新次元「10月7日ルール」は日本にも波及
 最初に、これまでの米国の半導体規制を巡る経緯を振り返りたい。バイデン米政権は昨年10月7日に半導体に関する新たな輸出管理規則を発表した。先端半導体やそれを使ったスーパーコンピューター、半導体製造装置が輸出管理の対象となり、中国へ輸出する場合は米商務省に申請しても原則不許可になる事実上の禁輸措置だ。中国の施設で先端半導体の開発や生産の支援を行う米国人の行動も米政府への許可申請対象とした。

 また、日本など米国以外の国を経由した輸出に関しても、米国の技術やソフトウエアを使った機器が中国へと再輸出されることを規制するルールが設けられた。これは、もともと2020年のトランプ政権時代に中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)に対する禁輸措置として実施された手法で、ロシアのウクライナ侵攻以降はロシア向け制裁で多用された。

 昨年10月に公表された一連の対中半導体規制はその広範さから米国内でも衝撃が広がり「10・7ルール」と呼ばれるようになった。米首都ワシントンのシンクタンクなどではこの1年間、「10・7ルール」が政治、経済両面で話題をさらった。米政権が昨年10月以来、半導体製造装置に強みを持つ日本やオランダにも同様の規制を講じるよう協調を求めたことから、影響は米中のみならず、世界的に広がった。

 ▽エヌビディア、キルギスで抜け穴…1年かけて規制更新
 10・7ルールから1年が経過し、今回は規制の抜け穴をふさぐためのさらなる政策更新が施された。主な特徴は4点だ。

 1点目は、人工知能(AI)向け先端半導体での規制強化だ。中国輸出用として規制基準をやや下回る製品が普及したことを受け、基準を変更。さらに「グレーゾーン」と言われるような基準値未満の性能の半導体についても新たに通知対象とした。米半導体大手エヌビディアが中国市場向けに開発したAI用半導体「A800」と「H800」が念頭に置かれている。規制逃れ製品が今後も続く「いたちごっこ」の可能性を見据え、米政府側に禁輸措置の対象を決める権限を幅広く持たせた。

エヌビディアCEOのジェンスン・フアン氏=2022年12月(共同)

 2点目は、第三国を利用した規制回避への対策だ。中国のみならず、米国が武器禁輸先としている43カ国への半導体輸出も規制対象に指定した。中央アジア・キルギスでは半導体貿易が急増し、中国への迂回ルートになっているとの見方が出ていた。

 3点目は、半導体の製造装置に関するもので、新たに規制対象リストに数十の品目を追加した。日本やオランダが米国の要請に応じて規制を強化した結果、むしろ米国のほうが規制対象の範囲が狭くなる事象が発生。これらをカバーするべく、規制範囲を拡大した。

 最後4点目としては、個別企業・団体を対象とした禁輸リストに中国企業を含む13企業・団体を追加し、主にAI技術への締め付けを強めた。

米アリゾナ州フェニックスに新設される半導体工場を訪れたレモンド米商務長官=2022年12月(共同)

 中国政府は昨年10月の米国の輸出規制が不当だとして世界貿易機関(WTO)に提訴した。その上、今年8月には半導体材料に使われる希少金属の輸出規制を始めるなど対抗策を繰り出してきた。今回の米側の規制強化に対しても中国商務省の報道官が10月18日に「輸出規制の乱用で、断固反対する」との談話を発表した。12月からは電池材料に使われる黒鉛の輸出を規制する。

 ▽事前通知を受けた中国にとっては「ノー・サプライズ」との見方
 米中関係は今後どうなっていくのだろうか。輸出管理政策の専門家、米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)のエミリー・ベンソン氏は「今回の規制強化はサプライズでなく、同盟国に説明してきた内容」であり、対話路線の下で事前通知を受けた中国にとっても驚きはなかったと指摘する。中国側がこれまで取ってきた希少金属の輸出規制なども「一種の警告」にとどまり、実際には輸出を承認するとみている。

半導体規制に詳しいCSISのエミリー・ベンソン氏=10月23日、ワシント(共同)

 中国が強硬な姿勢に出られない理由は自国経済にもあるという。中国の経済情勢が大幅に悪化し、「将来の対中投資を抑制するような政策を追求することは中国にとって得策でない」ためだ。11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせて習近平氏が米国を訪問し、バイデン氏との会談も実現可能だと「楽観視している」と話した。

 ▽米国の「小さい庭に高い塀」アプローチは今後広がっていく可能性

米ブルッキングズ研究所のミレヤ・ソリース氏=2021年11月(共同)

 米ブルッキングズ研究所のミレヤ・ソリース上級研究員も「中国は反発するだろうが、今回の規制が両国関係を安定させるための努力を頓挫させることはないだろう」と指摘した。11月の米中首脳会談の可能性は「やはり、あるだろう」とみる。

 一方で、ソリース氏は今回の規制強化が「米国にとって中国との技術競争のジレンマを浮き彫りにした」とも話す。米国内では、競争力低下を危惧する半導体業界を中心に産業界は厳しい規制に反対の立場だ。逆に、米連邦議会では与野党ともに対中強硬姿勢が加速している。バイデン政権は板挟み状態と言える。

 政権内のキーマンで技術規制の中核も担うサリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、規制対象を国家安全保障上の懸念という「狭い庭」に焦点を絞った上で「高い塀(フェンス)」を設けるとの方針を掲げている。

首脳会談へ向かうバイデン米大統領(右)と岸田首相=2023年1月1、ワシントンのホワイトハウス(共同)

 ただ「狭い庭」や「高い塀」がどうなるべきか、正解は分からないまま手探りで進めざるを得ないのが実態だ。ソリース氏は「半導体規制は抜け穴への対処のために定期的に更新した結果、庭が広くなり、フェンスが高くなる可能性が高い」と分析する。規制内容がさらに広がっていけば同盟国が今後さらに規制面での同調を求められる展開も予想される。米中という巨大市場のはざまで、日本企業が思わぬ影響を受ける可能性は否定できない。

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