京都の老舗喫茶「イノダコーヒ」が譲渡で成長軌道に ストライクがセミナー開催

左:イノダコーヒの前田利宜代表取締役社長、右:アント・キャピタル・パートナーズの赤荻貴夫常務取締役執行役員

ストライク<6196>は2023年10月23日に、京都市のホテルグランヴィア京都で「京都の老舗喫茶が目指すファンドとのM&Aによる事業成長」をテーマにセミナーを開催した。

1940年創業のイノダコーヒ(京都市)が、後継者不在による事業承継を目的に、アント・キャピタル・パートナーズ(東京都千代田区)が運営するファンドに株式を譲渡して1年が経ったのを機に実施した。

イノダコーヒは本店が映画に登場したり、常連客に映画関係者らが名を連ねるなど芸術や文化とのかかわりが深い。一方のアント・キャピタル・パートナーズは投資先企業の経営に積極的にかかわり企業価値の増大に全力を尽くすファンドとして知られる。

「M&A先をどのように選んだのか」「M&A後に会社はどう変わったのか」などについて、イノダコーヒの前田利宜代表取締役社長と、アント・キャピタル・パートナーズの赤荻貴夫常務取締役執行役員が、譲渡側、譲受側双方の立場から情報を発信した。

ベクトル合致が決め手に

譲渡先になぜ、アント・キャピタル・パートナーズを選んだのか

イノダコーヒの前田利宜代表取締役社長

前田社長 いくつかの企業様といろいろとお話をさせていただきました。今回、最終的にアント・キャピタル・パートナーズさんに決めさせていただいたポイントは、お互いにきっちりとした準備を行ったところにあります。まずはデューデリジェンス(DD=詳細調査)をきめ細かくやっていただきました。幹部との面談も数多く実施していただきました。これによってイノダコーヒの実態を理解していただき、そこから出てきた課題に対して、一緒になって取り組んでいこうと、ベクトルが合致したのが一番の決め手となりました。

M&Aに至るまでに苦労したポイントは

前田社長 DDですね。かなりの資料を私どもが提出をさせていただきましたけれども、一度でファンドさんが求める資料をなかなか出せませんでした。その時は、何度も何度も話をして、かなりの時間を費やしてきっちりとやりました。この結果、ファンドさんに当社の正しい姿を見ていただけるようになったのではないかと思っています。

投資の基準は

アント・キャピタル・パートナーズの赤荻貴夫常務取締役執行役員

赤荻常務 投資の検討にあたっては大きく二つありました。一つは投資の意義です。イノダコーヒは創業80年を超える実績を持ち、京都を代表するブランドであり、将来に渡って承継していくべきだと強く感じました。もう一つは事業内容です。一般のコーヒーチェーンとは違う非日常感や質の高い商品、サービスなどは非常に差別化されていて、希少価値があります。コロナ禍の中、苦しい時期もありましたが、必ず回復すると思いましたし、業務を少し改善することで、成長率が上がるのではないかと考えました。

苦労したポイントは

赤荻常務 やはりデューデリジェンスですね。多忙な日常業務に加えて、広範囲にわたる詳細な資料の提出をお願いしましたので、大変ご面倒をおかけすることになりました。ただ、前田社長は我々の取り組みを理解し、期待して下さっていましたし、猪田前オーナーが前田さんに実質的な経営権を承継されており、経営としては次の体制が走り始めていたという状況もありました。ですので、むしろ作業はやりやすかったですね。


スピードとコミュニケーションが改善

M&A後の変化は

前田社長 変わったことは二つあります。一つはスピード感です。以前から私なりに速度を上げて進めていましたが、昨年9月末に株式譲渡が終わって新生イノダコーヒになってからは、ギアがさらに二つか三つぐらい上がりました。一部の社員は驚きと不安を持っていましたが、そこはなぜスピード感を持ってやらなければならないのか。やる目的と意義をきっちりと説明していただけたこともあり、うまくいっていると感じています。

もう一つはコミュニケーションが取れるようになったことです。以前はどちらかというとトップダウンで物事が決まるケースが多く、納得感のない中で業務が進んでいました。うまくいっている時はいいのですが、失敗した時に中途半端な責任しか取らないようない状況があり、あまりいい環境ではありませんでした。

これがファンドさんからイノダに入ってきていただいたメンバーの方が、我々と同じ目線で対等に話をしてくださり、私を含めた取締役の発言内容が次第に変わり、行動も変わっていきました。この部分は比較的短期間で成長できたと思っています。外部の方が言うことはよく聞くという家庭教師と同じような状況だと思っています。

赤荻常務 まずは業務執行のスピードです。厳しい環境でやっていくためには、スピードが大事ですので、ここは我々が促進するような形で補佐させていただきました。PDCAサイクルを回して、うまくいかないようであれば、修正するということを今やっています。こうしたサイクルができつつあります。

また、経営の重要な数値の見える化を行っており、経営の指標に基づいて何を実行しなければならないのかを経営幹部が共有して、まさに自分事としてやっていくような意識が浸透してきたのではないかと思います。

今後の展望は

前田社長 とにかく企業価値を上げることです。価値というのは売り上げです。売り上げを増やす一つの手段は今まで以上にイノダコーヒをアピールすることです。その一つがホームページと、オンラインショップの充実です。今のホームページは真面目な感じですので、初めての方にどんな商品なのだろうか、買ってみようかと思ってもらえるようなホームページにしたいと思います。もう一つは改装中の三条支店です。2024年秋にはリニューアルオープンする予定で、今一生懸命やっています。存続が議論になったカウンターテーブルは残すことになりました。

新しい商品もあります。これは久方ぶりにイノダコーヒの定番商品に育て上げたいと思っているもので「イパネマの瑠璃」といいます。今までのイノダコーヒは非常に濃く焙煎をしており、しっかりとした味わいが特徴ですが、今回はすっきりとした味に仕上げています。パッケージも瑠璃色にしてイメージを変えています。これを一生懸命に育て上げようと考えています。店舗についても現在は9店舗ですが、ピーク時は13店舗ありましたので、同じくらいの数にはしていきたいと考えています。

赤荻常務 イノダのブランドをしっかり残していくことが一番大事だと思っています。三条支店のカウンターテーブルの件がありましたけど、お客様がそれを期待されているという声を随分聞きましたので、それに沿った形でやっていただきたいと思っています。

これからM&Aを検討される方に一言

前田社長 今回はファンドさんにお願いしましたが、なぜファンドなのかというと、私のやりたいことを補っていただけるのではないかと思ったからです。その期間は3、4年か、4、5年だと思っています。その先、ファンドさんがエクジットするわけですけども、その時はまたイノダコーヒのことを愛してくれて、お店のことが好きだと言ってくれる事業会社様やファンド様などに委ねられれば、社員も安心するのではないかなと思っています。

赤荻常務 M&Aはゴールに至るまでの、デューデリジェンスや相互理解、対話などが大事だと思っています。我々は会社をご支援したいという思いでお話をさせていただきますが、会社を売却されたい方の思いも当然ありまし、譲渡価格の問題もあります。時間をかけて、しっかり丁寧にすり合わせをしていくのが非常に大事だと思っています。

文:M&A Online

M&A Online

M&Aをもっと身近に。

これが、M&A(企業の合併・買収)とM&Aにまつわる身近な情報をM&Aの専門家だけでなく、広く一般の方々にも提供するメディア、M&A Onlineのメッセージです。私たちに大切なことは、M&Aに対する正しい知識と判断基準を持つことだと考えています。M&A Onlineは、広くM&Aの情報を収集・発信しながら、日本の産業がM&Aによって力強さを増していく姿を、読者の皆様と一緒にしっかりと見届けていきたいと考えています。

© 株式会社ストライク