退職金で資産運用はすべき?老後生活にゆとりをもたらすために知っておくべき3つの注意点

「老後の生活を営むにあたり、これまで形成してきた資産が尽きるまでの期間」を資産寿命といいますが、この言葉をはじめて聞いた方もいらっしゃるかもしれません。長寿化が進む中、いかに資産寿命を延ばすかは、安心して老後を過ごすために考えておきたいことです。

退職金での資産運用は、この資産寿命を延ばす考え方に繋がります。今回は、退職金での資産運用について、メリット・デメリットや注意点を解説します。


老後生活にゆとりをもたらす退職金の運用

厚生労働省が公表している「就労条件総合調査」で、2018年の定年退職者の平均退職金給付額を学歴別にみると、以下となっています。

大学・大学院卒(管理・事務・技術職):1,983万円
高校卒(管理・事務・技術職):1,618万円
高校卒(現業職):1,159万円

退職金の使い道には、「住宅ローンの返済」「生活費」「趣味や娯楽に使う」「貯蓄」そして、「資産運用」などがあります。

総務省統計局「統計からみた我が国の高齢者」によると、2022年の高齢者の就業者数は、2004年以降、19年連続で前年に比べ増加し、912万人と過去最多となっています。定年退職後も働き続ける人が増え、しばらく使わない退職金を投資信託や株で運用する人も増えています。

生命保険文化センターの「2022(令和4)年度 生活保障に関する調査」によると、老後、夫婦2人で暮らしていく上で必要と考えられる最低日常生活費は平均で月額23.2万円となっています。さらに、ゆとりある老後生活を送るには、平均で月額14.8万円の上乗せが必要とあり、あわせると平均で月額38万円になります。

夫婦2人分の厚生年金受給額(老齢基礎年金を含む)の平均は令和5年度で月額224,482円です。退職金を運用して収支のギャップを埋めることができれば、老後生活にゆとりをもたらす効果が生まれます。

退職金を運用するメリットは?

退職金を運用することには、どのようなメリットがあるのか−−ここでは2つに焦点を当てて紹介します。

(1)インフレ対策ができる
円安や原油高などを理由に、物価上昇が著しい昨今。退職後、年金暮らしとなって収入が減った場合、物価上昇は家計に大きな打撃を与えます。

仮に、毎月10万円を年利3%で10年間積み立てると、10年後の運用結果は約1,397万円となります(手数料、税金などは考慮せず)。さらに、その資金を10年間年利3%で取崩して受け取ると、毎月約13.5万円が引き出し可能となります。合計20年間の運用で、1,200万円が約1,620万円の価値になるのです。

一方、2023年10月時点の大手銀行の定期預金金利は0.002%です。金利がこのまま変わらない前提で定期預金に1,200万円預けていたとすると、20年後の利息は4,800円(税引き前)なので、その差は歴然です。退職金を運用することで資産の目減りを防ぐことができ、物価上昇に対応できます。

(2)減少傾向にある退職金を増やすことができる
厚生労働省の就労条件総合調査によると、大学卒(管理・事務・技術職)の退職金の平均額は、2003年が2,499万円、2018年は1,983万円で、15年間で約500万円ほど減少しています。退職金を資産運用することで、減少傾向にある退職金を増やすことができるのです。

退職金の運用はデメリットを理解してから

退職金の運用は、メリットだけを見て始めると、老後生活に大きな影響を与えかねません。退職金を運用する場合のデメリットは、資産運用にはリスクがある、ということです。

2008年9月に発生した100年に一度の金融危機と呼ばれるリーマン・ショックをご存じの方も多いのではないでしょうか。2007年7月には約17,300円だった日経平均株価は、2008年10月には約8,600円にまで下落しました。日経平均はあくまで目安で、実際の株価とは異なりますし、株も売却しなければ損失が確定にはなりませんが、大切な退職金の価値が半分近くになってしまった時、あなたは耐えることができるでしょうか?

退職金はまとまった金額を受け取れるため、金融機関では退職者向けのプランが準備されている場合があります。プランの内容を理解しないまま資産運用を始めて、投資した退職金を大幅に減らしてしまっては元も子もありません。

資産運用にはリスクがつきものであることをきちんと理解した上で始めましょう。退職金で資産運用を始める場合、注意点は3つあります。

(1)リスク許容度を確認する
自分はどれくらいのリスクが許容できるのか確認したうえで、資産運用を始めましょう。大きなリターンを求めると、リスクも大きくなります。退職金で運用を始めた場合、労働収入を得られる期間が短く、大きな損失があったときにリカバリーしにくいため、リスク許容度は低くなりやすいといえます。

(2)資産運用の配分を検討する
退職を機にライフプランを見直し、資産運用の配分を検討しましょう。そして、退職金を含めた家計の金融資産を「生活資金」「使用予定がある資金」「余裕資金」に仕分けし、「余裕資金」から資産運用を始めましょう。退職金という、まとまった資金があったとしても、一気に大きな金額で運用をはじめるのではなく、時間と資産を分散しましょう。

(3)不測の事態に備える
不測の事態に備えつつ、退職金を運用していくことが重要です。高齢化が進み、資産寿命を延ばす手段として運用のニーズも高まっています。しかし、年齢を重ねるほど病気やケガ、認知症発症の可能性が高まります。

金融機関での手続きは原則「本人」がしなければなりません。必要資金が健康上の都合等で手続きができず、出金できなくなっては大変です。このような事態に備え、あらかじめ運用資金とは別で資金を確保しましょう。また、家族に利用している金融機関や保有している運用商品を伝えておくといいでしょう。ネットバンキングを活用すれば、直接店舗に出向かずに手続きができるので、外出がしにくくなったとしてもスムーズに手続きを進めることができます。

運用と並行して、万一のことがあった時の準備もしておくことが本人と家族の安心につながります。

資産寿命を延ばし、ゆとりあるセカンドライフを

冒頭でも申し上げた通り、人生100年時代を生き抜くには、資産寿命をいかに延ばすかが重要なポイントとなります。運用にはリスクはつきものです。退職金は老後生活に使うつもりであれば、リスクをとるのが怖くなる方もいらっしゃるでしょう。

しかし、そのリスクをきちんと理解すれば、退職金を運用するメリットを享受することが可能となります。人生100年時代をゆとりあるものにするために、退職金の運用を一つの手段として活用されてはいかがでしょうか。

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